顎鬚仙人残日録

日残りて昏るるに未だ遠し…

蕎麦4題…「ざる」と「もり」との違いなど

2024年07月20日 | 食べログ


ブログのネタ探しなど、たまの外出で特に暑い日などには、つい手軽に腹に入る蕎麦になってしまいます。食通ではないので気の利いた食レポをおとどけできませんが、訪れた4つの蕎麦店のご紹介です。訪問時期はずいぶん前のもありますが…


そば吉(水戸市萱場町)は、30年以上も前からの馴染みの店ですが、20年ぶりくらいの訪問です。

海藻そば、きのこそばで知られた名店で、広い店内ですが昼時はすぐ満席になります。



太めの田舎そばが少し細目になったのは、代変わりしたからでしょうか。本当はもり蕎麦でいいのですが見得張って50円高いざるそば650円、値上がりはしても価格の安さは周辺の店をしのいでいます。あまり気取らないのがここの特徴で、卓上に天かすが置いてあり、そば湯もポットに入って温かさを保っています。


近くの匠庵(しょうあん)は、店舗前の道路が水戸市との境になっていて、住所は茨城町大戸です。


常陸秋そばを石臼挽きでの十割そばがこの店の売りのようですが、のど越しを優先して二八のもりそばを頼み、川海老のかき揚げを付けてもらいました。


細切りを謳うだけあって、細めの蕎麦が好みの仙人もさすがにびっくり、もちろんのど越しもよく、細切りでも噛み応えもあり美味しくいただきました。


こちらも常陸秋そばを看板に掲げた三六庵(みろくあん)、都内の料亭で板前をしていた店主が、「常陸秋そば」という全国ブランドの産地に近い那珂市菅谷に出店しました。

民家を改築したという店内は、天井が高く、黒光りする梁と間接照明が雰囲気を出しています。


玄そばを脱穀し石臼で自家製粉するそばは細切りで、食感がよく香りが感じられました。
夜は予約限定で新鮮な魚介類のコース料理も出して板前時代の腕を振るっていると聞きました。


2年前に築70年の古民家を改装したそば処里美(常陸太田市大中町)は、保養所にする予定の埼玉の会社が、広い庭が見事なため、多くの人に楽しんでもらおうと蕎麦店を開きました。

製材業を営んでいた前の所有者の造った見事な庭は大きな石や築山を配し、周りの山里の四季に違和感なく収まっています。


地元産の常陸秋そばを自家製粉し、二八の割合で打っています。細めの麺と少し辛めのツユは仙人の好みでした。


あまり大きな改装はしない店内は、テーブル席と座敷を合わせて24席、独り客向きの廊下の窓際席は見事な庭を眺めながらそばを啜れました。


ところでざる蕎麦ともり蕎麦の違いは、海苔がのっているかどうかと認識していましたが、調べてみるとそばの長い歴史がありました。



そばが中国から日本に伝わったのは、奈良時代以前といわれ、当時は主食ではなく雑穀として「粥」や、「そばがき」にして食べていました。その後室町時代には麺状に切った「そば切り」を汁につけて食べるようになりますが、江戸時代になると麺に直接汁をかけた「ぶっかけそば」が流行したので、区別するために汁に付けて食べるのは「もりそば」と呼ぶようになったそうです。江戸中期には、深川の伊勢屋で水が切れるよう、竹のざるにのせて供したことから、「ざるそば」が名付けられました。



明治になると「ざるそば」を少し高級なそばとして「もりそば」と区別するため、そばつゆにみりんを加えたり、のりを乗せるようになりました。現在では約50円~100円の価格差がありますが、材料や味の違いはほとんどないところが多く、両方を区別してメニューに載せてない店もありますし、セットメニューでは海苔なしが多いような気がします。



また西日本では区別せずにどちらも「ざるそば」ということが多く、東日本や北海道では使い分けが多いという分析結果もあるそうです。

俳句では料理としての「蕎麦」は季語に無く、「蕎麦の花」や「蕎麦刈り」、「新蕎麦」「蕎麦掻き」などが秋や冬の季語として載っています。

新蕎麦やむぐらの宿の根来椀   与謝蕪村
痩山にぱっと咲けり蕎麦の花   小林一茶 
蕎麦がきやねりそこなふて曇る月   藤野古白 

そば処市川…絶妙な組み合わせ

2022年12月26日 | 食べログ
間もなく年越しそばの季節です。名店として茨城新聞社の「常陸秋そば50店」で紹介されている、ひたちなか市十三奉行にあるそば処市川を訪ねました。

4車線道路に面し、駐車場も広く出入りも容易な立地にあります。


頼んだのは市川御膳というセットです。天ぷらは新鮮な海老と湯葉とパブリカ3種、小鉢にはごま豆腐とエリンギの味付け、お稲荷(または梅と高菜のおにぎり)が付いていました。食後にはコーヒーも…、蕎麦屋さんでは初めての経験です。どれも絶妙な組み合わせで蕎麦を引き立てています。

蕎麦は、常陸秋そばを石臼(電動)で挽いた二八蕎麦、あまり専門的な食レポは苦手ですが、固さ、のど越し、香り…、少し辛めのそばつゆも仙人好みでした。

店内は黒と茶を基調とした落ち着いた佇まいで、椅子席と小上がり、一人掛けのカウンター席も多く用意されています。酒のメニューが何枚かあり、銘酒の一升瓶もあちこちに飾られてあるので、多分日本酒党の店主かなと嬉しくなります。
接客の女性たちも声がよく出て感じがよく、食後のコーヒーまでも厳選された味…店主の気配りが隅々まで行き届いているのを感じました。

ところで前から気になっていたここの十三奉行という地名を調べてみました。
八幡太郎義家が蝦夷征討軍を率いて奥州からの帰路、敵に内通していたことが分かったこの地の13人の奉行を打ち首にしたという言い伝えからの地名のようです。

源義家の伝説は近在にいろいろ残っていますが、当時の陸奥への街道はここより15キロくらい西側にあったとされています。

ねぎ蕎麦…会津西街道宿場町の秋

2022年10月20日 | 食べログ
何度か訪れた大内宿(福島県下郷町)、ねぎ蕎麦というものがあることは知っていましたが、いつも昼食時間を過ぎていたので今回初めての注文でした。

ドーンとネギ一本が添えられた「ねぎ蕎麦 1100円」です。載っているのは大根おろしと梅干、刻みネギ、大葉と刻み海苔…頼んだのは冷たい蕎麦でしたので、そばつゆをかけていただきます。


さて、箸の代わりにネギを用いて蕎麦を食べるので、蕎麦をすくいあげて口元に持ってくるのが、滑ってなかなかうまくいきません。途中でネギを齧ると、その辛さが蕎麦に合うことは確かですが…。


蕎麦好き仙人にはちょっと邪道という印象は残りました。しかし蕎麦は美味しく、もちろん途中から箸の出番になりましたが、完食です。
この蕎麦ですが、会津松平家初代藩主で徳川秀忠の庶子、保科正之が長野県の高遠藩から移封されてきたときに、蕎麦文化が持ち込まれたともいわれています。


大内宿は会津若松と日光を結ぶ会津西街道の宿場です。江戸時代には会津藩が江戸と結ぶ幹線道路の一つとして整備し、物資の輸送や会津藩主の参勤交代にも利用した重要な街道の宿場でした。
明治になってこの街道が東の阿賀川沿いに付け替えられたため、開発に取り残された集落は当時の面影を今に残すようになりました。


街道に沿った南北500m、東西約200mに寄棟造りの家が道路と直角に整然と並んでいる景観は見事で、他には何もない場所ですが観光客で賑わっています。


主屋の多くは江戸時代後期から明治にかけて建てられたもので、道路側に半間幅の縁側を付けその奥の二室を座敷にしています。その縁側にはほとんどの家でお土産類を並べてあり、座敷で蕎麦類を提供する家も多く見かけました。
大内宿観光協会の店舗マップには、このような店舗兼住宅が45軒載っていました。


道路の中央には広い溝が設けられ宿場の用水路として利用されていましたが、明治以後は道路の両側に側溝が掘られて各戸の洗い場が設けられています。


伝統的な茅葺屋根は、茅手(かやで)と呼ばれる職人を中心に住民が協力して屋根の葺き替えを行って維持しているそうです。 (写真大内宿観光協会ホームページより)


「街道の両側に均等に並ぶ寄棟の家屋」が江戸時代の宿駅制度に基づいた宿場の形態を残すとして、昭和56年(1981)「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。


そば処 古館…地元産のこだわり!

2020年10月08日 | 食べログ

茨城県と栃木県の県境は蕎麦畑の多い一帯で、この季節には車窓に白い花が連なります。

よくみると可愛いそばの花、花びらのような5枚は咢で、8本の雄蕊の先の葯が薄紅色でアクセントになっています。

満開の蕎麦の花を見て、約半年自粛していましたが、那珂川町馬頭の「そば処古館」に入ってみました。

293号国道沿いで駐車場入り口も広く、清潔感のある明るい店内…メニューには馬頭温泉で育てた「温泉トラフグ」や、八溝山系で獲れた猪「八溝ししまる」の料理も出ていますが、久しぶりの蕎麦屋なので定番のせいろそば700円を注文しました。

地元の蕎麦を毎朝石臼で挽いた手打ちの九一蕎麦、その太さもちょうどよく、コシと香りは仙人好みで、充分な量でしたが一気に喉を通っていきました。
しかも水戸藩ゆかりの地元小砂(こいさご)焼の温かみのある陶器の器で、地元産のこだわりを完結させていました。

そば処 のざわ…地元に愛される名店

2020年06月02日 | 食べログ

国道50号笠間を過ぎて稲田のはずれにある人気の店で、お昼は駐車場もいっぱいで通り過ぎたことも何度かありましたが、時間を少しずらして入店できました。(約3か月以上前の訪問です)
どちらかというと、気取らない庶民的な地元に愛されている店というイメージでした。

頼んだのは、ざるそば660円(税別)、量が多く普通の店では大盛で通ります。
初めて気が付いたことは、上に載っている刻み海苔が邪魔だということ、料金もさることながらそばの味を楽しむのなら、もりそば600円でよかったかと…。

少し太めで存在感のある麺は、喉越しよりも歯ごたえで味わいましたが、酒のつまみになるようなメニューがいろいろ貼ってあるのを横目で眺めながら完食してしまいました。