新・本と映像の森 88 王欣太『蒼天航路 22』モーニングKC、2001年
講談社、定価本体505円
ぼくの愛読書『蒼天航路』の22巻です。残念ながら、まだ全巻持ってはいない。
「その242」から「その252」まで。
この巻は赤壁の戦いに至る論争部分ですが、戦い自体より、こっちの方が戦争の帰趨を決めるという意味でも、論争自体の面白さという意味でも、興味深いです。
もちろん『三国志演義』に出てくるような赤壁の戦いにおける諸葛孔明の主導性というようなことは、『蒼天航路』では一切ありません。王欣太さんが諸葛孔明に与えた役割はまったく別です。
この巻の論争のひとつは、曹操陣営内の論争です。荊州を制圧した後、孫権の江南をすぐに攻めるべきか。
主戦論者の華きんと、慎重論者の杜きんの論争です。内容は略、本文を見られたい。
曹操はそれに直接答えず、揚子江を下って帰還しようと言い出す。どうして孫権の江南内を船で通ることができるのかボクにはわからない。
☆
それはともかく、この巻の主要論争である「孫呉の会堂」内で、同じ論争がより痛切に当事者によってかわされる。
論争の一方は、周瑜、魯粛、諸葛孔明、そして降伏論は重臣の張昭。内容は略、本文を見られたい。
有名な曹操の手紙が読み上げられる。
「近ごろ勅命を奉じて
罪人を討つべく
軍旗を南へ向けたところ
荊州・劉そうは
いかほどの抵抗も示すことなく
降伏した
これより水軍80万を
率いてゆく
呉の地で
孫将軍とともに
狩をいたそう」
この「脅迫状」について、作者は言う。「小説『三国志演義』の上で、この戦の一大起点は、曹操の脅迫文である。この脅迫文、正史本文にその記載は微塵もなく・・・相当に創作の色が濃くあやしい」「あやしさ極まる脅迫文-。この書簡の存在を私流に却下するところから、“蒼天・赤壁”を始めたい。」(巻末特別寄稿)
決める孫権は、全員の前で胸の内をさらけ出す。
「蒼天は
すでに死んでおるのか
死にかけておるのか
まだまだ元氣なのか?」
・・・中略・・・
「わしが
はたして
その天命を担うに
ふさわしい者であるか?
わし自身の天命とは?
国とは?
天下とは?
歴史とは?
わしはそれらを
知りたいがため
わしは
孟徳と戦うことにする」
その戦う具体策の一つとして、孫権は軍司令官周瑜に、8人の抜擢を提案する.川賊の頭目、甘寧(かんねい)や呂蒙などは、後で活躍するが、ここで初めて出てくる。
いずれにしろ、この後、赤壁の戦いに突入する、その前に作者は作家的な創作力で別の見せ場を創作する、その前夜の章である。
< 以下、再録 >
「本と映像の森 112 王欣太さん『蒼天航路 30』講談社モーニングKC
2010年12月21日 05時21分09秒 | 本と映像の森
いきなり「第30巻」です。
なぜ「第30巻」かというと、少し前に、高林の「ブックオフ」に、娘が「私の買ったマンガを売りに行くから、お父さん、車を出して」というので、ついていって、店をぶらぶらしていて、この「蒼天航路」の25巻から30巻までを衝動的に買ってしまいました。
前に曹操の参謀で、ぼくが大好きな「じゅんいく」さんのことを「本と映像の森」で書いたような気がしていましたが、どうも、まだのようですね。
王欣太(キング・ゴンタ)さんマンガ、李愕仁(イハキン)さん原作のマンガ『蒼天航路』は、三国志の「三国」のうち魏国をつくった曹操を主人公にしながら、魏・呉・蜀の3国の王や将軍や参謀たちを生き生きと描いた傑作です。
つまり曹操やその将軍・参謀も含めて「敵役」としての悪人のいない、全員が魅力的なマンガです。
曹操にしろ、負け続ける劉備にしろ、それぞれがその存在理由と、存在価値をもって生きています。
「蒼天航路」が主張する、政治・社会と文化・芸術の関係は別途書きたいと思います。
この第30巻を書いたのは、涼州に侵攻した曹操が、そこに住んでいる世捨て人「石 徳林(せきとくりん)」に会いにいくシーンが魅力的だったからです。
石徳林が住居にする川の横の、なにもない廃墟に、やってきた曹操は、石徳林のよこに座って、つぶやきます。
「宝探しか?」
「世人が追い求める栄誉を遠ざけ、口が止めることのできぬ言葉を断ち、心が断ち切れぬ親兄弟を捨て、天地をもって棟木・軒とする…いい気なものだ」
曹操は立ち上がり、川で魚をとると、石徳林のよこに立てます。
「邪魔をした」
「心腹(しんぷく)の友に少し似ていたものでな」
え!それっと、どうみても、曹操が魏王になるのに抵抗して死んだ、曹操の参謀・じゅんいくのことですよね!
(この問題はまた別途、ちゃんと解析して書きます)
曹操は、詩を歌い出します。
「神亀は 寿(いのちなが)しといえど おわる時あり
天とぶ蛇は 霧に乗るも 終には 土灰となれり」
こういうのいいですね。命と死です。
そこで石徳林が、漢詩で残りを歌い出します。
そして、曹操に聞きます。
「この詩は あんたの作か」
振り返って、石をみつめる曹操。
石は語り出します
「宝の話だが…
私は3つの宝を手にして死ぬ
そのために生きている
人をいつくしむ心
何ももたぬくらし
人の先にたたぬ生
「 ー老子 」(これは曹操の感想かも)
曹操「俺とはまるで違う」
石「だが同じだ
自分が生きる力に一転の疑問も抱いたことがない」
曹操の独白『貫けよ 寒貧(かんぴん)』
石の内心の返答『あんたもな かん雄』」