博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2020年8月に読んだ本

2020年09月01日 | 読書メーター
仙侠五花剣仙侠五花剣感想紅線、黄衫客といった唐代伝奇の剣仙たちが自分たちの剣を授ける義侠の士を求めて下界に降り立ち……ということで始まる武侠物。清末の作品だが、ミニ八犬伝という感じで短くまとまっていて読みやすい。現在の武侠物、玄幻物のルーツに触れるのに良い素材。読了日:08月01日 著者:海上剣痴

范仲淹 (中国歴史人物選)范仲淹 (中国歴史人物選)感想范仲淹の生涯とともに、対西夏防備、慶暦新政といった彼の事績、そして諫官の設置とその影響、朋党をめぐる論争などの彼の生きた北宋前半期という時代の気風、劉太后、呂夷簡ら関係人物の評価が手堅くまとめられている。中国時代劇『清平楽』の副読本として最適。読了日:08月03日 著者:竺沙 雅章

ドキュメント武漢:新型コロナウイルス 封鎖都市で何が起きていたか (平凡社新書)ドキュメント武漢:新型コロナウイルス 封鎖都市で何が起きていたか (平凡社新書)感想この半年ほどの武漢、あるいは中国の状況を現地リポートを交えつつ振り返る。社区と小区、中央と地方との緊張関係、なければないで困る全人代など、現地の政治・社会事情を的確に説明しつつまとめられている。感染者の統計をめぐる批判は、現在の東京、あるいは日本全体の統計のあり方に対する「ブーメラン」として返ってきそうだが。内容的にはオーソドックスで新味はないが、それだけに将来的には記録として価値が出てくるかもしれない。読了日:08月07日 著者:早川 真

教養としての歴史問題教養としての歴史問題感想歴史認識、歴史修正主義などの歴史問題を、社会学、歴史学、ジャーナリズムの立場から、あるいは海外との比較から語る。辻田氏の、実証主義の立場がもてはやされているのは実のところ実証が物語を征伐したという物語が受けているのではないかという指摘や、座談会での、歴史学にとって事実と物語の関係は昔からの大きなテーマだったはずという指摘が刺さる。ただ、歴史修正主義が史実を重視しないとか専門知を軽んじているという理解は少し違っていて、彼ら自身が史実・専門知を体現していると思い込んでいるのが問題の根幹ではないか。読了日:08月10日 著者:前川 一郎,倉橋 耕平,呉座 勇一,辻田 真佐憲

礼とは何か: 日本の文化と歴史の鍵礼とは何か: 日本の文化と歴史の鍵感想門外漢による中国古代の「礼」入門ということで恐る恐る手を付けたが、日本史研究者の視点による、『礼記』『左伝』の記述を利用した「礼」の整理・学習ノートといった趣きで、「礼」とはどういうものかがよく整理されている。細々とした問題点がないわけでもないが、質的に有象無象の『論語』本などとは一線を画している。本書の中身がどうというよりも、これを基礎として著者が今後どういう研究をされていくのかが重要。読了日:08月14日 著者:桃崎 有一郎

避けられた戦争 ──一九二〇年代・日本の選択 (ちくま新書)避けられた戦争 ──一九二〇年代・日本の選択 (ちくま新書)感想満州事変、そしてそれに続く日中戦争、太平洋戦争を避ける道はあったのかを、1920年代の外交史から探る。戦争へと突き進むことになったポイントとしては、旧外交から新外交への乗り遅れ、満蒙特殊権益への固執、蒋介石による国民革命の過小評価ということになるようだ。同時代の英国のように帝国縮小戦略は採れなかったのかという指摘は面白い。そしてエピローグでの、世界恐慌後のブロック経済化が日本を戦争へと追い込んだというよりも、満州事変が世界のブロック経済化を促したという指摘も重要。読了日:08月17日 著者:油井大三郎

ペルシア帝国 (講談社現代新書)ペルシア帝国 (講談社現代新書)感想ハカーマニシュ朝、そしてアルシャク朝を挟んでサーサーン朝と、2つの帝国の歴史と支配者たちを描き出す。中国王朝に引きつけた例えが目立つが、本書での帝国の都市化の進展、貨幣経済の浸透と税の銀納に関する指摘を見ていると、西アジアの先進性に着目した宮崎市定の歴史観を連想させる。本書によると、そのエーラーン帝国の遺産を丸ごと継承したのがアラブ人イスラーム教徒と位置づけられるということであるが。読了日:08月22日 著者:青木 健

香港とは何か (ちくま新書1512)香港とは何か (ちくま新書1512)感想同レーベルの近刊『香港と日本』と比べると、日本の読者を意識した客観的な解説になっており、安心して読める。日本との関わりも、周庭氏らが日本のアニメやアイドルが好きという話にとどまらず、香港デモと安田講堂事件との意外なつながりなど、興味深い話題を盛り込んでいる。香港と大陸との関係悪化はボタンの掛け違いを重ねた末という印象を受けるが、今後のシナリオとして、マカオ化、北アイルランド化、沖縄化などの方向を提示するのはまとめ方としてうまい。読了日:08月24日 著者:野嶋 剛

人口の中国史――先史時代から19世紀まで (岩波新書 (新赤版 1843))人口の中国史――先史時代から19世紀まで (岩波新書 (新赤版 1843))感想一応中国史の全時代を範囲としており、三国時代の前後に人口が急減しているのは、戦乱で本当にそれだけの人間が死んだわけではなく、王朝が把握できる人口が減ったということを示すというお馴染みのネタも盛り込まれているが、主な読み所は18世紀の人口爆発とそれ以後の展開。従来人頭税の廃止が人口爆発の理由とされていたのが、それは一時的なものにすぎないと、別の背景を模索していくが、そこで生態環境史や地域ごとの産業や移民の問題など、様々な視点が提示される。人口史からの話の広がりが面白い。読了日:08月26日 著者:上田 信

民衆暴力―一揆・暴動・虐殺の日本近代 (中公新書 (2605))民衆暴力―一揆・暴動・虐殺の日本近代 (中公新書 (2605))感想新政反対一揆、秩父事件、日比谷焼き打ち事件、関東大震災時の朝鮮人虐殺と四つの事件を扱うが、最も重要と思われるのが朝鮮人の虐殺。日頃の朝鮮人蔑視と恐怖がベースになっていたこと、政府や警察が誤情報を流し、直接間接に虐殺に関与したこと、また三・一運動の頃の朝鮮統治に関わった人々が震災当時の治安維持を担ったことで、朝鮮人にテロリストというイメージ、予断が結びつけられたことを指摘する。これを踏まえると、昨今のスリーパー・セル言説がいかに罪深いものであるかと思わざるを得ない。読了日:08月28日 著者:藤野 裕子
コメント
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