09.6/29 430回
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(39)
秋好中宮からのお祝い事に源氏は、
「四十の賀といふことは、さきざきを聞き侍るにも、残りの齢久しき例なむ少なかりけるを、この度はなほ世のひびき止めさせ給ひて、まことに後に足らむ事をかぞへさせ給へ」
――四十の賀ということは、前例を聞きましても、その後長生きした例は少ないものですから、この度は矢張り世間の評判となる事はお止めくださって、本当に五十、六十になりますのをお数えください――
と、おっしゃられましたが、やはり結局は朝議に准じて盛大に行われたのでした。
新年を迎えました。
桐壷の女御(明石の女御)のお産の時期が近づいて参りました。源氏は、元日より僧たちに絶えず読経をおさせになります。寺々、社々に祈らせること限りもありません。
「大臣の君、ゆゆしき事を見給ひてしかば、かかる程の事は、いと恐ろしきものに思ししみたるを、対の上などのさる事し給はぬは、口惜しくさうざうしきものから、うれしく思さるるに」
――(源氏は)かつて、葵の上がお産の為に死なれた不吉な御経験がお有りなので、お産はたいそう恐ろしいものと思い込んでいらっしゃる。紫の上がお産をされないのは、残念で物足りないものの、却って安心でもあると思われますが――
明石の女御はまだ十三歳の若く弱々しい年ごろと、ご心配も一通りではなく、周りの人々も騒いでおりますうちに、二月頃からますますご容体が変わってお苦しみになりますので、ご心配はひとかたではありません。陰陽師どもも、御産所を変えて謹慎されるようにとお勧めになりますので、なるべくお近い御母(明石の御方)のいらっしゃるお部屋に御移りになりました。
「御修法の壇ひまなく塗りて、いみじき験者どもつどひてののしる。母君、この時にわが御宿世も見ゆべきわざなれば、いみじき心をつくし給ふ」
――安産ご祈祷の壇をぎっしり塗り固め、偉い修験者がそろって大声で祈祷されます。明石の御方は、この時こそご自分の運命(男か女か)も定まるべき分かれ目ですので、ひとかたならず心をつくしてお世話申し上げます。
◆写真:安産を願い御修法(みずほう)をおさせになる。風俗博物館
ではまた。
三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(39)
秋好中宮からのお祝い事に源氏は、
「四十の賀といふことは、さきざきを聞き侍るにも、残りの齢久しき例なむ少なかりけるを、この度はなほ世のひびき止めさせ給ひて、まことに後に足らむ事をかぞへさせ給へ」
――四十の賀ということは、前例を聞きましても、その後長生きした例は少ないものですから、この度は矢張り世間の評判となる事はお止めくださって、本当に五十、六十になりますのをお数えください――
と、おっしゃられましたが、やはり結局は朝議に准じて盛大に行われたのでした。
新年を迎えました。
桐壷の女御(明石の女御)のお産の時期が近づいて参りました。源氏は、元日より僧たちに絶えず読経をおさせになります。寺々、社々に祈らせること限りもありません。
「大臣の君、ゆゆしき事を見給ひてしかば、かかる程の事は、いと恐ろしきものに思ししみたるを、対の上などのさる事し給はぬは、口惜しくさうざうしきものから、うれしく思さるるに」
――(源氏は)かつて、葵の上がお産の為に死なれた不吉な御経験がお有りなので、お産はたいそう恐ろしいものと思い込んでいらっしゃる。紫の上がお産をされないのは、残念で物足りないものの、却って安心でもあると思われますが――
明石の女御はまだ十三歳の若く弱々しい年ごろと、ご心配も一通りではなく、周りの人々も騒いでおりますうちに、二月頃からますますご容体が変わってお苦しみになりますので、ご心配はひとかたではありません。陰陽師どもも、御産所を変えて謹慎されるようにとお勧めになりますので、なるべくお近い御母(明石の御方)のいらっしゃるお部屋に御移りになりました。
「御修法の壇ひまなく塗りて、いみじき験者どもつどひてののしる。母君、この時にわが御宿世も見ゆべきわざなれば、いみじき心をつくし給ふ」
――安産ご祈祷の壇をぎっしり塗り固め、偉い修験者がそろって大声で祈祷されます。明石の御方は、この時こそご自分の運命(男か女か)も定まるべき分かれ目ですので、ひとかたならず心をつくしてお世話申し上げます。
◆写真:安産を願い御修法(みずほう)をおさせになる。風俗博物館
ではまた。