借家の相続人が家主との間で借家契約を合意で解除しても、原則として借家人の内縁の夫は依然住み続けることができる (東京地裁昭和63年4月25日判決、判例時報1327号)
(事案)
B子は子供3人と共に借家に居住。昭和23年C男と再婚。C男がB子の家族共同体の一員として借家に住むようになった。子供達は結婚するなどして家を出ていき、Bは53年に死亡した。BとCは世間一般の夫婦と何ら異ならなかったが、事情があって入籍しない、いわゆる内縁の夫婦であった。
したがって、この夫CはBの相続人になれず(内縁を何10年続けても絶対に相続人になれない。内縁の配偶者に何か残したいと思えば遺言するしかない)Bと先夫との間に出来た子供達がBの相続人でありこの子供達がB名義の借家権を相続した(借家権も相続されることは周知のとおり)。
しかし、子供達は家主Aとの間で、相続した借家権を合意で解除してしまった。そこでAは、Bが死亡したあとも1人で居住し続けているCに借家の明渡を求めた。Cは立退く必要があるのか。
(判決要旨)
このような場合、Cは、Bの相続人(右の子供達)が相続した借家権を「援用」して建物に居住し続ける権利を家主Aに対抗することができる(ということは、Cは立退かなくてもよいということ)。では、相続人がこの借家権をAと合意で解除してしまった場合はどうか。Cは「援用」すべき対象を失い、結局立退かなければならないか。判決は、次のような理由でCを救った。
「相続人と家主とが合意解除した以上、常にCは立退かなければならないとすると、借家権援用者Cの立場ははなはだ不安定なものになる。また合意解除の濫用を招いたりする。そうすると借家権の援用を認めた意味がなくなるおそれがある。したがって、合意解除があっても家主は、借家権の援用者Cに立退を求めることはできないというべきである。ただし、援用者Cに不信行為があるなど、相続人と家主とが合意解除することに特段の事情がある場合は、家主は合意解除を理由にCに立退を求めることができる。本件では右の特段の事情はないからAのCに対する立退請求は認められない」。
(短評)
結婚の届出をしないという形式的理由だけで内縁の配偶者に一切の権利を認めないというのはいかにも不合理である。本件でもCが立退かなければならなとすれば酷である。そこでCの権利を保護するためにいろいろな学説がとなえられてきた。
この判決は「援用」の対象たる借家権そのものが合意解除されても原則としてCの立場には影響はないとしたものである。妥当な考え方である。一旦自分の上に合法的に他人の権利が直接又は間接にでも乗った以上、やたらその他人の権利を無視することはできないということである。 1990.04.
(東借連常任弁護団)
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(事案)
B子は子供3人と共に借家に居住。昭和23年C男と再婚。C男がB子の家族共同体の一員として借家に住むようになった。子供達は結婚するなどして家を出ていき、Bは53年に死亡した。BとCは世間一般の夫婦と何ら異ならなかったが、事情があって入籍しない、いわゆる内縁の夫婦であった。
したがって、この夫CはBの相続人になれず(内縁を何10年続けても絶対に相続人になれない。内縁の配偶者に何か残したいと思えば遺言するしかない)Bと先夫との間に出来た子供達がBの相続人でありこの子供達がB名義の借家権を相続した(借家権も相続されることは周知のとおり)。
しかし、子供達は家主Aとの間で、相続した借家権を合意で解除してしまった。そこでAは、Bが死亡したあとも1人で居住し続けているCに借家の明渡を求めた。Cは立退く必要があるのか。
(判決要旨)
このような場合、Cは、Bの相続人(右の子供達)が相続した借家権を「援用」して建物に居住し続ける権利を家主Aに対抗することができる(ということは、Cは立退かなくてもよいということ)。では、相続人がこの借家権をAと合意で解除してしまった場合はどうか。Cは「援用」すべき対象を失い、結局立退かなければならないか。判決は、次のような理由でCを救った。
「相続人と家主とが合意解除した以上、常にCは立退かなければならないとすると、借家権援用者Cの立場ははなはだ不安定なものになる。また合意解除の濫用を招いたりする。そうすると借家権の援用を認めた意味がなくなるおそれがある。したがって、合意解除があっても家主は、借家権の援用者Cに立退を求めることはできないというべきである。ただし、援用者Cに不信行為があるなど、相続人と家主とが合意解除することに特段の事情がある場合は、家主は合意解除を理由にCに立退を求めることができる。本件では右の特段の事情はないからAのCに対する立退請求は認められない」。
(短評)
結婚の届出をしないという形式的理由だけで内縁の配偶者に一切の権利を認めないというのはいかにも不合理である。本件でもCが立退かなければならなとすれば酷である。そこでCの権利を保護するためにいろいろな学説がとなえられてきた。
この判決は「援用」の対象たる借家権そのものが合意解除されても原則としてCの立場には影響はないとしたものである。妥当な考え方である。一旦自分の上に合法的に他人の権利が直接又は間接にでも乗った以上、やたらその他人の権利を無視することはできないということである。 1990.04.
(東借連常任弁護団)
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