大阪にいくときは胸が躍った。
映画をみて夜店をぐるっとひとまわりしたあと、軒先からただよう醤油のかおり。
朱いのれんにらーめんの文字。
汗をかきかき夢中で食べたらーめんが大好きだった。
モノクロテレビ、流行歌、カタカタ、テーブル、カシャカシャ、
スープとコショウのにおいが鼻をくすぐる。
どんぶりから立ち上がる湯気に母ちゃんが僕に笑いかける。
小さいころ、田舎育ちの僕にとってたまのご馳走だった。
ボンネットバスの後ろを追いかけた油のにおい、かまどで焚く薪のにおい、
樹の上の小屋であそんだ葉っぱのにおい、潮がつくった海のにおい。
母ちゃんと二人、小麦畑で昼ごはん、井戸水の清々しいかおり。土のにおい。
そんなひなびた記憶をこの味は思い出させる。