乱鳥の書きなぐり

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『身毒丸 』 折口信夫  10 accident

2024-09-02 | 民俗学、柳田國男、赤松啓介、宮田登、折口信夫
『身毒丸 』 折口信夫  11  そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

 

 

 

 

   「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
   1954(昭和29)年11月
   「折口信夫全集 27」中央公論社
   1997(平成9)年5月




 信吉法師が韜晦してから、十年たつた。



 はある日、ふと指を繰つて見て、十年といふことばの響きに、心の落ちつくのを感じた。

 信吉の馳落ちの噂を耳にしたとき、業病の苦しみに堪へきれなくなつて、海か川かへ身を投げたものと信じてゐた。

 遠い昔のことである。



 ある時信吉法師は寂寥と、やるせなさとを、この親身な相弟子に打ちあけて聞かしたのであつた。

 源内法師は足音を盗んで、身毒の部屋の方へ歩いて行つた。



 身毒は板敷きに薄縁一枚敷いて、経机に凭りかゝつて、一心不乱に筆を操つてゐる。

 捲り上げた二の腕の雪のやうな膨らみの上を、血が二すぢ三すぢ流れてゐた。



 源内法師は居間に戻つた。

 その美しい二の腕が胸に烙印した様に残つた。

 その腕や、美しい顔が、紫色にうだ腫れた様を思ひ浮べるだけでも心が痛むのである。

 そのどろ/\と蕩けた毒血を吸ふ、自身の姿があさましく目にちらついた。

 は持仏堂に走り込んで、泣くばかり大きな声で、この邪念を払はせたまへと祈つた。




 
『身毒丸 』 折口信夫  1  信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。

『身毒丸 』 折口信夫  2  此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。  / 父の背

『身毒丸 』 折口信夫  3  父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。  身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」

『身毒丸 』 折口信夫  4   身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。

『身毒丸 』 折口信夫  5  あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。

『身毒丸 』 折口信夫  6  身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。

『身毒丸 』 折口信夫  7  芸道のため、第一は御仏の為ぢや。心を断つ斧だと思へ。かういつて、龍女成仏品といふ一巻を手渡した。

『身毒丸 』 折口信夫  8  ちよつとでもそちの目に浮んだが最後、真倒様だ。否でも片羽にならねばならぬ。神宮寺の道心達の修業も、こちとらの修業も理は一つだ。

『身毒丸 』 折口信夫  9  放散してゐた意識が明らかに集中して来ると、師匠の心持ちが我心に流れ込む様に感ぜられて来る。あれだけの心労をさせるのも、自分の科だと考へられた。

『身毒丸 』 折口信夫  10  師匠が亡くなつてから、丹波氷上の田楽能の一座の部領に迎へられて、十年あまりをそこで過して居つたが、兄弟子の信吉法師が行方不明になつた頃呼び戻されて、久しぶりで住吉に帰つた。

『身毒丸 』 折口信夫  10 accident

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