永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(444)

2009年07月13日 | Weblog
09.7/13   444回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(53)

 柏木と夕霧はひとつ車で道々お話しながらお帰りになります。源氏が今日のような公事の暇な時を見つけて、花の散らないうちにお出でなさいと仰っていらしたので、小弓を持っていらっしゃい、と夕霧が申します。柏木は上の空で、まだ女三宮の噂を続けたい気持ちで、

「院にはなほこの対にのみものせさせ給ふなめりな。かの御おぼえの異なるなめりかし。この宮いかに思すらむ。帝のならびなくならはし奉り給へるに、さしもあらで、屈し給ひにたらむこそ心苦しけれ」
――源氏の君は、やはり紫の上のところにばかりいらっしゃるらしいですね。紫の上へのご愛情が特別なのでしょう。あの女三宮はどうお思いでしょうか。朱雀院が並ぶ者のない可愛がりようでしたのに、今はそれほどのこともなく、おいたわしいことです――

 と、余計なことを言いますので、夕霧は、

「たいだいしき事、いかでか然はあらむ。こなたは、さまかはりておふしたて給へるむつびのけぢめばかりにこそあべかめれ。宮をば方々につけて、いとやむごとなく思ひ聞こえ給へるものを」
――とんでもないこと、そんな事はありません。紫の上は普通と違って幼い時から育ててこられましたので、親しみが他の人と違うだけのことでしょう。宮を何かにつけてとても大事にしておられますよ――

 柏木は言葉を遮って、

「いで、あなかま、たまへ。皆聞きて侍り。いといとほしげなる折々あなるをや。さるは世におしなべたらぬ人の御おぼえを。あり難きわざなりや」
――いや、おっしゃいますな、皆聞いていますよ。宮のお気の毒な折々がおありになるそうではありませんか。あれほど朱雀院が大事にされていらした方なのに、勿体ないお仕打ちというものですね――

 と、しきりに同情なさる。
夕霧は、余計なおせっかいを言うものだ、ではやはり宮を思っているのかと、

「わづらはしければ、ことに言はせずなりぬ。異事に言ひ紛らはして、おのおの分かれぬ」
――(夕霧は)煩わしいので、宮の事はこれ以上言わせず、別の事に話題を逸らして、それぞれ別れたのでした――

◆写真:柏木の弟君たち

ではまた。