永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(414)

2009年06月13日 | Weblog
 09.6/13   414回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(23)

 紫の上は、さらに、

「ひとしき程、おとりざまなど思ふ人にこそ、ただならず耳だつことも、自ずから出で来るわざなら、かたじけなく心苦しき御事なめれば、いかで心おかれ奉らじとなむ思ふ」
――私と同じくらいの身分か、目下に思う人なら、聞き棄てならないと私も思いましょうが、あの方は勿体なくも、お気の毒な方なのですから、私は出来るだけあちらにお気をお遣わせしたくないと思っているのですよ」

 などと、おっしゃいますのを、侍女の中務(なかつかさ)や中将の君などがお互いに目を見合わせて、

「あまりなる御思い遣りかな」
――あまりご同情がすぎますこと――

 と、言っているらしい。この中務(なかつかさ)や中将の君は、昔、源氏が特にお情けをかけて、手許に使われた上臈女房ですが、ここ数年は紫の上にお仕えしていますので、紫の上をお慕い申してのことでした。他の女方からも、

「いかに思すらむ。もとより思ひ離れたる人々は、なかなか心やすきを」
――紫の上の御方はどんなお気持ちでしょう。もともと諦めております私たちは、こうした時にはかえって気楽でございますが――

 などと、ご同情の文など寄こされますが、紫の上はお心の内で、

「かくおしはかる人こそなかなか苦しけれ、世の中もいと常なきものを、などてかさのみは思ひ悩まむ、など思す。」
――こんなふうに、勝手に押し量ってものを言う人こそ私には疎ましい。所詮夫婦仲などは無情のもの、そうくよくよ思い悩んでみても仕方がない、などと思っていらっしゃる――

 紫の上は、あまり長く夜更けまで起きていては、侍女たちも不審に思うであろうと、寝所に入られますが、お隣に源氏のおいでにならない寂しい夜が続いていますので、安心してお休みになれません。寝つかれない気配を侍女たちが心配してはと、寝返りもされず、まんじりともされぬ、まことにお辛そうなこの頃でございます。

◆写真:傷心の紫の上
    源氏が女三宮へお渡りになる為にお世話をする紫の上。
    寒いので火鉢があります。風俗博物館

ではまた。