博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『白川静の世界1』/『書誌学のすすめ』

2010年10月10日 | 中国学書籍
取り敢えず入院先より一時帰宅しました。明日の午後にはまた病院に戻ります。で、帰宅している隙に入院中に読んだ本の感想をアップしときます。

立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所編『入門講座 白川静の世界1 文字』(平凡社、2010年10月)

生誕100周年・没後5年と区切りの良い年であるせいか、ここんところ白川静関係の書籍や雑誌の特集号が出まくってますが、文字学や中国古代史の専門家があまり絡んでいないせいか、これらの本を読んでいても評価のポイントがズレているような気がしてどうにもしっくりきません。

で、その筋の専門家が絡んでいる本書ならと思って読んでみたのですが……「白川文字学の特色と独自性」は、「研究資料として甲骨文・金文を利用すること、民俗学・文化人類学などを応用すること、字形の分析を中心とすること、研究成果を一般向けに積極的に公開すること」……特に1番目については色々とナメとんのかとツッコミたい(^^;)

2番目にしても、大陸での古史研究においてはむしろ王道とされる手法ではないかなと思ったり…… 白川静の研究は日本の文字学よりも中国での古史・古文字研究の文脈の中にあてはめた方がしっくりくると思うんですよ。白川先生自身も藤堂明保なんぞよりも郭沫若とか于省吾・楊寛らの研究動向の方をよっぽど気にしていたと思いますしw 今回の本ではそういう指摘があるかなあと思いましたが、全くありませんでしたorz

あと、郭店楚簡発表以後の近年の文字学の傾向については当然のことながらスルー。このあたりの白川文字学が絡みようのない近年の研究成果の紹介はこれからの課題ということになるんでしょうなあ。

高橋智『書誌学のすすめ 中国の愛書文化に学ぶ』(東方選書、2010年10月)

東方書店発行の『東方』での連載をまとめたもの。漢籍のコレクションと文献学に人生が破滅するほど魅せられてしまった人々の物語がこれでもかこれでもかと語られます。 

中国学では「易と説文には淫するな」という言葉があります。『易経』と『説文解字』の研究は奥が深く、人生が破滅するほどのめり込むから迂闊に手を出すなということなんですが、本書を読んで蔵書趣味と文献学の方がよっぽど危険ではないかと思いました(^^;)

「私人の蔵書は常に散佚する運命にある」という本書の言葉と、取り上げられているその実例に世の無常を感じた次第……

あと、本書でウケたポイント。自著の原稿を人に見せて意見を募って訂正を加えていき、最後に出版に至って悦に入るのが中国の文人。ひたすら自分で原稿に訂正を加えていくが、なかなかその出来映えに満足がいかず、とうとう出版に至らないまま著者が没っしてしまうのが日本の学者。両国の人の気質の違いが見えるようで面白い(^^;)
コメント (24)
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