永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(419)

2009年06月18日 | Weblog
09.6/18   419回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(28)

 朱雀院は紫の上の筆跡のたいそう見事なのをご覧になって、このように万事に優れていらっしゃる女方の中に、姫宮が幼稚な様で交わっていらっしゃる事を、ひどくご心配になられるのでした。

 朱雀院がいよいよ山籠りなさるというので、女御更衣たちは、今はとお別れになっていられますのもあわれ深いことで、ことに前尚侍の君の朧月夜も院の後を追って尼になろうかとお思いになりましたが、いかにも今の潮に乗るようでと、院がお諌めになったそうです。

 六条の大臣(源氏)は、

「あはれに飽かずのみ思して止みにし御あたりなれば、年頃も忘れ難く、いかならむ折に対面あらむ、今一度逢い見て、その世の事も聞こえまほしくのみ思し渡るを、(……)かうのどやかになり給ひて、世の中を思ひしづまり給ふらむ頃ほひの御有様、いよいよゆかしく心もとなければ、あるまじき事とは思しながら、大方の御とぶらひにことつけて、あはれなるさまに常に聞こえ給ふ」
――深く愛しながら不満なままで終ってしまった朧月夜のことを、長いこと忘れられず、何かの折には対面したいものだ、もう一度逢って、昔の思い出話などしたいものだと、ひたすら思いつづけてこられましたが、(どちらも重々しい身分に加えて、昔の気まずい騒ぎに身を慎んでいました)今は、実家に静かに一人住まいしていられるらしいのを、いよいよ見知りたくて、あるまじき事とはお思いになりながらも、ご挨拶に事よせて、意味深いお手紙をしきりにお出しになります――

 朧月夜からお返事のお文の、昔以上に円熟しきったご様子をお察しになるにつけて、源氏は、

「なほ忍び難くて、昔の中納言の君の許にも、心深きことどもを常に宣ふ」
――お逢いしたい思いが忍び難くて、昔お二人の中を取り持った中納言という女房に、しきりに切ない思いをかき口説かれるのでした――

 また、中納言の兄という、前の和泉の守を召し寄せて、若々しく昔にかえったご様子でご相談なさいます。

「人伝てならで、物越しにきこえ知らすべき事なむある。さりぬべく聞こえ靡かして、いみじく忍びて参らむ。(……)おぼろげならず忍ぶべき事なれば、そこにもまた人には漏らし給はじと思ふに、かたみに後安くなむ」
――人を介せず、物越しでもよいから申し上げねばならないことがあるのだ。うまく承知させて、内密に出かけようではないか。(私も今はそんな忍び歩きも難しい身分なので)絶対に秘密にすべきこと故、そなたは決して人に漏らすまいと思えばこそ、互いに安心だからね――

ではまた。