雲は完璧な姿だと思う。。

いつの日か、愛する誰かが「アイツはこんな事考えて生きていたのか、、」と見つけてもらえたら。そんな思いで書き記してます。

マグリット

2016-09-28 01:33:28 | 凄い
「マグリットに音はないのよ。。」



美術館の大きな絵の前で彼女はそんなことを言っていた。
長くて黒いストレートの髪が
絵画のフレームの前で少しだけ揺れている。
スタイルの良い体の線とよく似合う髪型だと、僕は思う。



「音って、どこから来るかわかる?」



彼女はそう続けた。



「わかんないよ。そんなこと」



僕は答えた。



「絵にも音ってあるのよ。私には聞こえるの。
うるさい音もあれば、調和のとれた音楽のような音もあるし。
街の雑踏とか、川のせせらぎとか、
波の音とか、木々のざわめきとか。
爆弾とか争いの音とか。人の話し声とか。
絵の数だけ色んな音があるわ。
こうして絵の前に佇むと、色々と聞こえてくるのよ。私。
君は聞こえたりしない?」

「......そーだね。まぁ、そんな気もする、かな。。」

「してないでしょ。そんな気なんて。君」

「......」

「あのね、たぶん音って、生まれてから今に至るまで、
自分が過ごして来た中で聞いてきた色んな音が
頭にインプットされてるのよ。
匂いみたいに。
そのインプットされている音っていうのはね、
だいたいはその音を聞いている時に見えていた景色とか
風景とかと一緒になって記憶されてるのよ。脳に」

「......そっか。うん。なんかわかるな」

「だから雨の映像を見ると頭では雨の音が鳴り出すわけ。
自分の知っている雨の音が。人それぞれの。
海を見ると波の音が聞こえるわけ。
人それぞれの。
わかるでしょ?
晴れた空の写真見て雨の音って聞こえないじゃない。
聞こえないっていうか、イメージできないでしょ?
そういうふうに音って映像とか絵からも鳴ってくるのよ」

「なるほどね」

「だから色んな絵を見ていてもね、私にはいつも音が聞こえるの。
色んな音。
心地よいものもあれば、嫌なものもあるけど。。」



その日彼女と一緒に出かけた美術展は「マグリット展」だった。
僕には特段興味がある画家でもなかったけど、
彼女に強く促されて、なんとなく、今日、ここに立っている。
目の前には「ピレネーの城」と題された不可思議な絵がドン、と、
大きく飾られていた。



「ね?音。無いでしょ。
聞こえないでしょう?海もあるのに」

「......そーだね。本当だ。なんにも聞こえない......」



改めて彼女にそんなことを言われ、僕は、ちょっと驚いた。
確かに、その絵の前では、頭の中で鳴っている音はなかった。
不思議なくらいシン......とした、
静けさの中で絵を見ている自分に気づいた。
そう言われてみれば、
この展覧会に入った時から感じていた不思議な違和感はこのせいだった。
やっと、そう気付いた。



「なんでだろう。なんで音が鳴らないんだろう......」



僕はブツブツと、そんなことを呟いた。
別に彼女に質問をしたわけでもなかったが、
彼女はその僕の言葉に反応して、
口元にクスッと小さな笑みを浮かべ、
ちょっと僕を小馬鹿にしたような感じで言葉を続けた。



「さっき言ったじゃない。
音って経験に基づいているんだって。
今まで見てきた全ての風景についている音をが記憶しているんだ......って」

「う.....ん.....」

「マグリットの絵ってね、現実にはないのよ。
見たことがないの。誰も。
そうじゃない。こんなの。
見たとしても映画とか漫画とか夢とか、そんなでしょ?
だからこの絵についている音の記憶がないのよ。
だから音が浮かばないの。シン......って、なっちゃうの」

「......そっか。。」

「シンってなるには音だけじゃなくて、匂いも、味も、
そんな感覚も無くならないといけないけど。
果物の絵とかって、その果物の味とかも浮かんでるのよ。
実は。匂いとかも。
自分では気づいてないかもしれないけど。
違う?
マグリットってそんな味とか匂いとかも消えてるのよ。
不思議なくらい。
コレが同じシュルレアリスムでもダリになるとザワザワ......って感じとか、
ノイズやアンビエントの音楽みたいなものが鳴ってくるのよ。
だからマグリットってより根源的な何かが
絵に含まれているような気がするの。
そんな静寂を感じるには空想的な絵柄が要因、、、
ってだけじゃないと思うのよ。
そんな感じなのよ。きっと」



僕は、彼女のその言葉を聞きながら、
また改めて、マジマジと絵を見てみた。
そう言われれば、そうだ。
どの絵も、夢の中のようで、でも、
夢ですら見たことのないようなものだ。
だから......音が......浮かばない......



「そうか、絵って、音が鳴ってたのか。そうか。。」



僕は、そんなことをちょっと驚きを持って理解していった。
ちょっと、彼女のことを見直してみたりもして。
不思議と、いつもより彼女が魅力的にも見えた。
そこに音は......なんとなくUKのロックバンドの音が鳴っていた。
彼女はちょっとロックだ。
イギリス系の、ロックだ。



「いいわよねー。マグリット。
私大好きなんだー。。
音なんてさ、本当はいらないんじゃないかって、
マグリットを見てるとそう思うの。
今迄どれだけ聞きたくもない音を聞かされてきたのかなぁ......って。
そう思うの。
必要な音なんて、きっと、わずかしかないんじゃないかって。
音に削られてしまった自分て、
いったいどれだけあるんだろうか?って。
そう思わない?ねぇ?」



僕は彼女の言葉に対して色々なことに思いを巡らせながら、
隣の「大家族」という鳥の絵を見つめた。
この絵だけは、以前どこかで見たような気がする。



やっぱり、音はしない。
「記念日」というタイトルの岩の絵も、音が無い。
面白い。なんだろう。この面白さは。



この岩の絵の何が?記念日なのだろう?
さっきの馬の絵は “白紙委任状”。
ドアに変な穴が開いている絵は “予期せぬ答え”。



題名はどれもよくわからない。
そもそも、意味なんてないのかもしれない。



「本当はね。岩とか石って、音があるのよ。
私にはわかるの。音があるの。
それは声かもしれないけど。
石や岩って雄弁なのよ。ホントよ



いつになく饒舌な彼女。
本当にマグリットが好きなのだろう。
でも、今日、僕も少し、この画家が好きになった。
無音の絵だけど、きっと雄弁な絵なのだろう。
その弁舌がどんな言葉かは僕にはわからないけど、
彼女の顔を見ている限り、きっと、
それはとても美しい言葉なんだろうと、そう思う。

僕らはマグリット展を出て、
美術館のあった緑の多い大きな公園を歩いて抜け出し、
街の方へと戻っていった。
街中に入ると、
なんだかいつもより色々な音がうるさいような感じがした。

街の音がやけに耳につく。

彼女の言う通りかもしれない。
僕らは普段、本来聞かなくても良い音をたくさん聞いているのだ。
聞かされているのだ。
その影響って......あるのだろうか。
あるとして、どんなものなんだろうか。

ふと横を見ると、彼女は斜め前方のビルの間に
少しだけ見えている空を見上げながら歩いていた。
彼女も今、僕と同じようなことを考えているのだろうか。
彼女に街のうるささについて聞いてみたくなった。

でも、今の彼女はちょっと凛としていて近寄りがたい。

きっと、余計な音を消し込んでいるのだろう。

そんな彼女と一緒に見上げた都会の空は、
少し青さが増したような気がした。



前回記した映画「君の名は」を見た後に、
ふと見たくなった「ルネ・マグリット=René Magritte」さんの絵。
映画の宣伝ポスターに書かれていた岩井俊二さんの推薦コメントに
目が留まったからではありますが......
自宅の書棚から取り出し、久しぶりにマジマジと眺めて見るに、
改めてマグリットさんはスゴイ作家だなぁ.....と。
そう思うわけです。

あのビートルズが作ったレコード会社
「アップル・レコード」のリンゴのロゴマークも
マグリットの林檎の絵をモチーフにしていました。
「シュルレアリスム」と言われるジャンルの基礎を築いた
とても重要な画家さんなのだと思います。

シュールなのです(^^)

ポスターでも買おうかなぁ......
どしよっかなぁ......



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マグリット 2
マグリット 3


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2 コメント

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Unknown (さとうめいだい)
2019-06-08 12:01:10
俳句を一句。

浮かんでる マグリッドの雲 五月晴れ
返信する
さとうめいだいさんへ。 (amenouzmet )
2019-06-08 13:10:51
一句。

感激の 涙の如し 紫陽花の露
返信する

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