2024/10/31
再審無罪が確定した袴田巌さんの
ドキュメンタリー映画が
渋谷ユーロスペースで公開されているので
見に行ってきました。
題名の拳はボクシング
祈りはクリスチャンの洗礼を受けたことを
示しているのでしょうか。
ほんとうによい映画でした。
わけもなく涙が出てくる場面が
いくつもあって
それは悲しい場面ではなく
巌さんが無心に菓子パンを食べていたり
秀子さんに世話されている場面だったり。
袴田さんにとっては長い間
得られなかった平穏な暮らしだと
思うと涙が出てきてしまうのでした。
人の本来の性質というものは
拘禁反応で意思の疎通ができなくても
雰囲気に醸し出されるものです。
袴田さんはプロボクサーだったけれど
戦闘的なタイプの人ではなく
戦闘的なタイプの人ではなく
もともと温和な人だったのではと
感じたのですよ。
ボクシングで鍛えた
頑強な体と精神があったので
ここまで過酷な運命を生きながらえて
こられたのだと思います。
多くの印象に残る場面があり
いろいろなことを感じたのですが
そのなかのひとつ。
無罪を確信しながらも
一審で死刑判決を書いた
熊本典道裁判官のこと。
3人の裁判官のうち
他の2人が死刑としたので
この熊本裁判官は先輩裁判官に
押し切られて死刑判決文を書いたのです。
それ以来ずっと
悔恨の念を抱き続けた人生でした。
その悲し気な風貌に胸を突かれました。
巌さんが2018年のある日
「ローマに行く」と言ったので
秀子さんは巌さんを連れて
新幹線に乗りました。
ローマとは福岡でした。
福岡の病院で重病の床にいる熊本裁判官
の見舞いに行ったのでした。
「悪かった、悪かった」と
ベッドで泣く裁判官と励ます秀子さん。
無言だけれど穏やかな目で見つめる巌さん。
その目には優しさが見て取れました。
自責の念がこんなにも
人を痛めつけてしまうのか
という驚きとともに
自分は間違ったことはしていないという
信念は人を強くするのではと
巌さんや秀子さんを見て感じたのでした。
映画では語られなかったのですが
この熊本裁判官は死刑判決を出したことに
苦しんで、裁判官を辞めて酒におぼれ
家族を崩壊させ自殺未遂をし
行方不明となってしまう人生を送ったのです。
・・・・・・・・・・・
映画の編集もとてもいいと思いました。
監督の笠井千晶さんは新卒で
SBS静岡放送に入社し、報道記者として
ニュースやドキュメンタリー番組に
携わりました。
秀子さん、巌さんのマンションに
店子として住んでおられたとか。
2人の普段の日常を撮れるのは
よほど親しい人でなければ
できないことですね。
その意味でも長い間
密着していたんだなあと感心します。
秀子さんの明るさ、強さもいいですね。
明るく振る舞う秀子さんも
殺人犯、死刑囚の家族といわれ
長く苦しい時期があったはず。
それでも無実を信じる多くの支援者が
秀子さんを勇気づけていたことでしょう。
「自由にさせることが巌にとっての薬」
と言って自由にさせてやるのも
姉ならではのいたわり。
それにしても、この姉弟は
なんという過酷な運命を
送ったことかと思います。
無実が確定した今後は
安心して幸せに暮らしてもらいたいと
心から願っています。
浜松のK子さんによると
浜松では毎日のように
袴田さんのニュースをやっていて
袴田さんが街中を歩いているところを
見かけたことがあるそうです。
映画では浜松駅やアクトタワー
浜名湖、市内の風景、浜松祭りの様子など
私にとっても懐かしい風景がありました。