博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『正倉院文書の世界』

2010年07月20日 | 日本史書籍
丸山裕美子『正倉院文書の世界』(中公新書、2010年4月)

奈良時代・平城京つながりということで、『木簡から古代がみえる』に続いて本書を読んでみることに。

正倉院文書というのは文字通り(主として)正倉院に保管されていた古文書のことですが、紙が貴重だった当時、表面を使用した後にリサイクルに回され、裏面に別の文書が書かれ、しかも文章量の多少に合わせて紙を切ったり継ぎ合わせたりしたので、表面に記された文書を拾い出そうとすると、紙を切ったり継ぎ合わせたりの過程を復原するというパズルのようなことをしなくちゃならないという、とても面倒な史料なのであります。現在正倉院文書の多くは『大日本古文書』の中で活字におこしたうえで出来る限り元の順番に復原されているのですが、それでも誤りは免れないとのこと。

むかーし大学院の講義で正倉院文書に触れた時、「こんな面倒臭そうな史料を扱うなんてごめんだなあ」と思っていましたが、その正倉院文書の概説書が本書。

本書で面白かったのは東大寺写経所の写経生の日常。一見写経するだけで充分な給料が出て、おまけに朝晩の食事と昼のおやつも付いてくるという理想的な職場のようですが、その実態は写経中に誤字脱字が発見されると規定に応じて給料から多額の罰金がさっ引かれ、食事も段々と粗末なものになっていき、おまけに給料も規定分が出ていなかったのか、前借りする者が続出。それで写経生が一致団結して待遇改善を求める始末。規定上の待遇と実際の待遇が一致しないのは昔からだったようです……

本書でもう一つ印象に残ったのは、正倉院文書に何度も顔を出す「安都雄足(阿刀男足)」なる人物。当初写経所の舎人であったのがおそらく藤原仲麻呂とのコネクションを得たことによってトントン拍子に出世し、越前国史生・造東大寺司主典を歴任し、法華寺金堂や石山寺の造営にも関わった人物。職務のかたわら私田の経営や高利貸しなんかもしていてブイブイ言わせていたのが、藤原仲麻呂の乱の前あたりから名前が見えなくなる。そういった人物です。

史書に見えない人物が大きくクローズアップされるのがこの手の史料の魅力だったりするのですが、私の専門の西周金文でも一人の人物の足跡を追って時代の風潮を描き出せたら面白いだろうなあと思うのですが……
コメント (4)
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