「ソファーを買いたい」
と、友人のikuちゃんが言っていたので、昨年、
横浜の大きな家具ショップで
少しばかりのレコメンド・ガイドをしていました。
その時に、
「ソファを買うなら、
ぜひともこやつを一緒にどうかとぉー(^^)」
と、ついつい勧めてしまったのが、
アイリーン・グレイさんという女性デザイナーの方が
1920年代にデザインしたテーブル
「E-1027 アジャスタブル・テーブル」
写真は僕の自宅のものなのですが......
あくまで超個人的な思いの話となるのですが、
約100年も前に!デザインされ、
今もなお全く古さを感じさせないこのサイドテーブルは、
最早、世紀の傑作!なのではないかと。
我が家には2つほど置いてあるのですが、
それほど溺愛してしまっている一品でもあります。
コの字形に作られたテーブルの細いベース部分は
ソファの下にスルリと入り込み、
テーブルヘッドをソファーの前や上に自在に持ってくることが出来ます。
テーブルの高さも自由自在。
ソファは勿論、
ベッドや様々なタイプの椅子と合わせて使っても抜群の使い勝手。
そして、そこまで機能的であるにもかかわらず
デザインはシンプルで然りげ無く。
どんなアイテムにも部屋にも自然と溶け込んで、
それでいて主張は控えめ。
しかし、鋭く、嫌味なく、
目にしっかりと入って来る特異な存在感があります。
以前記したミースさんの「バルセロナ・チェア」とも相性はバッチリですし、
まだココで記したことはないのですが、
このテーブルと同じく個人的に溺愛している
ル・コルビジェ(Le Corbusier)さんの「LC4」というチェアとも
完璧なマッチングを見せてくれます。
今やニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションにもなっていて、
彼女の作品の中ではブリック・スクリーン(brick screen)や
デイベッド(DayBed)、
ビベンダム・チェア(Bibendum Chair)等の作品と共に、
時代を超えて世界中の人々に使われ続けている
プロダクトの一つではないでしょうか。
そんな名作テーブルのデザイナーである
アイリーン・グレイ(Eileen Gray)さんを語るには、
こんなブログなど10回使っても書ききることは出来ないとは思うのですが、
記憶に残る最近の出来事としては、
2009年にフランスのパリで行われたオークションでの一件でしょうか。
2009年2月24日。
とても小さな椅子がオークションにかけられました。
それが上の写真のもの。
画像はネットから拝借しましたが、
この妖艶な椅子の名前は「ドラゴンチェア(Dragon Chair)」。
日本では「竜の椅子」と呼ばれています。
あのイヴ・サンローランが生前にプライベート所有していたもので、
1920年頃にアイリーン・グレイさんによってデザインされ、作られた、
世界でただ一つのもの。
以下の写真はリプロダクト品ですが、
やはり独特の美しさはそのままで......
そして、
この時のオークション落札額は——————なんと!
28億円!
当時の家具における史上最高額。
その、あまりにインパクトのある金額ゆえに、
この時のオークションは各方面から
「歴史的事件」
と表現されることともなりました。
今現在、最高額となっている家具は、
貴重な宝石が散りばめられた装飾チェスト(物入れ)のようなのですが、
宝石の価格を考慮すると、実質的には、
今でもこの椅子が世界一高価な家具と言ってもいいかもしれません。
こんな偉大な作品の数々を生み出して来たアイリーンさんですが、
その作品の価値や評価というのは、実は彼女が一線を引退し、
高齢になって以降、急激に上がって来たものらしく、
彼女の価値観や仕事というのが、
時代の何十年も先を行くものでもあったことを伺えるエピソードでもあります。
そんな彼女をもう少し掘り下げてみると、
どうも彼女はLGBTでもあって、そして、
この日本という国の文化や職人哲学の影響をとても強く受けていたようでした。
実は、彼女の名声を最初に確固たるものとしたのは、
日本の「漆(うるし)」を使った数々の工芸品や家具だったようで、
彼女にその漆の技術を教えた方は菅原精造さんと言う職人さんでした。
2人の共同製作により、
西洋モダンなデザインに日本伝統の漆の技をまとった家具や品々は、
ヨーロッパのマーケットで瞬く間に話題をさらい、
人気商品となっていったようなのです。
このことを知った時に、僕は、彼女の作品の懐の深さや、
自分の琴線の奥深くに触れて来る「何か」がある理由が
とても良く理解できた気がしました。
西洋と東洋の融合。
アートとデザインの接合。
女性的感覚と男性的感覚の高次におけるバランス。
無機質なものに有機的なものを加えるセンス。
機能主義的なミニマル・デザインに
温もりや愛着までもを与えるアイデア。
想像力。
仕事への愛。こだわり。心。
紛れもなくミッドセンチュリーを代表する女性デザイナー。
今に至るまでのモダン家具の基礎を創り出した方の一人。
個人的に敬愛してやまない方の一人。
こんな本も大切に持っていて.......
最近発売されたドキュメンタリー映画のDVDも。
「アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー」
原題は「GRAY MATTERS」。
マルコ・オルシーニ(Marco Orsini)監督。
そして何より、彼女を象徴するものと言えば、
南フランス、地中海に面した村、
カップ・マルタンにある彼女が建てた別荘
「E-1027(イー テン トゥエニィセブン)」
画像はネットより拝借。
白い外壁、RCキューブデザイン、ピロティー、
屋上庭園、自由な平面、自由な立面、
水平連続窓、完全開口出来る可動式壁窓、
バルコニーと庇(ひさし)とテント地のクロス張り、
屋内採光用の天井窓ともなっている屋上へ向かう螺旋階段、
必要十分を意識したコンパクトさ、通風の良さ、
建物と一体となって機能する様々な家具......これ......
90年前の建物!?
「このヴィラこそ、世界の建築を近代へと導いた......」
と、多くの人に言わしめるまでの建物。
様々な経緯でしばらく荒れ果てていた様なのですが、
つい最近、フランスの政府機関が正式に買い取って、
保全のために綺麗に修復されました。
上の記事にも記した
「E-1027 アジャスタブルテーブル」の「E-1027」とは、
実は彼女が建てたこのヴィラの名前から取られていて。
アイリーンさんがこの別荘を建てる時に
一緒にデザインしたテーブルだったのでそう呼ばれているわけです。
この建物は、
そんな家具に至るまでアイリーンさんの思いと哲学と技術と
愛が詰まったもの。
アイリーンさんと交友のあった、あの、近代建築の巨匠、
世界遺産建築家でもあるル・コルビジェさんは、
そのあまりの居心地の良さに驚愕し、
何かにつけて訪れて、常に長居をし続けていたといいます。
そして、彼のこの別荘への異様な執着は、
アイリーンさんの許諾も得ずに、勝手に、
壁一面に自分の絵画とサインを描きこんでしまうという
暴挙までも起こさせてしまいました。
アイリーンさんはこのコルビジェさんの行為に激怒し、
この時から交友を絶ったと伝わっています。
コルビジェさんのその行為は、
この建物の著作を自分のものにしたかったのではないか......
とも言われていて、数年後には、
まるでアイリーンさんに当て付けるかの様に、
このヴィラのすぐ横に自分の別荘まで建ててしまいます。
そして、
コルビジェさんは......
この「E-1027」の真ん前の海で、
泳いでいる時に心臓発作で亡くなるのです。
彼は人生の最後まで、
この別荘を特別視し、偏愛し、訪れ続けていたようなのです。
それは嫉妬でもあったのではないか......と。
そうも言われています。
巨匠、コルビジェさんの残した有名な言葉で以下のものがあります。
「住宅は住むための機械である」
対して、アイリーンさんは、
あまり知られていませんが、
以下の様な言葉を残しています。
「家は住むための機械ではない。
人間にとっての殻であり、延長であり、解放であり、
精神的な発散である。
外見上調和がとれているというだけではなく、
全体としての構成、
個々の作業がひとつにあわさって、もっとも深い意味で、
その建物を人間的にするのである」
「創造は問いかけから始まる」
「物の価値は、創造に込められた愛の深さで決まる」
そんなアイリーンさんに、
コルビジェさんが宛てた言葉も残っています。
「あなたの家で過ごした二日の間に、
その家の内外のすべての構造に指令を出している、
類い稀な魂を称賛する機会をもつことができてとてもしあわせです。
モノトーンな家具とその設営ぶりにこれほどの風格と魅力、
機知に富んだ形をあたえているのは、その類い稀な魂なのです」
ル・コルビジェが唯一認め、嫉妬もした人。
アイリーン・グレイ。
「E-1027」にまつわるこんな話は、つい最近
「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」
という映画にもなりましたが、
その映画も見るにつけ、
そんな偉大なるヴィラを僕もいつか見に行ってみたいなぁ、と。
この体で感じてみたいなぁ、と。
そんなことを思っていたりもするのです。(^^)
と、友人のikuちゃんが言っていたので、昨年、
横浜の大きな家具ショップで
少しばかりのレコメンド・ガイドをしていました。
その時に、
「ソファを買うなら、
ぜひともこやつを一緒にどうかとぉー(^^)」
と、ついつい勧めてしまったのが、
アイリーン・グレイさんという女性デザイナーの方が
1920年代にデザインしたテーブル
「E-1027 アジャスタブル・テーブル」
写真は僕の自宅のものなのですが......
あくまで超個人的な思いの話となるのですが、
約100年も前に!デザインされ、
今もなお全く古さを感じさせないこのサイドテーブルは、
最早、世紀の傑作!なのではないかと。
我が家には2つほど置いてあるのですが、
それほど溺愛してしまっている一品でもあります。
コの字形に作られたテーブルの細いベース部分は
ソファの下にスルリと入り込み、
テーブルヘッドをソファーの前や上に自在に持ってくることが出来ます。
テーブルの高さも自由自在。
ソファは勿論、
ベッドや様々なタイプの椅子と合わせて使っても抜群の使い勝手。
そして、そこまで機能的であるにもかかわらず
デザインはシンプルで然りげ無く。
どんなアイテムにも部屋にも自然と溶け込んで、
それでいて主張は控えめ。
しかし、鋭く、嫌味なく、
目にしっかりと入って来る特異な存在感があります。
以前記したミースさんの「バルセロナ・チェア」とも相性はバッチリですし、
まだココで記したことはないのですが、
このテーブルと同じく個人的に溺愛している
ル・コルビジェ(Le Corbusier)さんの「LC4」というチェアとも
完璧なマッチングを見せてくれます。
今やニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションにもなっていて、
彼女の作品の中ではブリック・スクリーン(brick screen)や
デイベッド(DayBed)、
ビベンダム・チェア(Bibendum Chair)等の作品と共に、
時代を超えて世界中の人々に使われ続けている
プロダクトの一つではないでしょうか。
そんな名作テーブルのデザイナーである
アイリーン・グレイ(Eileen Gray)さんを語るには、
こんなブログなど10回使っても書ききることは出来ないとは思うのですが、
記憶に残る最近の出来事としては、
2009年にフランスのパリで行われたオークションでの一件でしょうか。
2009年2月24日。
とても小さな椅子がオークションにかけられました。
それが上の写真のもの。
画像はネットから拝借しましたが、
この妖艶な椅子の名前は「ドラゴンチェア(Dragon Chair)」。
日本では「竜の椅子」と呼ばれています。
あのイヴ・サンローランが生前にプライベート所有していたもので、
1920年頃にアイリーン・グレイさんによってデザインされ、作られた、
世界でただ一つのもの。
以下の写真はリプロダクト品ですが、
やはり独特の美しさはそのままで......
そして、
この時のオークション落札額は——————なんと!
28億円!
当時の家具における史上最高額。
その、あまりにインパクトのある金額ゆえに、
この時のオークションは各方面から
「歴史的事件」
と表現されることともなりました。
今現在、最高額となっている家具は、
貴重な宝石が散りばめられた装飾チェスト(物入れ)のようなのですが、
宝石の価格を考慮すると、実質的には、
今でもこの椅子が世界一高価な家具と言ってもいいかもしれません。
こんな偉大な作品の数々を生み出して来たアイリーンさんですが、
その作品の価値や評価というのは、実は彼女が一線を引退し、
高齢になって以降、急激に上がって来たものらしく、
彼女の価値観や仕事というのが、
時代の何十年も先を行くものでもあったことを伺えるエピソードでもあります。
そんな彼女をもう少し掘り下げてみると、
どうも彼女はLGBTでもあって、そして、
この日本という国の文化や職人哲学の影響をとても強く受けていたようでした。
実は、彼女の名声を最初に確固たるものとしたのは、
日本の「漆(うるし)」を使った数々の工芸品や家具だったようで、
彼女にその漆の技術を教えた方は菅原精造さんと言う職人さんでした。
2人の共同製作により、
西洋モダンなデザインに日本伝統の漆の技をまとった家具や品々は、
ヨーロッパのマーケットで瞬く間に話題をさらい、
人気商品となっていったようなのです。
このことを知った時に、僕は、彼女の作品の懐の深さや、
自分の琴線の奥深くに触れて来る「何か」がある理由が
とても良く理解できた気がしました。
西洋と東洋の融合。
アートとデザインの接合。
女性的感覚と男性的感覚の高次におけるバランス。
無機質なものに有機的なものを加えるセンス。
機能主義的なミニマル・デザインに
温もりや愛着までもを与えるアイデア。
想像力。
仕事への愛。こだわり。心。
紛れもなくミッドセンチュリーを代表する女性デザイナー。
今に至るまでのモダン家具の基礎を創り出した方の一人。
個人的に敬愛してやまない方の一人。
こんな本も大切に持っていて.......
最近発売されたドキュメンタリー映画のDVDも。
「アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー」
原題は「GRAY MATTERS」。
マルコ・オルシーニ(Marco Orsini)監督。
そして何より、彼女を象徴するものと言えば、
南フランス、地中海に面した村、
カップ・マルタンにある彼女が建てた別荘
「E-1027(イー テン トゥエニィセブン)」
画像はネットより拝借。
白い外壁、RCキューブデザイン、ピロティー、
屋上庭園、自由な平面、自由な立面、
水平連続窓、完全開口出来る可動式壁窓、
バルコニーと庇(ひさし)とテント地のクロス張り、
屋内採光用の天井窓ともなっている屋上へ向かう螺旋階段、
必要十分を意識したコンパクトさ、通風の良さ、
建物と一体となって機能する様々な家具......これ......
90年前の建物!?
「このヴィラこそ、世界の建築を近代へと導いた......」
と、多くの人に言わしめるまでの建物。
様々な経緯でしばらく荒れ果てていた様なのですが、
つい最近、フランスの政府機関が正式に買い取って、
保全のために綺麗に修復されました。
上の記事にも記した
「E-1027 アジャスタブルテーブル」の「E-1027」とは、
実は彼女が建てたこのヴィラの名前から取られていて。
アイリーンさんがこの別荘を建てる時に
一緒にデザインしたテーブルだったのでそう呼ばれているわけです。
この建物は、
そんな家具に至るまでアイリーンさんの思いと哲学と技術と
愛が詰まったもの。
アイリーンさんと交友のあった、あの、近代建築の巨匠、
世界遺産建築家でもあるル・コルビジェさんは、
そのあまりの居心地の良さに驚愕し、
何かにつけて訪れて、常に長居をし続けていたといいます。
そして、彼のこの別荘への異様な執着は、
アイリーンさんの許諾も得ずに、勝手に、
壁一面に自分の絵画とサインを描きこんでしまうという
暴挙までも起こさせてしまいました。
アイリーンさんはこのコルビジェさんの行為に激怒し、
この時から交友を絶ったと伝わっています。
コルビジェさんのその行為は、
この建物の著作を自分のものにしたかったのではないか......
とも言われていて、数年後には、
まるでアイリーンさんに当て付けるかの様に、
このヴィラのすぐ横に自分の別荘まで建ててしまいます。
そして、
コルビジェさんは......
この「E-1027」の真ん前の海で、
泳いでいる時に心臓発作で亡くなるのです。
彼は人生の最後まで、
この別荘を特別視し、偏愛し、訪れ続けていたようなのです。
それは嫉妬でもあったのではないか......と。
そうも言われています。
巨匠、コルビジェさんの残した有名な言葉で以下のものがあります。
「住宅は住むための機械である」
対して、アイリーンさんは、
あまり知られていませんが、
以下の様な言葉を残しています。
「家は住むための機械ではない。
人間にとっての殻であり、延長であり、解放であり、
精神的な発散である。
外見上調和がとれているというだけではなく、
全体としての構成、
個々の作業がひとつにあわさって、もっとも深い意味で、
その建物を人間的にするのである」
「創造は問いかけから始まる」
「物の価値は、創造に込められた愛の深さで決まる」
そんなアイリーンさんに、
コルビジェさんが宛てた言葉も残っています。
「あなたの家で過ごした二日の間に、
その家の内外のすべての構造に指令を出している、
類い稀な魂を称賛する機会をもつことができてとてもしあわせです。
モノトーンな家具とその設営ぶりにこれほどの風格と魅力、
機知に富んだ形をあたえているのは、その類い稀な魂なのです」
ル・コルビジェが唯一認め、嫉妬もした人。
アイリーン・グレイ。
「E-1027」にまつわるこんな話は、つい最近
「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」
という映画にもなりましたが、
その映画も見るにつけ、
そんな偉大なるヴィラを僕もいつか見に行ってみたいなぁ、と。
この体で感じてみたいなぁ、と。
そんなことを思っていたりもするのです。(^^)
作家さんや職人さんが
存在がなくなっても
残っていくんですね。
昔ながらの日本家屋の
実家も
現在、使っている
店の什器も父が作ったものでした。
誰ももう真似ができない(*^^*)
支配されていませんか