09.6/5 406回
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(15)
源氏は左中弁に、つづけて仰るには、
「やむごとなき先の人々おはすといふ事は、由なきことなり。それに障るべき事にもあらず。必ず、さりとて、末の人疎かなるやうもなし。」
――朱雀院には、歴とした女御方(にょうごがた)がおられるとしても、遠慮はいらぬ。そんな事に妨げられるべきでもありません。古い女御方がおられるからと言って、必ず後に入内した人が粗略にされるという訳もない――
「故院の御時に、大后の、坊の初めの女御にていきまき給ひしかど、無下の末に参り給へりし、入道の宮に、しばしば圧され給ひにきかし。この御子の御母こそは、かの宮の御姉妹にものし給ひけめ」
――桐壷帝の御時に、弘徽殿大后が東宮の頃からの、最初の女御で威勢をはられましたが、ずっと後に入内された藤壺中宮に一時は厭倒されてしまわれました。女三宮の母君こそは、藤壺中宮の妹君に当たられる筈です――
こう、おっしゃってから、「この母君も、藤壺中宮に次いで美しいと言われた方ですから、きっと女三宮も並々のご容貌ではいらっしゃるまい」などと、お話になっていられますうちに、源氏は、そぞろこの若い姫宮のご様子、ご容貌を垣間見てみたい願いが募って行かれるようでした。
この年も暮れました。
朱雀院では、ご病気がやはり良くもおなりになりませんので、何とか慌ただしくお思い立ちになって、姫宮の御裳著のことをご用意なさいます。そのご様子は古今に例がないほどご立派で、そのために皆が立ち騒いでおります。
「御しつらひは、柏殿の西面に、御帳や御几帳よりはじめて、ここの綾錦交ぜさせ給はず(……)」
――(儀式をなさる)御殿の御装飾は、柏殿の西面に御帳台や御几帳をはじめ、我が国の綾や錦をお混ぜにならず、(唐土の后の装飾になぞらえて、すべて端麗、荘重に輝くばかりにお整えになりました)――
腰結のお役は、かねてより、太政大臣にお頼みになっておられました。皇子たち八人、殿上人は申すまでもなく、御所から、東宮御所からお集まりになって、堂々とした裳著の儀式となりました。
ではまた。
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(15)
源氏は左中弁に、つづけて仰るには、
「やむごとなき先の人々おはすといふ事は、由なきことなり。それに障るべき事にもあらず。必ず、さりとて、末の人疎かなるやうもなし。」
――朱雀院には、歴とした女御方(にょうごがた)がおられるとしても、遠慮はいらぬ。そんな事に妨げられるべきでもありません。古い女御方がおられるからと言って、必ず後に入内した人が粗略にされるという訳もない――
「故院の御時に、大后の、坊の初めの女御にていきまき給ひしかど、無下の末に参り給へりし、入道の宮に、しばしば圧され給ひにきかし。この御子の御母こそは、かの宮の御姉妹にものし給ひけめ」
――桐壷帝の御時に、弘徽殿大后が東宮の頃からの、最初の女御で威勢をはられましたが、ずっと後に入内された藤壺中宮に一時は厭倒されてしまわれました。女三宮の母君こそは、藤壺中宮の妹君に当たられる筈です――
こう、おっしゃってから、「この母君も、藤壺中宮に次いで美しいと言われた方ですから、きっと女三宮も並々のご容貌ではいらっしゃるまい」などと、お話になっていられますうちに、源氏は、そぞろこの若い姫宮のご様子、ご容貌を垣間見てみたい願いが募って行かれるようでした。
この年も暮れました。
朱雀院では、ご病気がやはり良くもおなりになりませんので、何とか慌ただしくお思い立ちになって、姫宮の御裳著のことをご用意なさいます。そのご様子は古今に例がないほどご立派で、そのために皆が立ち騒いでおります。
「御しつらひは、柏殿の西面に、御帳や御几帳よりはじめて、ここの綾錦交ぜさせ給はず(……)」
――(儀式をなさる)御殿の御装飾は、柏殿の西面に御帳台や御几帳をはじめ、我が国の綾や錦をお混ぜにならず、(唐土の后の装飾になぞらえて、すべて端麗、荘重に輝くばかりにお整えになりました)――
腰結のお役は、かねてより、太政大臣にお頼みになっておられました。皇子たち八人、殿上人は申すまでもなく、御所から、東宮御所からお集まりになって、堂々とした裳著の儀式となりました。
ではまた。