1990年・夏。
2階の自室のベッドで目を覚ます。
午前7時半、窓からの日差しはすでに強く、今日も真夏日になることを思う。
カットオフしたデニムと、新京極の詩の小路ビルで買ったTシャツに着替え、階下に降りる。
母親との会話もそこそこに、顔を洗う。
寺町通のインド雑貨店で買った布製のあざやかな赤のバッグには、財布と、ウォークマンと、タバコとライター。
自転車で家を出て、バイトへと向かう。学校で禁じられているアルバイト。
朝の北山通を東へ、叡電修学院駅へとこぎ出す。
日差しに、視界が白くなる。
午前8時だというのに、耳鳴りのように激しく蝉しぐれが響く。
ウォークマンの中は、T.REXのブギーアルバム。
ストリートスライダーズのギタリスト蘭丸の影響で聴き始めた。
イヤホンを耳に入れ再生すると、マークボランの暑苦しい声が回った。
テレグラムサム、ジップガンブギー、20thセンチュリーボーイ。
ルーズでちょっと怠惰な音楽が好きだ。
お酒を飲んでもいないのに、ちょっと視界が揺れるような。
酔ってもいないのに、ちょっと遅れて聴こえる気のするルーズなブギー。
自転車のハンドルを握る手の甲が日差しに灼けていく。熱い。
まだ指輪もはめたことがなく、買ったばかりのギターも下手くそな私の白い手。
前方から太陽が照りつけ、蝉時雨で頭が痺れる。さらに気温が上昇するような気さえするねちっこいマークボランの歌い方。
帽子も被らず、日焼け止めさえ塗っていない無防備な高校2年17歳の夏休み。
この時以来、30年経っても、T.REXを聴くたびに、この夏のことを思う。
不可逆に人生が変わってしまう時というのは、案外自分ではそのことに気づいてはいないものだ。
後ろなんてない。明日しか見えていない。
バイト先で、たくさんのロッカー、バンドマンに出会いました。
ブラウンの制服のお嬢さん学校に通っていた私の時空はこの時点で分岐し、並行に走るパラレルワールド(ロック版)へと、さっさと並行移動したようです。
毎年、7月と8月
北山通を通ると思い出す断片的な記憶です。