阪口直人の「心にかける橋」

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中田英寿はイチローになれなかったのか?

2006年06月26日 23時00分47秒 | スポーツ
 One for all, all for one.

 ワールドカップにおける日本チームの惨敗は、この言葉に象徴される「チームとしての価値観の共有」に失敗したことが大きな要因に思える。

 さて、大会が始まる前、「中田英寿はイチローになれるのか」というようなテーマの記事を多く読んだ。

 サッカーと野球。分野は違っても、これまでは二人とも、黙々と自分の仕事をする孤高の天才のイメージだった。

 しかし、ワールドベースボールクラッシックで、孤高の存在だったイチローが喜怒哀楽をストレートに表現し、卓越したリーダーシップでチームを引っ張ったこと、また、イチローを中心に世界一を勝ち取った日本チームの結束があまりにも見事だったことから、今度は中田へと期待が高まったのも無理はない。

 もちろん中田英寿はイチローとは別の人格であり、イチローになる必要はないけれど、キャプテンの宮本がいるにも関わらず、中田のリーダーシップが注目されたことは、リーダー論として見ても興味深かった。

 ところが、報道で知る限り、中田はチームに溶け込む努力はしたけれど、誰も彼のやり方にはついて行けず、チームからはすっかり浮いてしまっていたようだ。W杯に賭ける思いの違いにフラストレーションを募らせ、途中からは、「勝手にしろ」とばかり、仲間とは完全に壁を作ってしまった。そんな報道が繰り返されるたびに不信感が生まれ、ますます中田は孤立する。その悪循環が日本代表からエネルギーを奪ってしまったのではないか。

 私は良いリーダーの条件として、まわりを輝かせる能力を持っていることが重要だと思う。自分たちの部下の輝きに照らされてこそ、リーダーの存在も輝く。しかし、中田は結果として逆の状況を作ってしまったようだ。

 もっとも、ふたりが置かれた状況、そして野球とサッカーの競技自体の違いも考慮しなくてはならない。

 84年ぶりにメジャーリーグの安打記録を塗り替えたイチローは32歳にしてすでに伝説である。川崎や青木、西岡などの若手選手を中心に、全員が憧れ、少しでも近づこうとすることでチームに運動エネルギーが生まれた。イチローのプレーの質は明らかに他の選手とは違う。そんな彼がチームに飛び込み、あくまでも熱く、時におちゃめにメッセージを伝え続けた。それを嬉々として受け入れた他の選手によって、イチローのリーダーシップも輝いた。

 一方、ヨーロッパではなかなか出場機会さえもない中田。彼が代表チームに入るたびに不協和音が生じ、また、ジーコ監督がそんな中田を重用することで、チームには不満が渦巻いた。また、容赦なく仲間を批判する彼の言葉も、挑発的、独善的に響いた。

 その結果が一次リーグでのあまりにも惨めな敗退。

 守備も攻撃も役割がしっかりと決まっている野球とは違って、サッカーはゲームの展開に合わせて、様々な役割を演じなくてはならない。試合を観る限り、中田は誰よりも走り、ボールを奪う「土」の役割を演じていた。しかし、FWが機能せず、勝つためには中田自身が「花」にもならなければならない。そんな役割が、代表チームの中で破綻してしまったこと、それが何とも気の毒に見えた。

 One for all, all for one.

 これはラグビーにおけるチームプレーの精神をあらわす言葉だ。ラグビーにおいては、才能のきらめきを持った選手とともに、痛いプレー、地味なプレーをひたひたとやり抜く選手、つまり「土」に徹する選手がより多く必要だ。昨年、私を感動させてくれた早稲田大学のラグビーチームでは、それまでは「花」のひとりであった佐々木隆道が、キャプテンになってからは「土」に徹し、背中でチームを引っ張る役割に徹していたことが印象的だった。

 日本チームは一次リーグで惨敗。中田英寿は、期待されていた「イチロー」にはなれなかった。しかし、彼が最後まで黙々と走り、チームメートを鼓舞し続け、最後はピッチに倒れ込んで号泣していた姿、それは皮肉にも、今大会の日本チームが見せた、唯一心に響くシーンだったような気がする。


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