合同会社においては、業務を執行する社員と会社間の取引等については、定款に別段の定めがある場合を除き、当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない(会社法第595条第1項)。社員1名の合同会社も認められることから、社員1名の合同会社においては、当該社員以外の社員が存在せず、利益相反取引行為についての承認は如何、という問題が生じる。既に不動産取引実務において、そうした問題が現出しているようである。
利益相反取引に関する規制は、取締役等の会社に対する忠実義務違反行為を規制するためであるが、合同会社の業務執行社員についても、会社に対する忠実義務(会社法第593条第2項)の規定があり、そして、会社法第595条第1項の規定が置かれているものである。ここで、利益相反取引については他の社員の過半数の承認により許容されるのであるから、規制目的は「他の社員の保護」にある。従って、社員1名の合同会社においては、利益相反取引行為に関する承認という問題はそもそも生じないということができる。
支配社員の忠実義務という観点からすれば、会社債権者の保護の必要も問題となりうるが、会社債権者が、詐害行為の取消し(民法第424条第1項)、否認権の行使(破産法第160条)、当該社員の第三者に対する責任(会社法第597条)による救済を受けられる以上に、会社に対する干渉を認める必要もないであろう。
また、会社法第598条第2項が同第595条を準用しているので、法人が業務を執行する社員である場合には、当該社員の職務を行うべき者と会社間の取引等については、定款に別段の定めがある場合を除き、当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。法人社員1名の合同会社においては、この場合に承認不要とすることもありえるが、法人社員と当該社員の職務を行うべき者とが契約関係にあることからすれば、当該社員の職務を行うべき者と会社間の取引等については、当該社員の承認を受ける必要があると考えるべきではないだろうか。当然のこととして規定されなかったのかもしれないが、当該社員の職務を行うべき者が当該社員の意に反して専断的に利益相反取引を行った場合に法律関係が錯綜することから、法人が業務を執行する社員である場合には、「当該社員以外の社員の過半数の承認」ではなく「当該社員の承認、かつ、当該社員以外の社員の過半数の承認」が必要であると解すべきである。
なお、会社法第595条第1項では、定款の別段の定めを許容しており、その内容には特に制限が設けられていないので、社員が複数存する合同会社においてさえも、利益相反取引について一切承認を要しないとすることも可能である。総社員の同意等により定款変更(会社法第637条)を行えば、承認を要しないとすることができるのであるから、この点に鑑みても、社員1名の合同会社においては、利益相反取引の承認を要しないということができる。