
カフカ『突然の散歩』 『カフカ小説全集4 変身』池内紀訳 白水社
夕方要約外出はやめと腹が決まった気がして、室内衣を着こみ、夕食のあと明かりの下に腰をすえ、仕事の片付け、ちょっとした気晴らしを思案した。そのあとは、いつもどおり床につくはず。外は悪天候ときて、がいしゅつしないのはもっともなこと。もうずいぶんテーブルでおとなしくしていたのであれば、いまさら出かけるとなると、家族がびっくりするだろう。すでに会談の明かりも消され、建物の玄関にも鍵がかかっているころ合いだ。ところがやにわに仏頂面で立ち上がり、室内着を脱ぎ捨て、外出用に着替えをすると、出かけなくてはならないと言い放ち、実際、あたふたと出ていき、あわただしくドアを閉める間にも、多かれ少なかれ起こりのまなざしを背に受けていること。通りで気が付くと、予期しない自由を与えられた手足が変に活発に応じてくる。こういった決断一つで自分のなかに、もりもりと決断力そのものが高まってくるとしよう。こんな大きな変化をやすやすと成し遂げるのは、欲求というよりも力があればの事、そのことを、改めてはっきりと思い知ったとしよう。そんな気持ちのまま長い通りを走るように進んでいくときーーーそのとき、この夜見事にわが身は家族からとびび出しており、家族は実態を失ってモーロ―としてくる。ついてはこちらは、今やうしろ手で太ももをたたいたりして、黒々とした輪郭そのままの真の姿に高めるというものだ。
こんな夜更けに、顔を観に友人を訪ねたりすれば、すべてがさらに確乎としたものになるだろう。
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