イチノクラ
この響きは何度聞いても特別だ
いつだって山行前はナ-バスになる
心の奥底に臆病な自分がいる
その彼が何か伝えようとしている
そんな気がしてならないのだ
道の駅・水紀行館で仮眠
3:30起床
皆、無言で身支度を始める
今日への意気込みが伝わってくる
ロープウェイ駐車場に移動して装備を整え出発
一ノ倉出合を目指す
烏帽子沢奥壁・南稜は一ノ倉の人気ル-ト
快適なリッジやフェ-スの続き、乾いていれば快適の一言に尽きる
nksさんたちから「一ノ倉の南稜に行きたい」
そう聞いたとき、「まあ、そうなるよね」と思った
思い返せば自身もそうであった
アルパインクライミングの舞台として誰しも憧れる場所だろう
一方で不安もあった
3人を引率することへの不安だ
個々が最低限の自立した技術と知識は持ち合わせてほしい
一ノ倉は彼らがこれまで経験してきたクライミングルートとは一線を画す場所
タクティクスと装備は指定し、厳守とした
登れるかどうかではない
無事に下山ができるかどうかが重要だと諭した
メンバーは4人
skmさんは一度経験があるとのこと
nksさん、azmさんは一ノ倉デビュー
そしてsak
南稜は、一ノ倉の全体像を知る意味でとてもいい場所にある
所々でレクチャーを入れながら行く
一ノ倉沢出合駐車場で装備を付ける
河原をしばらく歩いて右岸の踏み後へ入る
沢へと復帰し、ゴーロを行くと前方に雪渓
幸いテールリッジまでつながっており、雪渓通しでいく
衝立沢側は降りられそうもないので本谷側を少し登ってテールリッジ末端
そこから衝立沢側に回り込んでからフィックスに導かれてリッジの上の出る
このあたりは知らないと思わぬ苦労をするだろう
テールリッジのスラブも一部濡れてはいるものの、フリクションは十分効いている
新人を連れてここを歩くのは何回目だろう
新しい仲間が増える度、先人の務めとして幾度となくこの道を歩いた
「連れて行ってあげれば」自ら学んでくれるだろうという期待もあった
しかしながら、多くはそうならなかった
「連れていってもらった」山行は、次への要望へと繋がっていく
つまりは「消費者」を増やしたに過ぎず、勿論長続きはしなかった
自立した登山者の育成には「主体的な学びの実現」が必要だと悟った
そういう経緯から今回のメンバー3人には厳しく指導した
もしそれでついてこられないというのであれば、遅かれ早かれ遠のいていくのだろう
時に厳しい言い方で指導したこともあり、本当に申し訳ないと思っている
「楽しい」だけではない
自分で作り上げる山、その先の景色を見てほしい
その一念あってのことなのだ
中央稜取付きでクライミングシューズに履き替える
烏帽子沢奥壁基部のトラバース
中央カンテ、凹状、変形チムニー、南稜フランケの取付きを指呼しながら南稜テラス
ロープを出して登攀体制
先発:skm-nks、後発:sak-azmでツルベ登攀
1P(リード)
南稜テラスから直上し右に少しトラバース
チムニー手前で切る
2P(フォロー)
チムニーを抜ける
3P(リード)
フェースを右上気味に
4P(フォロー)
草付き(笹原)を踏み後に従い歩く
5P(リード)
フェースから大岩を回りこむ
先発が大岩で切っていたので、その先(リッジの基部)まで伸ばすよう指示
6P(フォロー)
コールの声から先発は馬の背の途中で切った様子
azmさんには、先発より上(垂壁手前)まで伸ばすよう指示して送り出す
しかし、途中でロープが重かったらしく馬の背途中で切っていた
7P(リード)
馬の背リッジ後半、垂壁手前まで
最終Pはazmさんにリードしてもらうために切る
8P(フォロー)
リードのazmさん、最後のところで少し苦労したけどフリーで抜けた
sakも4年ぶりなので新鮮な気持ちで楽しめた
終了点から少し上がった場所で休憩
強烈な紫外線に皆干上がり、早々に下山にかかる
【6ルンゼ下降の備忘録】
下降は南稜終了点から6ルンゼ方向に少し歩いた懸垂支点から
6ルンゼ懸垂下降の注意点は3つ
① ピッチ切りに注意する(特に懸垂下降3ピッチ目)
② ロープの回収(特に懸垂下降1.3ピッチ目)
③ 斜め懸垂の危険個所(懸垂下降3ピッチ目)
①はハンガーボルトと鎖で構築された支点を繋ぐと無駄がない
南稜テラスへの最終ピッチは50mロープで、10mくらい足りないので、チムニーの下で切る
②は懸垂1ピッチ目の回収時にルンゼ内部へロープが入り込みやすいので「一定リズムで淀みなく」回収する
また、懸垂3ピッチ目は大岩の目線高さにある支点を使うとスタックしにくい
③は懸垂3ピッチ目の大岩手前を降りるとき、6ルンゼ側に引き込まれやすいので注意(先に降りた人は補助する)
無事に南稜テラスまで降りる
残置していた装備を回収したら、烏帽子沢奥壁基部のトラバース
基部バンドまでの下りは結構怖いので、南稜フランケの取付から50m1本で懸垂下降
変チの取付きあたりに流れるわずかな水を啜って水分補給する
中央稜取付きまで戻ってひと心地
靴を履き替え行動食を口にするが、すでに行動水はない
唾液分泌量が少なく、嚥下に苦労する
そうなるとテールリッジの先に見える雪渓の末端から流れる水を求めて下るのみ
テールリッジ末端から雪渓へ乗り移る
ここは「沢登」的な身のこなしが必要
ほかのメンバーは少し戸惑ったかもしれないけど、これが総合的な登山なんだと思う
雪渓は念のため持ってきた軽アイゼン着用でサクサクと
振り返れば、衝立岩が大きい
雪渓末端で念願の水分補給
1.5Lくらい補給しただろうか
最高に冷たくて、最高に美味い
そして皆、最高の笑顔
まだまだ、課題は少なくない
それでも今は皆の笑顔を噛みしめたい
岩壁を振り返る
いつだって登り終えた後の山は
ちょっとだけカッコよく見える
ここに来るたび今日を思うことだろう
sak