永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(411)

2009年06月10日 | Weblog
 09.6/10   411回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(20)

「姫宮は、げにまだいとちひさく、かたなりにおはする中にも、いといはけなき気色して、ひたみちに若び給へり」
――女三宮は、本当にまだお小さくて、子供っぽくていらっしゃる中でもさらに幼くて、
ただただ若々しいばかりです――
 
 源氏は、

「かの紫のゆかり尋ね取り給へりし折り、思し出づるに、かれは、ざれていふかひありしを、これは、いといはけなくのみ見え給へば、よかめり、憎げにおしたちたる事などはあるまじかめり、と思すものから、いとあまり物の栄なき御様かな、と見奉り給ふ」
――源氏が紫の上を引き取られた時のことを思い出しますに、紫の上は気が利いていて、相手にしがいがあったものだが、この姫宮はただただ幼いばかりだ。まあよかろう。これなら生意気に押し出てこられることもなかろう。そうお思いになるものの、あまりにも冴えないご様子だとご覧になるのでした――

「三日が程は、夜がくれなく渡り給ふを、年ごろさもならひ給はぬ心地に、忍ぶれどなほものあはれなり」
――婚礼からの三日間というもの、源氏は毎夜女三宮の方へ行かれますので、今までそんなことに慣れていらっしゃらない紫の上のお気持ちは、我慢なさっておいででも、やはりもの淋しいのでした――

 紫の上は、女三宮の許に通われる源氏のために、御衣などにはいつもより念入りに香を薫きしめて差し上げておられますが、たいそう沈みがちでいらっしゃる。それなのにその沈み込んだご様子が可憐で美しいなどと源氏はご覧になっています。が、ああしかし、

「などて、よろづの事ありとも、また人をば並べてみるべきぞ、あだあだしく心弱くなりおきにけるわがおこたりに、かかることも出でくるぞかし」
――どうして、いろいろな事情があるにせよ、紫の上の他に妻を迎える必要があろう。浮気っぽく気弱になってきた自分の悪い癖からこんなことになるのだ――

と、源氏はわれながら辛く思われているのでした。朱雀院が、私より若い夕霧を「婿」にと仰らなかったのは、自分には無い生真面目さをお認めになってのことなのだと納得なさるのでした。

◆かたなり=未成熟
◆ひたみちに=ただただひたすら
◆あだあだしく=好色、浮気っぽい

◆写真:女三宮の衣装
    裏が濃蘇芳の五衣になっている。風俗博物館

ではまた。