博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2016年2月に読んだ本

2016年03月01日 | 読書メーター
韓流スターと兵役 あの人は軍隊でどう生きるのか (光文社新書)韓流スターと兵役 あの人は軍隊でどう生きるのか (光文社新書)感想
有名タレントといえども避けては通れない(はずの)韓国の徴兵制をわかりやすく解説している。兵役の期間は過去の36ヶ月から現在の21ヶ月(いずれも陸軍の場合)と段階的に減少していること、また同時に兵力の削減も段階的に進められており、代替勤務制度の拡充が望まれていることなど、日本で徴兵制を導入しようという動きに対する反論材料として重要な指摘もある。ただ、戦前の日本や現代の諸外国の徴兵制と比較しようという視点が欠けているが残念。たとえば本書でも触れられている現役と予備役の違いは、戦前の日本の軍隊でも存在した。
読了日:2月1日 著者:康熙奉
古文書はいかに歴史を描くのか―フィールドワークがつなぐ過去と未来 (NHKブックス No.1236)古文書はいかに歴史を描くのか―フィールドワークがつなぐ過去と未来 (NHKブックス No.1236)感想
フィールドワークによる古文書の所蔵調査、古文書の整理と区分、古文書の読解、そして研究の成果のフィードバックと、古文書を利用した歴史学の研究とはどのような営みなのかがまとめられている。本書で紹介されている諸例から、史料はその所蔵されていた土地に根ざしたものであるということがよくわかる。また、文献史学もある段階まで進めば考古学と変わらなくなってくるのだなとも感じた。
読了日:2月4日 著者:白水智
灰塵の暦: 満州国演義五 (新潮文庫)灰塵の暦: 満州国演義五 (新潮文庫)感想
日中戦争から南京事件へ。綏遠事件に関し、満州国国務院外交部に転任した太郎が、『東京朝日新聞』の社説で事件の詳細が知らされていないのは日本人だけと訴えているのを踏まえて、関東軍に公式発表を迫ると、関東軍側が社説を書いた人間を締め上げなきゃいけないと嘯く場面が印象的。今でも国内の重要事件の情報提供は海外メディアが頼りという状況は変わっていないのではないだろうか。
読了日:2月8日 著者:船戸与一
キリスト教と戦争 (中公新書)キリスト教と戦争 (中公新書)感想
イエスの時代から十字軍・宗教改革を経て現代まで、取り扱う時代は幅広いが、第6章で扱う明治以後の日本のキリスト教徒と戦争との関わりの話が興味深かった。本書によると、戦前の日本軍の内部でもキリスト教の伝道が行われ、現代の自衛隊にもキリスト教徒によるサークルが存在すると言う。キリスト教と軍事の深い関わりからして、武士道とキリスト教の教えに親和性があるというのも不自然な発想ではないだろう。
読了日:2月10日 著者:石川明人
帝国議会 〈戦前民主主義〉の五七年 (講談社選書メチエ)帝国議会 〈戦前民主主義〉の五七年 (講談社選書メチエ)感想
議会政治史・政党史といった通史的な内容よりは、代議士と「カネ」の問題・弁論・議会改革の流れといった各論が読みどころ。特に弁論に関しては、英米の政治家の弁論との比較、「漢文脈」との関連など、分析のしかたが面白い。対句の多用については、孫文・毛沢東といった中国の革命家や、現代中国の政治家の弁論と比較してみるのも面白いかもしれない。
読了日:2月12日 著者:村瀬信一
概説中国史〈下〉近世‐近現代概説中国史〈下〉近世‐近現代感想
上下巻合わせての感想。同じく昭和堂から2005年に初版が出た『中国の歴史』上・下の新版という位置づけだが、前著では1990年代以前の論調を引きずっっている面があったのに対し、今回はほぼ完全に90年代以降の論調に切り替わっている。前著には「唐宋変革について」という一節が下巻の冒頭にあったが、今回は時代区分論に関する解説がないのは、その象徴だろう。
読了日:2月17日 著者:
美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには (ちくま新書)美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには (ちくま新書)感想
本職の美術館長が、学芸員の業務の実際、日本で新聞社が特別展の主催者となっている歴史的経緯、美術品の保存と修復、美術品の寄贈・寄託・購入、贋作問題など、美術館にまつわるトピックを総ざらい。展覧会の娯楽性と学術性とのバランスの難しさは、学術に携わる人間すべてが共有する問題だろう。
読了日:2月18日 著者:高橋明也
中華帝国のジレンマ: 礼的思想と法的秩序 (筑摩選書)中華帝国のジレンマ: 礼的思想と法的秩序 (筑摩選書)感想
同内容の学術書とほぼ同時刊行というチャレンジングな試み。タイトルは内容と合ってないわけではないが、やはりタイトル詐欺の批判は免れないと思う。しかし書店の反中本の棚にしれっと置かれることを期待するならば、こういうのもアリかもしれない。中身は著者冨谷氏のこれまでの著書の集大成的な性格。中国の法の起源は果たして盟誓かという疑問、礼と法との交錯が読みどころ。
読了日:2月21日 著者:冨谷至
貨幣の条件: タカラガイの文明史 (筑摩選書)貨幣の条件: タカラガイの文明史 (筑摩選書)感想
中国のタカラガイ貝貨というと殷代のそれが思い浮かぶが、本書が主に取り扱っているのは、雲南で唐代あたりから明末清初のあたりまで用いられた貝貨。タカラガイの民俗に関連して、著者によるフィールドワークの成果の紹介など、とりとめのない話が割と続く。著者自身はそれを柳田国男の影響とするものの、系譜としてはフレイザーの『金枝篇』からの流れと位置づけた方がよいかもしれない。
読了日:2月24日 著者:上田信
六国史―日本書紀に始まる古代の「正史」 (中公新書)六国史―日本書紀に始まる古代の「正史」 (中公新書)感想
著者のもともとの専門は『日本書紀』ということで、残りの五国史、そして第4章で扱う六国史後のことはどうかなと思っていたら、意外にも『日本書紀』以後の部分の方が面白く読めた。特に第4章では『源氏物語』が実際の歴史にあてはめて読まれたことや、中国・台湾と日本との「正史」のスタンスの違いなど、面白い論点を含んでいる。ただ、日本の「正史」に連なるものとして、天皇の実録編纂事業について論じられていないのが残念。
読了日:2月27日 著者:遠藤慶太
江戸しぐさの終焉 (星海社新書)江戸しぐさの終焉 (星海社新書)感想
前著『江戸しぐさの正体』刊行以後の状況解説というか追加報告。「江戸しぐさ」の教育現場への普及については、「江戸しぐさ」が「親学」と結びつけられた形で普及が進められたことを踏まえると、イデオロギーの左右を問わず、学校教育に道徳性とか感動を過剰に求める態度が問題の根としてあるのではないか。この点は昨今問題となっている組み体操の「高層化」とも通じるものがあるだろう。
読了日:2月29日 著者:原田実


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