09.6/23 424回
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(33)
桐壷の御方(明石の姫君)の御懐妊に、
「まだいとあえかなる御程に、いとゆゆしくぞ、誰も誰もおぼすらむかし」
――まだごく痛々しいお年頃(十三歳)ですので、誰も皆ご心配なさるでしょう――
内裏からやっとのことで、母君とご一緒に六条院へご退出されました。女三宮のいらっしゃる御殿の東面に、お部屋を準備なされてのことでした。
紫の上が女御(明石の姫君)のお部屋に伺うついでにと、源氏にお話になりますには、
「姫宮にも中の戸あけて聞こえむ。かねてよりもさやうに思ひしかど、ついでなきにはつつましきを、かかる折に聞こえ馴れなば、心安くなむあるべき」
――女三宮にも、隔ての戸を開けてご挨拶申し上げましょう。ついでがなくては、気が引けますので、このような機会にご対面申し上げることができれば、具合がよろしいと存じます――
源氏はこのことをお聞きになって笑みを浮かべられ、「あなたは童女のようなお気持ちもあって、お遊び相手にも丁度お似合いですしね」と、早速、女三宮のお部屋にお渡りになって、
「夕つ方、かの対に侍る人の、淑景舎に対面せむとて出で立つそのついでに、近づき聞こえさせまほしげにものすめるを、ゆるしてかたら給へ。心などはいとよき人なり」
――この夕べ、対にいる人(紫の上)が、淑景舎(しげいさ=桐壷の別名で明石女御)にご挨拶に上がりますそのついでに、あなたにお近づき申したい様子ですので、心置きなくお話なさい。心ばえの良い人ですから。―-
女三宮は「とても恥ずかしくて、なんとお話いたしましょう」と大らかにおっしゃいます。源氏は、
「人のいらへは、ことにしたがひてこそはおぼし出でめ。へだて置きてなもてなし給ひそ」
――お返事というものは、その場その場でお考え出されるものです。ご遠慮なさいますな――
と、細やかにお教えになります。
ではまた。
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(33)
桐壷の御方(明石の姫君)の御懐妊に、
「まだいとあえかなる御程に、いとゆゆしくぞ、誰も誰もおぼすらむかし」
――まだごく痛々しいお年頃(十三歳)ですので、誰も皆ご心配なさるでしょう――
内裏からやっとのことで、母君とご一緒に六条院へご退出されました。女三宮のいらっしゃる御殿の東面に、お部屋を準備なされてのことでした。
紫の上が女御(明石の姫君)のお部屋に伺うついでにと、源氏にお話になりますには、
「姫宮にも中の戸あけて聞こえむ。かねてよりもさやうに思ひしかど、ついでなきにはつつましきを、かかる折に聞こえ馴れなば、心安くなむあるべき」
――女三宮にも、隔ての戸を開けてご挨拶申し上げましょう。ついでがなくては、気が引けますので、このような機会にご対面申し上げることができれば、具合がよろしいと存じます――
源氏はこのことをお聞きになって笑みを浮かべられ、「あなたは童女のようなお気持ちもあって、お遊び相手にも丁度お似合いですしね」と、早速、女三宮のお部屋にお渡りになって、
「夕つ方、かの対に侍る人の、淑景舎に対面せむとて出で立つそのついでに、近づき聞こえさせまほしげにものすめるを、ゆるしてかたら給へ。心などはいとよき人なり」
――この夕べ、対にいる人(紫の上)が、淑景舎(しげいさ=桐壷の別名で明石女御)にご挨拶に上がりますそのついでに、あなたにお近づき申したい様子ですので、心置きなくお話なさい。心ばえの良い人ですから。―-
女三宮は「とても恥ずかしくて、なんとお話いたしましょう」と大らかにおっしゃいます。源氏は、
「人のいらへは、ことにしたがひてこそはおぼし出でめ。へだて置きてなもてなし給ひそ」
――お返事というものは、その場その場でお考え出されるものです。ご遠慮なさいますな――
と、細やかにお教えになります。
ではまた。