永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(445)

2009年07月14日 | Weblog
09.7/14   445回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(54)

 柏木は今もなお父君の太政大臣邸の東の対に、独身で暮しておられます。女三宮を得たいとの下心があるまま、独身を通しています。どうにも寂しく心細い時もあるのですが、

「わが身かばかりにて、などか思ふ事かなはざらむ、とのみ心おごりするに、この夕べより頭痛く、物おもはしくて、いかならむ折にか、また然ばかりにても、ほのかなる御有様をだに見む」
――(柏木は)自分程の優れた地位や器量を持っていて希望の叶えられないということがあろうかと、自負心を抱いていましたのに、蹴鞠の日の夜から、ひどく気が滅入って
思い煩うばかり。どうにかしていつか、あの蹴鞠の時くらいの仄かさで、宮にお目にかかりたいものだ――

 身分が低く何をしようと目立たない人なら、何とでもして逢う機会を作れるだろうに、
私の身分になると、めったなことも出来ず…。

「深き窓の内に、何ばかりのことにつけてか、かく深き心ありけりとだに知らせ奉るべき」
――六条院の寝殿に住まわれるような深窓の尊い御方である女三宮に、どのような手段で、このように深く恋していますと、お知らせできようか――

 と、胸が痛み苦しいので、女三宮付きの女房の小侍従という者に、例のように文を届けるのでした。

お文には、

「一日風に誘はれて、御垣の原をわけ入りてはべしに、いとどいかに見貶し給ひけむ。その夕より、みだり心地かきくらし、あやなく今日はながめくらし侍る」
――先日偶然なことで、御殿に参りましたが、宮はさぞ以前よりいっそう私をお蔑みになったでしょうね。その夜から心が乱れまして、正気もなくぼんやりと過しております――

ではまた。