債権者保護手続の公告において「最終の事業年度」の判断が微妙なケースが多いようである。
A株式会社(以下、「A社」という)は、委員会設置会社(会社法第2条第12号)であり、かつ、有価証券報告書提出会社(証券取引法第24条第1項)である。事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までである。A社は、100%子会社との間で平成18年6月15日付合併契約書を締結した。そして、会社法第799条第2項(いわゆる債権者保護手続)の公告を、6月16日付官報及び電子公告(債権者への各別の催告を省略できる、いわゆるダブル公告である。)により行っている。そこでは、同項第3号の法務省令の定める事項(決算公告の掲載場所等)として、電子公告のURLが掲載されている(掲載されているのは、平成17年3月決算分までである。)。
なお、定時株主総会は、その後、6月22日に開催しており、平成18年3月決算の有価証券報告書は6月23日に提出されている。
A社の平成18年3月決算の計算書類の作成、監査及び承認の方法については、整備法第99条の規定により、商法に基づくことになるが、平成18年5月15日付「会計監査人の監査報告書」があることから、同日以前に取締役会の承認を受けているはずである。決算公告に関しては経過措置がなく、会社法の規定に基づき行わなければならないが、A社は、証券取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社であるから、会社法第440条第1項は適用されない(同条第4項)こととなっている。
さて、本件合併契約書は、平成18年6月15日付で作成されているので、本件合併は会社法の規定に基づき行われる。そして、吸収合併存続会社における債権者異議申述公告(会社法第799条第2項第3号)の法務省令の定めは、会社法施行規則第199条であるが、A社は、上記のとおり会社法第440条第1項の規定が適用されないので、仮に平成18年3月決算分まで掲載していたとしても、会社法施行規則第199条第1号ハには該当しない。
では、どうなるのか。会社法施行規則第199条第3号に該当しそうである。しかし、同号の「最終の事業年度」(会社法施行規則第2条第3項第9号イ、会社法第2条第24号)が問題である。
A社は、委員会設置会社であるから、会計監査人設置会社(会社法第2条第11号)である。従って、会社法第439条により会社計算規則第163条の要件に該当する場合には、計算書類について会社法第436条第3項の取締役会の承認を受けると、当該事業年度が会社法第2条第24号に規定する「最終の事業年度」となる。会社法第2条第6号イの「最終の事業年度に係る貸借対照表」が「会社法第439条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表」をいうのとは異なるのである。
しかし、A社は、「最終の事業年度に係る貸借対照表」を「会社法第439条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表」と解して、平成17年3月決算分の決算公告の掲載場所等を示せばよいと考え、会社法第799条第2項の公告を行ったようである。会社計算規則第163条の要件に該当しないとは考え難いからである。実際、定時株主総会においては、報告事項として処理されている。
A社は、本公告を平成18年6月16日に掲載しているが、その時点での「最終の事業年度」は、上記のとおり会社法第436条第3項の取締役会の承認を受けているので、「平成17年4月1日~平成18年3月31日」となるはずである。すると、A社は、公告掲載日においては、最終の事業年度に係る有価証券報告書を提出していないので、会社法施行規則第199条第3号にも該当しないことになる。
よって、本件においては、会社法施行規則第199条第7号が適用され、同公告において平成18年3月決算における貸借対照表の要旨を掲載すべきケースであったと解される。
なお、会社法施行規則第199条第7号は、従来決算公告を行っていなかった中小企業が同時掲載を行うケースが非常に多かったことから、同ケースを想定して置かれた規定のようであるが、本例のように第1号乃至第6号に該当しないレアケースを救済する役割も果たしていると思うのは、考え過ぎであろうか。