永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(413)

2009年06月12日 | Weblog
 09.6/12   413回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(22)

 紫の上のお心の内は、

「年頃さもやあらむと思ひし事どもも、今はとのみもて離れ給ひつつ、さらばかくこそはと、うちとけゆく末に、ありありて、かく世の聞き耳も斜めならぬことの出で来ぬるよ。(……)」
――今までも、このようなことがあろうかと心配していた源氏の浮気も、今はすっかりお止めになっていて、もう大丈夫と安心した今になって、こうして人聞きの悪いことが起こってしまったことよ。(結局は安心できない私たちの間柄なのだ)――

 このように思いながらも、いつもどおり平静を装っておられる紫の上に、侍女たちは、

「思はずなる世なりや。(……)おし立ちてかばかりなる有様に、厭たれてもえ過し給はじ」
――思いもかけないことになったものですね。(どのような女方も、紫の上にご遠慮申しておられたからこそ、今まで無事におりましたものを)宮があのように堂々と威張っておいでのご様子に、紫の上が負けてすまされる筈はございませんでしょう。些細なことで心配なことが起こるのでは―

 などと、語り合って溜息をついていますのを、紫の上は少しも気づかぬようにお振る舞いになっておりますが、やはり侍女たちの噂をお聞き苦しく思われて、夜の更けるまで侍女たちをお相手にお話になりますには、

「かくこれからあまたものし給ふめれど、御心にかなひて、今めかしくすぐれたる際にもあらずと、目なれてさうざうしく思したりつるに、この宮のかく渡り給へるこそめやすけれ。なほ童心のうせぬにやあらむ、われも睦び聞こえて有らまほしきを、あいなく隔てあるさまに、人々やとりなさむとすらむ」
――(源氏の君には)このように大勢女の方々がおられるようですが、お気に召す程、現代風で素晴らしい方も居ないと、見慣れて物足りなく思っておいでのところへ、この姫宮がこうしてお見えになったのは、結構なことなのですよ。私もまだ童(わらわ)ごころが失せないのでしょうか、私もご一緒に仲良くしていただきたいのだけれど、どうしてまわりの者は、溝でもあるように取りざたするのでしょう――

ではまた。