乗車したら、知的障害のあると思われる陽気な青年が先に乗っていて、
同じバス停から新しく乗り込んだ人全員に、ハイタッチを求めてた。
なにゆえハイタッチ?!
このシュールな展開に目をみはりつつ、
条件反射でハイタッチに応じた。
すると、私が予想外にノリが良すぎたのか、
前方の席に戻った青年は、自分の荷物をまとめて私の隣に移動してきた。
「おぉキミなんで移動してきたん」と言うと
「アツイデスネ」とすごく無邪気な顔で言っている。
これが知的障害のない青年やオッサンだったら
「ちょっとアッチ行ってくれる」と追い払うところだけど、
チカンしようなんて気のさらさらなさげな無邪気な青年だったのでまぁいいかと思った。
青年は自分が書いた学習帳みたいなノートを広げて自慢げに見せてきた。
「今日は掃除をしました今日は味噌汁を飲みました今日は豚肉を食べました今日はしめじを食べました…」
とか子供のような字で改行なくビッシリ埋まってた。
「味噌汁の噌っていう漢字、難しいよな」と言うと
「?」と超無邪気な顔を私に見せていた。
「アツイデスネ」と言うので
「うんアツイな」と返事する、というのを20回は繰り返し。
言葉はあまりしゃべれないみたいで。
知的障害があるからといって差別しないのと同様、
迎合したり、異常に優しくしたり特別扱いしたりもしない。
あめをくれるというので見たら暑さでドロドロに溶けてたので
「溶けてんじゃんかー いらんしー」と返すとキャーっとはしゃいでた。
私の手を握って、握手、握手といって離さないので
「コラコラおんなの手を簡単に握ったらイカンぜ」と離すと
「なんで」という。
「そんなことしてたら、チャラ男やなってモテなくなる」
というと、また無邪気な顔で「?」と見てた。
「ねーさん、今、音楽聞いて妄想しようと思ってたから、そっとしといてな」
と言うと、言う通り横で静かにしてたが、ジーーーっと無邪気なまなこで私を見てる。
「もー!見すぎやねんキミは」と言うと
「水着?」とか言う。
「すき?」と聞くので
「何が?」というと自分を指差してる。
「…きらいではない」
「すき?」
「うんきらいじゃない」
「大好き?」
「・・・・まぁ、すき、くらい」
「だいすき?」
「だいすきではない」
「だいすき?」
「だから、きらいじゃないけど大好きでもない!」
とか延々繰り返していた。
こんな風に、
「俺のことすき?大好き?」ってしつこく迫られたの、何年ぶりだ?
イヤイヤそうじゃなくて…
「…まぁ一期一会だよな」
と独り言を言うと
「苺?」
と超無邪気な顔をしてた。
終点で降りて「バーイ」って言ったら
子供みたいな顔で立ち尽くしてた。