感想:俳人一茶捕物帳-痩蛙の巻

2016-03-19 01:12:26 | ミステリ


俳人一茶捕物帳-痩蛙の巻 笹沢左保
1995年作品


笹沢左保といえば。

日本の高度成長期における男女の愛と死をドライに描いた多作な作家。
しかしながら、代表作をひとつ挙げるとすれば
テレビドラマも大ヒットした『木枯し紋次郎』にほかならない。
時代劇で染み付いた華やかな江戸時代のイメージとは異なり
様々な地の土着の文化をリアルに絞り出した描写が魅力。

つまり歴史作家としても相当に高名で
その深い造詣に基づいた政治風俗の紹介を読むだけでも
非常に面白いし教養にもなる。


元々がミステリ作家ということもあって
捕物作品としての質の高さも折り紙つき。

主人公は俳人として名を挙げる前の若かりし小林一茶。
本行寺なる寺の居候として弥次郎兵衛の偽名を使いながら生きており
奉行所の同心・片山九十郎を悩ませる難事件を
毎度鮮やかに解決していく。



一冊に7篇の短編が収められていて
内容もバラエティ豊か。

安楽椅子推理、暗号、アリバイトリック、
旅情サスペンス、閉鎖空間におけるフーダニット等々
ミステリにおける様々な要素をそれぞれの短編の中に盛り込んでいて
多作な作家として流れるようにアイデアを生み出す豪腕に敬服させられる。

一茶という叙情的な人物をミステリの探偵役に据えることで
読者も作中の事件に対して共に怒り、泣き、笑うことができ
人情譚としても白眉の出来。
事件の真相が見えるとハラハラと涙を流す決めの場面が印象的。

"宵々に見へりもするか炭俵"
等々、各編の最後に実在の一茶の句で締めることで
物語の余韻がさらに濃い輪郭で印象に残る。



文章   ★★★✩
プロット ★★★★
トリック ★★✩
(★5個で満点)
コメント
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