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博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『文書行政の漢帝国』

2010年06月27日 | 中国学書籍
冨谷至『文書行政の漢帝国 木簡・竹簡の時代』(名古屋大学出版会、2010年3月)

本書は『木簡・竹簡の語る中国古代』の続編的な書であり、「視覚木簡」を主要なキーワードとして、漢代の行政文書としての簡牘の利用法や、簡牘の利用に裏づけられた当時の行政について論じています。以下、本書で個人的に面白かった部分をメモ替わりに羅列しておきます。

○檄とは細長い多面体の木簡で、掲示によって書かれてある文章が人目に触れるようにした「視覚木簡」の一種であり、また文書の一形式でもある。

○檄には最初の発信の日時など敢えて秘匿されている部分があるが、これは配下の者に情報を曖昧に伝えることで緊張感を持たせるテクニックであり、『韓非子』に見える人心掌握述に通じる。

○『急就篇』と『千字文』はそれぞれ性質の異なる識字学習書であり、『急就篇』は役人が文書作成を学ぶためのもので、『千字文』は初学者のためのもの。

○史書は隷書で書く際に懸針や波磔を巧みに用いる書法で、行政文書特有の書法であった。

○亭は経書には見えず、自然発生的にではなく、極めて人為的に定められた機関である。

○睡虎池秦簡などこれまで出土した秦簡はあくまでも秦律の一部で、史料としての利用はできるだけ禁欲的であるべきである。

○漢代には簡牘の立体としての特色をフルに生かした文書行政が施行されていたが、それは紙が決して取って代わることの出来ない機能であった。そして簡牘から紙へという書写材料の変化は、漢的な文書行政の終焉、更には漢帝国自体の終焉をも意味した。
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