1996年から始まったこの彫刻展は中断をはさみ今年で11回目になるそうです。38名の出品作家の方々が主催し、地域の方々などが協力し、新緑の里山の自然の中に置かれた作品をまるでオリエンテーリングのようにまわると13キロ…というので車に自転車を積んで出かけてきました。
作品は彫刻というタイトルがついてはいますが、石の産地なので石の彫刻が多く見られる他、色んな素材の造形作品が現れます。鑑賞力ゼロの仙人ですが、春いっぱいの自然の中で分からないなりに楽しませていただきましたので、その作品の一部を紹介させていただきます。なお、会期は2019年4月1日~6月9日です。
【 】内は作者のひとことからの抜粋です。
佐藤晃 「大気の襞」 材料/白花崗岩
新緑の里山と農地、空を切り裂くように飛行機雲、地元産の白御影石には強い影が…。
【…ここを占有する見えない大気のかたまりをまさぐるように彫刻を試みる。自然の震幅の中で、かたまりは茫漠とした襞になる】
大槻孝之 「雲の隙間」 材料/鉄
桜川沿いの平らな農地に不安定に置かれた大きく厚い鉄板、遠くに筑波山が見えます。
【雲の中に入るように作品の間を通り抜ける。そのときの空気の密度を感じてほしい。…】
高梨裕理 「かすかに光る」 材料/楠
高森神社境内の木陰に置かれた中をくり抜かれた楠木、先端からはかすかな光が見えます。
【木を彫りながら木の中に入っていく。かすかな光を見るために。その先には見たい風景が見えるのだろうか。】
平井一嘉 「石のコロナ」 材料/安山岩
背景に加波山(709m)、燕山(701m)を配した里風景の中に、石彫とは思えないヌルリとしたかたまり。
【原石の各面の頂点から任意に印をして、原石の占める空間を最大限に残して、原石の中のエネルギーが蠢くように掘り下げて出てきた形、どこで止めるか終わりのない旅の途中です。】
シャンドル ゼレナク 「対話 Ⅱ」 材料/竹、ミクストメディア
高森神社境内の竹の造形は、1971年ハンガリー生まれの作家の作品、絵画やインテリアデザインなど多方面で活動しています。内部には座禅でも組めそうな小スペースがあります。
津田大介 「炎舞する指揮者」 材料/楠、鉄
背景の一番高い雨引山(409m)をはじめ周りの自然全部を指揮しているようです。
【…指揮者が舞うようにタクトを振ると花々を開花させ、草木は青々と萌芽する。野山の春を奏でるオーケストラが始まった。】
戸田祐介 「天地を巡るもの/再生考」 材料/木製廃ボート、ステンレススティール他
関東の名峰、筑波山(877m)を突き刺すように数珠を付けたようなポールが廃ボートから…。
【…廃棄寸前だったボートを改造して01年の雨引に展示しましたが会期中に盗難に会いました。18年を経て春の讃歌の続きです。】
大栗克博 青鷺城・小天守 材料/灰色花崗岩
西に富谷山(365m)を控え、北方には水堀の役目をする桜川、まさに小さな天守の立地に充分です。
【季節は春から夏、筑波連山を一望できる高台の静かな休耕地にカッチリこしらえた石の作品をひとつ置いてみた。】
会場の一つ薬王寺は江戸時代中期開山の天台宗の古刹でもみじ寺としても知られています。
山門は二宮尊徳が186年前に地区の青木堰を再建した時に使われたケヤキ材を、改修の際に再利用して1918(大正7)年に建てられたといわれます。
西成田洋子 「記憶の泉」 材料/古着、靴、鉄、その他
仙人の句友です、記憶の領域シリーズで独特の素材による作品作りをしていますが、今回は柱に堰に使っていた当時の桟の穴が残る山門のロケーションがぴったりだと感じました。
【…これまで体験したことや想像していたことなどがとめどなく脳裏に蘇ってくる。それを素直に咀嚼して集積したものが最終的に作品として立ち現れてくる。】
宮澤泉 「象」 材料/花崗岩
お寺の一画、桜はほとんど散りました。邪馬台国の卑弥呼に与えられたという親魏倭王印を想い出しました。
【…季節は春、桜の花や新緑の中をゆっくり巡り歩いていただきたいと思います】
小日向千秋 「蜉蝣の花」 材料/漆、金箔、鉄線、鋼板、他
本堂手前に置かれた金色の炎のような作品、周りを繊細な花弁状のものが囲んでいます。
【…風に揺らぐ儚い花弁に包まれた蕊は、天に向かい光を集めながら生命の転生を願います。】
鈴木典生 「曼荼羅」 材料/白御影石
桜の木立の下に、中央に穴の開いた花筒形の石の作品が円状に並んでいます。
【…その木立の中心に立つと、創造と宇宙の調和、内部にある小宇宙とその外部にある大宇宙をつなぐような自然界の構造またはリズムを感じます。…】
海崎三郎 「春は花」 材料/鉄、塗料
花びらが水に浮かんだ花筏は春の季語、本物の花びらも浮かんでいました!
【桜が空に舞う時、風がもたらす瞬間の在り様に心をひかれ、吹きだまりは花びらが折り重なってまるで光の塊のように見える。命がけの美しさである。】
八十島海斗 「Dress Up」 材料/御影石
周りを取り囲む自然のほうがこの瞬間、よりドレスアップしているようです。
【里の木々が新緑を着飾るとき、人や動物に喜びと恵みを与える。いつの時代にも、春が沈黙することがないように願います。】
國安孝昌 「雨引く里の羽田山の産土神の御座」 材料/丸太、陶ブロック、単管
大きな作品、周りに置かれた桜の苗木の支え棒も作品の一部?のようにも見えました。
【…人生の摂理は、螺旋を描きながら 、同じ位相の高度を変えながら、旋回しているのだと思う。】
山添潤 「石の軀」
仙人には少しエロチックな感じのトルソー、噎せるような新緑によく似合うと思いました。
【ゆっくりゆっくり石を彫る。刻々とその姿を変えながら、石の表面はノミ跡で覆われる。彫るというよりは、力を押しつける。減らすのではなく増やすように。…】
【 】内は作者のひとことからの抜粋です。
現代美術的な作品群は仙人レベルでは到底理解できませんが、作者のひとことを読み、その力作を見ると、作家の方々も作品の置かれた雨引の里風景から大きなエネルギーを補填できたのではと思いました。いずれにしても今後の精進を願いながら力作に拍手を送りたいと思います。