いくつかの家系の中には 昔 先祖が近くの海に住まう物の怪と契約し、
現世利益を受けたり 祭祀を司る一方で
一年のうちの ある決まった日付の特定の一晩(日没後)に 物の怪が その家系の本家に訪れるので
それ以外の家では
その晩は 決して外を見てはいけない、また物の怪を避ける籠を戸外にかけておく、
またあまり話してもいけないとされ
もし外を見て その物の怪と目を合わせてしまったら
祟られたり 廃人と化してしまう事もあるようですが
伊豆諸島では 島全体で
このような物の怪を避ける 又は迎えて祀る事が行われているそうです。
このような物の怪は 宮地神仙道で伝えられている
海仙界の陰サイドである「大蛇界」に住まうものと推測されます。
以下 コピペです。
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伊豆諸島では1月24日(神津島等は25日)を海難法師が島々を廻る日として畏れられており、
その日は早く床に就いて外出を慎んで静かに過ごす。
これは海難法師という亡霊に遭わないためで、
もしも海難法師に遭ってその姿を見てしまうと凶事が降りかかると云われている。
海難法師の正体については複数の伝説があるが、
その一つに民衆を苦しめた悪代官の御一行だったという伝えがある。
代官が行う厳しい年貢の取り立てに困り果てた島人達は、
この調子で島廻りをされては他島の人にも迷惑が掛かると考えた。
そこで故意に海が荒れる日を選んで島廻りを勧めた。
島人達の目論み通り、代官が乗る船は大きな波にのまれて海の藻屑となったという・・・。
別の伝えでは、代官の無慈悲に憤った25人の若者が暴風雨の日に悪代官を乗せて船を出し、
沖合で船の栓を抜き海に沈めたいう話もある。
義のためとは言え、役人殺しという大罪を犯した若者達を島に上げては、皆が罪を被ることになる。
島人達は若者達の上陸を拒否した。
その結果、若者達を乗せた船は時化の海に飲み込まれてしまった。
若者25人の霊は日忌様と呼ばれ、伊豆大島には祠が祀られている・・・・。
このように海難法師とは島人に恨みを持った海難者の霊であり、
その姿を見てしまった者は気が狂ったり、死んでしまうということだ。
伊豆諸島では1月24日は元々が物忌み(穢れを避け、身を清浄に保つ行為)の日だったらしく、
亡霊や悪鬼、もしくは神々の類が海の向こうから来訪する日であったと考えられている。
御蔵島では海難法師ではなく“忌の日の明神”という
異形の神様が来訪するという云われであることからも、
1月24日が元来どのような日であったかがうかがえる。
いずれにしろ、1月24日は異界からの来訪者が島々を訪れる日で、幸ではなく禍の方を運んで来るようだ。
来訪者の厄災を避けるために、島々の戸口にはトベラという植物を挿す。
トベラは枝を折ると悪臭を放つため、魔除けの効果があると信じられている。
(同様に臭いの強いノビル、棘のあるヒイラギを挿すことも)
現代においても1月24日の禁忌はしっかり守られている。
・玄関に魔除けの植物を挿す
・日が落ちてからは外に出歩かず、決して海を見ない
・静かにして早く寝る
恐るべき物忌む日となっている。
その来訪者の姿であるが、錫杖を持った坊主、代官の一行、海を走るたらいの船、
もしくは25人の亡霊の集団とも云われる。
霊的な来訪者に縁のある旅館や旧家では、
一年に一度、霊を迎え入れて鎮める謎めいた儀式を行うという話である。
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普段付き合いのいい同僚が、何故か海へ行くのだけは頑として断る。
訳を聞いたのだが余り話したくない様子なので、飲ませて無理やり聞き出した。
ここからは彼の語り。ただし、酔って取り留めのない話だったので、俺が整理してる。
まだ学生だった頃、友人と旅に出た。たしか後期試験の後だったから、真冬だな。
旅とは言っても、友人の愛犬と一緒にバンに乗って当てもなく走っていくだけの気楽なもんだ。
何日目だったか、ある海辺の寒村に差し掛かったころ既に日は暮れてしまっていた。
山が海に迫って、その合間にかろうじてへばり付いている様な小さな集落だ。
困ったことにガソリンの残量が心もとなくなっていた。
海岸沿いの一本道を走りながらGSを探すとすぐに見つかったのだが、店はすでに閉まっている。
とりあえず裏手に回ってみた。
玄関の庇から、大きな笊がぶら下がっている。
出入りに邪魔だな、と思いながらそれを掻き分けて呼び鈴を鳴らしてみた。
「すんませーん。ガソリン入れてもらえませんかー?」
わずかに人の気配がしたが、返事はない。
「シカトされとんのかね」
「なんかムカつくわ。もう一度押してみいや」
「すんませーん!」
しつこく呼びかけると玄関の灯りが点き、ガラス戸の向こうに人影が現れた。
「誰や?」
「ガソリン欲しいん…」
「今日は休みや」
オレが言い終える前に、苛立ったような声が返ってくる。
「いや、まぁそこを何とか…」
「あかん。今日はもう開けられん」
取り付く島もなかった。諦めて車に戻る。
「これだから田舎はアカン」
「しゃーないな。今日はここで寝よ。当てつけに明日の朝一でガス入れてこうや」
車を止められそうな所を探して集落をウロウロすると、
GSだけでなく全ての商店や民家が門を閉ざしていることに気付いた。
よく見ると、どの家も軒先に籠や笊をぶら下げている。
「なんかの祭やろか?」
「それにしちゃ静かやな」
「風が強くてたまらん。お、あそこに止められんで」
そこは山腹の小さな神社から海に向かって真っ直ぐに伸びる石段の根元だった。
小さな駐車場だが、垣根があって海風がしのげそうだ。
鳥居の陰に車を止めると、辺りはもう真っ暗でやることもない。
オレたちはブツブツ言いながら、運転席で毛布に包まって眠りについた。
何時間経ったのか、犬の唸り声で目を覚ましたオレは、辺りの強烈な生臭さに気付いた。
犬は海の方に向かって牙を剥き出して唸り続けている。
普段は大人しい奴なのだが、いくら宥めても一向に落ち着こうとしない。
友人も起き出して闇の先に目を凝らした。
月明りに照らされた海は、先ほどまでとは違って、気味が悪いくらい凪いでいた。
コンクリートの殺風景な岸壁の縁に蠢くものが見える。
「なんや、アレ」
友人が掠れた声で囁いた。
「わからん」
それは最初、海から這い出してくる太いパイプか丸太のように見えた。
蛇のようにのたうちながらゆっくりと陸に上がっているようだったが、不思議なことに音はしなかった。
と言うより、そいつの体はモワモワとした黒い煙の塊のように見えたし、
実体があったのかどうかも分からない。
その代わり、ウウ…というか、ウォォ…というか、形容し難い耳鳴りがずっと続いていた。
そして先ほどからの生臭さは、吐き気を催すほどに酷くなっていた。
そいつの先端は海岸沿いの道を横切って向かいの家にまで到達しているのだが、
もう一方はまだ海の中に消えている。
民家の軒先を覗き込むようにしているその先端には、
はっきりとは見えなかったが明らかに顔のようなものがあった。
オレも友人もそんなに臆病な方ではなかったつもりだが、そいつの姿は、
もう何と言うか「禍々しい」という言葉そのもので、一目見たときから体が強張って動かなかった。
心臓を鷲掴みにされるってのは、ああいう感覚なんだろうな。
そいつは、軒に吊るした笊をジッと見つめている風だったが、
やがてゆっくりと動き出して次の家へ向かった。
「おい、車出せっ」
友人の震える声で、ハッと我に返った。
動かない腕を何とか上げてキーを回すと、静まり返った周囲にエンジン音が鳴り響いた。
そいつがゆっくりとこちらを振り向きかける。
(ヤバイっ)
何だか分からないが、目を合わせちゃいけない、と直感的に思った。
前だけを見つめ、アクセルを思い切り踏み込んで車を急発進させる。
後部座席で狂ったように吠え始めた犬が、
「ヒュッ…」と喘息のような声を上げてドサリと倒れる気配がした。
「太郎っ!」
思わず振り返った友人が「ひぃっ」と息を呑んだまま固まった。
「阿呆っ!振り向くなっ!」
オレはもう無我夢中で友人の肩を掴んで前方に引き戻した。
向き直った友人の顔はくしゃくしゃに引き攣って、目の焦点が完全に飛んでいた。
恥ずかしい話だが、オレは得体の知れない恐怖に泣き叫びながらアクセルを踏み続けた。
それから、もと来た道をガス欠になるまで走り続けて峠を越えると、
まんじりともせずに朝を迎えたのだが、友人は殆ど意識が混濁したまま近くの病院に入院し、
一週間ほど高熱で寝込んだ。
回復した後も、その事について触れると激しく情緒不安定になってしまうので、
振り返った彼が何を見たのか聞けず終いのまま、卒業してからは疎遠になってしまった。
犬の方は、激しく錯乱して誰彼かまわず咬みつくと思うと泡を吹いて倒れる繰り返しで、
可哀そうだが安楽死させたらしい。
結局アレが何だったのかは分からないし、知りたくもないね。
ともかく、オレは海には近づかないよ。