小池和夫『異体字の世界』(河出文庫、2007年7月)
JIS X 0213(JIS第3・第4水準漢字)の開発に関わった著者による漢字本です。明治以後の漢字の整理作業によって日本の「正字」が制定されるまでの流れと、それにまつわる悲喜劇をまとめています。
現在の漢字にまつわる混乱は、人名・地名用異体字の細かさと、手書きの文字と活字とは違うということが充分に認識されていないことが原因となっているとしています。それによって明治以後、手書きによる書体を活字に取り入れるといったことが普通に行われてきました。
例えば部首の「しんにょう」は、手書きの場合は上部の点は一つだけで下の部分はくねらせる辶の形で書かれ、活字の場合は直線的に彫るために辶と点を二つにしていたのですが、現在では活字でも手書きの形に近づけて点が一つにされてしまいました。また、 害の字は、『康熙字典』では 害と縦棒が突き抜けた形になっており、これは活字を小篆の字形に合わせたもので、この形が正しい字形だとされていますが(白川静なんかもそのように主張していますね)、手書きでは古くから縦棒が突き抜けない害の形で書かれてきて、こちらもそれなりに由緒があるわけです。
色々と批判が多い昭和21年公布の『当用漢字表』の字体ですが、これは巷間に言われているように戦後のどさくさに紛れて突然出来たものではなく、またこれに含まれている略体などもその多くは古くから用いられてきたものです。これらの字体が正字となって既に60年経つのに、未だに旧字を正字と言い張る人がいるのは一体どういうことなのか?また人名・地名用異体字について、点が一つ多いとか少ないといったことで個人や土地のアイデンティティが決定されてよいものなのか?こういうおかしなこだわりによって、特にコンピュータによる円滑な情報処理が阻害されるのは問題ではないか。日本は国際規格であるユニコードの字体を取り入れずに独自規格を作り上げてきたが、これも電脳上の字体の混乱の原因となっているなど、様々な点に著者による批判が加えられます。
私も旧字や異体字に必要以上にこだわる向きには違和感を抱いていたので、よくぞ言ってくれたという感じです(^^;) (お断りしておきますと、著者はそういう前提をふまえたうえで旧字を愛好するのはアリだとしています。)
JIS第3・第4水準開発時の裏話などもちょこちょこと触れられてますが、別機関で戸籍電算化のための調査が進められていたので、その調査資料を流用しようとして断られたとか、資料不足のせいで姓氏用のある文字が誤字であることに気付かず、第4水準の文字として採用してしまったとか、トホホなエピソードが目立ちます……
JIS X 0213(JIS第3・第4水準漢字)の開発に関わった著者による漢字本です。明治以後の漢字の整理作業によって日本の「正字」が制定されるまでの流れと、それにまつわる悲喜劇をまとめています。
現在の漢字にまつわる混乱は、人名・地名用異体字の細かさと、手書きの文字と活字とは違うということが充分に認識されていないことが原因となっているとしています。それによって明治以後、手書きによる書体を活字に取り入れるといったことが普通に行われてきました。
例えば部首の「しんにょう」は、手書きの場合は上部の点は一つだけで下の部分はくねらせる辶の形で書かれ、活字の場合は直線的に彫るために辶と点を二つにしていたのですが、現在では活字でも手書きの形に近づけて点が一つにされてしまいました。また、 害の字は、『康熙字典』では 害と縦棒が突き抜けた形になっており、これは活字を小篆の字形に合わせたもので、この形が正しい字形だとされていますが(白川静なんかもそのように主張していますね)、手書きでは古くから縦棒が突き抜けない害の形で書かれてきて、こちらもそれなりに由緒があるわけです。
色々と批判が多い昭和21年公布の『当用漢字表』の字体ですが、これは巷間に言われているように戦後のどさくさに紛れて突然出来たものではなく、またこれに含まれている略体などもその多くは古くから用いられてきたものです。これらの字体が正字となって既に60年経つのに、未だに旧字を正字と言い張る人がいるのは一体どういうことなのか?また人名・地名用異体字について、点が一つ多いとか少ないといったことで個人や土地のアイデンティティが決定されてよいものなのか?こういうおかしなこだわりによって、特にコンピュータによる円滑な情報処理が阻害されるのは問題ではないか。日本は国際規格であるユニコードの字体を取り入れずに独自規格を作り上げてきたが、これも電脳上の字体の混乱の原因となっているなど、様々な点に著者による批判が加えられます。
私も旧字や異体字に必要以上にこだわる向きには違和感を抱いていたので、よくぞ言ってくれたという感じです(^^;) (お断りしておきますと、著者はそういう前提をふまえたうえで旧字を愛好するのはアリだとしています。)
JIS第3・第4水準開発時の裏話などもちょこちょこと触れられてますが、別機関で戸籍電算化のための調査が進められていたので、その調査資料を流用しようとして断られたとか、資料不足のせいで姓氏用のある文字が誤字であることに気付かず、第4水準の文字として採用してしまったとか、トホホなエピソードが目立ちます……