09.7/16 447回
三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(1)
源氏(臣下で最高の准太上天皇) 41歳3月~47歳2月
紫の上(源氏に養育され寵愛されているが、北の方ではない)
33歳~39歳
女三宮(朱雀院の三の宮で、源氏に降嫁・北の方)15、6歳~21、2歳
冷泉帝(自身、源氏と故藤壺中宮の御子であると気づいている)
秋好中宮(六条御息所の姫宮で、冷泉帝の中宮) 32歳~38歳
明石の御方(源氏との間に明石の姫君をもうけた) 32歳~38歳
明石女御 (東宮の女御)13歳~19歳
匂宮(におうのみや) 誕生(東宮と明石女御の第三の男宮)
玉鬘(髭黒の大将の後添え・北の方) 27歳~33歳
夕霧 20歳~26歳
雲井の雁(太政大臣の外腹姫君、夕霧の北の方)22歳~28歳
柏木(太政大臣の長子) 25、6歳~31、2歳
落葉宮(朱雀院と一条御息所の二の姫宮)
蛍兵部卿の宮(源氏の母違いの弟宮)
真木柱(髭黒の大将と前北の方の姫君)
小侍従からの返事に柏木は、
「道理とは思へども、うれたくも言へるかな、いでや、なぞかく、異なる事なきあへしらひばかりをなぐさめにては、如何過ぐさむ、かかる人伝ならで、一言をも宣ひ聞こゆる世ありなむや、と思ふにつけて、大方にては、惜しくめでたしと思ひ聞こゆる院の御為、なまゆがむ心や添ひにたらむ」
――(女三宮に是非お逢いしたいという願望は無駄だとは)尤もかも知れないが、ひどい事を言ってくれたものだ。ええい、何でこんな通り一遍の挨拶を気休めにできようか。人を介してではなく、直接宮とお言葉を交わす折がないだろうかとお思いになるにつけても、あの何事にもご立派な源氏に対して、反逆めいた心持ちが加わってくるのでした――
三月晦日の日に、小弓とかで、又大勢の方々がお集まりになることとて、柏木は、
「なまものうく、すずろはしけれど、そのあたりの花の色をも見てやなぐさむと思ひて参り給ふ」
――何だか優鬱で、気分も落ち着かないのですが、女三宮の御殿の辺りの桜でも見れば、心が慰められるかと思ってお出かけになります。――
宮中の賭弓(のりゆみ)が、二月に催されるはずのところ、そのまま過ぎて、三月は帝の御母宮の藤壺の祥月に当たりますので、皆残念に思っていました折に、六条院でこのような小弓の催しがあると聞き伝えて、それでこのようにたくさん集まられたのでした。
左右に別れて競いあい、気勢をあげて弓を射、懸賞品を頂くなど、暮れゆくまで春を名残り惜しんで、いよいよ酒宴となりました。衛門の督(柏木)は、相変わらず沈み切っていますので、事情を少しはご存知の夕霧は、
「なほいと気色異なり、わづらはしきこと出で来べき世にやあらむ」
――(柏木の様子が)大分おかしい、何か面倒なことが起こりそうな気がする――
と、心配されます。このお二人はたいそう仲が良く、格別にお互いを思い合って隔てなく付き合っていますので、柏木の心も上の空の様子が気にかかって仕方がないのでした。
◆うれたし=嘆かわしい、腹立たしい
◆あへしらひ=応答、あいさつ
◆なまゆがむ心=なま(生)=不完全な、未熟な。
ではまた。
三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(1)
源氏(臣下で最高の准太上天皇) 41歳3月~47歳2月
紫の上(源氏に養育され寵愛されているが、北の方ではない)
33歳~39歳
女三宮(朱雀院の三の宮で、源氏に降嫁・北の方)15、6歳~21、2歳
冷泉帝(自身、源氏と故藤壺中宮の御子であると気づいている)
秋好中宮(六条御息所の姫宮で、冷泉帝の中宮) 32歳~38歳
明石の御方(源氏との間に明石の姫君をもうけた) 32歳~38歳
明石女御 (東宮の女御)13歳~19歳
匂宮(におうのみや) 誕生(東宮と明石女御の第三の男宮)
玉鬘(髭黒の大将の後添え・北の方) 27歳~33歳
夕霧 20歳~26歳
雲井の雁(太政大臣の外腹姫君、夕霧の北の方)22歳~28歳
柏木(太政大臣の長子) 25、6歳~31、2歳
落葉宮(朱雀院と一条御息所の二の姫宮)
蛍兵部卿の宮(源氏の母違いの弟宮)
真木柱(髭黒の大将と前北の方の姫君)
小侍従からの返事に柏木は、
「道理とは思へども、うれたくも言へるかな、いでや、なぞかく、異なる事なきあへしらひばかりをなぐさめにては、如何過ぐさむ、かかる人伝ならで、一言をも宣ひ聞こゆる世ありなむや、と思ふにつけて、大方にては、惜しくめでたしと思ひ聞こゆる院の御為、なまゆがむ心や添ひにたらむ」
――(女三宮に是非お逢いしたいという願望は無駄だとは)尤もかも知れないが、ひどい事を言ってくれたものだ。ええい、何でこんな通り一遍の挨拶を気休めにできようか。人を介してではなく、直接宮とお言葉を交わす折がないだろうかとお思いになるにつけても、あの何事にもご立派な源氏に対して、反逆めいた心持ちが加わってくるのでした――
三月晦日の日に、小弓とかで、又大勢の方々がお集まりになることとて、柏木は、
「なまものうく、すずろはしけれど、そのあたりの花の色をも見てやなぐさむと思ひて参り給ふ」
――何だか優鬱で、気分も落ち着かないのですが、女三宮の御殿の辺りの桜でも見れば、心が慰められるかと思ってお出かけになります。――
宮中の賭弓(のりゆみ)が、二月に催されるはずのところ、そのまま過ぎて、三月は帝の御母宮の藤壺の祥月に当たりますので、皆残念に思っていました折に、六条院でこのような小弓の催しがあると聞き伝えて、それでこのようにたくさん集まられたのでした。
左右に別れて競いあい、気勢をあげて弓を射、懸賞品を頂くなど、暮れゆくまで春を名残り惜しんで、いよいよ酒宴となりました。衛門の督(柏木)は、相変わらず沈み切っていますので、事情を少しはご存知の夕霧は、
「なほいと気色異なり、わづらはしきこと出で来べき世にやあらむ」
――(柏木の様子が)大分おかしい、何か面倒なことが起こりそうな気がする――
と、心配されます。このお二人はたいそう仲が良く、格別にお互いを思い合って隔てなく付き合っていますので、柏木の心も上の空の様子が気にかかって仕方がないのでした。
◆うれたし=嘆かわしい、腹立たしい
◆あへしらひ=応答、あいさつ
◆なまゆがむ心=なま(生)=不完全な、未熟な。
ではまた。