雲は完璧な姿だと思う。。

いつの日か、愛する誰かが「アイツはこんな事考えて生きていたのか、、」と見つけてもらえたら。そんな思いで書き記してます。

マグリット 2

2018-01-21 00:11:01 | 勇気
「マグリットに音はないのよ。。」



美術館の大きな絵の前で、彼女はそんなことを言っていた。
彼女に誘われるままついて行ったマグリットという画家の絵画展は、
絵画や美術などに全く縁のなかった僕にとっては、
なんだかとても新鮮で、不思議で、楽しい1日ともなった。
そして、その日以来、彼女の存在は、
始めて見たマグリットの絵とともに、
僕の中でとても気になるものになっていった。








僕と彼女とは、
それなりの大きさの広告代理店で共に働いている同僚だ。
エース・デザイナーとして会社のクリエイティブ部門の
屋台骨を支えている彼女は、
営業職の僕からしたら憧れの存在でもあった。
自分とはちょっと違う世界にいる人なのだろうな......と、
そんなふうに思う人だった。

長い黒髪が似合うスタイルの良い彼女は、いつも凛としていて、
程良い高さのヒールで背筋をピンと伸ばし、颯爽と歩く。
社内でもとても目立っていて、でも、普段はとても無口で。
それでなのか、
ちょっと何を考えているのか分からないようなミステリアスな雰囲気もある。
人を気安く寄せ付けない感じだ。
僕の様に何の取り柄もなく、
いつもクライアントと飲み屋でひたすら無駄話をする様な人間からしたら、
そんなところも憧れだったりもする。

でも、そんな彼女が美術館でマグリットの絵に関して楽しそうに、
子供の様に饒舌に話す姿を見たら、
彼女に親しみの様な感情も湧いてきて、
やっぱりデザインの仕事がとても好きなんだろうなぁ、とも感じたけれど、
何より、その日以来、
僕は彼女の姿をよく目で追うようになってしまった。
何かあると話しかけてみたり、
仕事の悩みの相談に乗ってもらうようなことも増えた。
彼女は彼女でそんな僕を特段迷惑がらずに、
程よい距離感と好意で接してくれていた。



......と、僕は勝手に思っている。



「......あのね、告白するとね、君を見ていると、僕は、
自分にとても自信がなくなってきちゃったりするんだよね......」



その日、僕は、仕事終わりの彼女を誘って、
オフィス近くの広くて居心地のよいカフェ・レストランに入った。
頼んだ生ビールの酔いも手伝ってなのか、
気がつくと僕は彼女にヒドイ愚痴をこぼしていた。



「ふーん。。なんで、また。そんな。
おかしいね。君」

「いや、本当なんだ。
今さ、結構仕事に悩んでいてさ。
この前君と行った美術館以来、かなり深刻に考える様になっちゃって。
自分の事。
だって、君はさ、
あの時とても楽しそうにマグリットの絵を見ていたじゃない。
仕事もそんな延長上にあって、天職みたいに好きなこと出来てるじゃん?
でも俺ってさ、新卒でなんとなく入社して、
それから毎日同じようなこと繰り返しいるみたいでさ。
それでも最初は、自分には営業が合うな、、、とか思ってんだけどね。
自分でも。
でもなんか、最近それも違うように思えて来ちゃって。
ちょっと自分の事が分からなくなっているというか、何というか。
自分のしたいことってこれだったのかな?みたいな。
そんな自問自答をする事も多くなってね」

「ふーん。。」

「うん。でさ、この前も長い休み取って旅行とか行ったりなんかしてさ。
でも、なんだかね、何も変わらないと言うか。見つからないと言うか。
自分の道とかやりたい事とかが。
煮詰まってると言うか、なんと言うか......」

「で?」

「?」

「で?」

「えっ!?あ、ああ。。それ!でね、
また、近くどこか南の島にでも行ってみようかな!?ってね。
そんな事考えていてさ。また少し休みたいってのもあるけど......」

「ふん。。」

「どう思う?俺、なんか自分を見失ってる様な?
感覚もあるんだよね。今。。」

「.......そう。
それで、南の島にいったらその見失った自分てやつは見つかるわけ?」

「ん......ん、んん。。わからないな。行ってみないと。
でも、ちょっと普段の環境とは離れて考えてみたいんだ」



小洒落た広い店内の片隅にある丸い木製テーブルの対面に座っていた彼女は、
その時、僕の斜め右後ろの遠くの方を、
どこか焦点の合わない様な目で見つめながらコーヒーをひとくち口に含んだ。
そして、その後、キリッとした鋭い目になって、
その目線を遠くの何かから僕の顔の方に向けてきた。
僕はちょっとドキッとしながら彼女の鋭い目を見つめ返した。
何だか、とても大事な事を言われそうな、そんな気がしていた。



「あのさ、君ね、、、」



彼女は僕の目を覗き込みながら、
テーブルの上のティースプーンを右手で摘み上げ、
持ち柄の先の方でトントン......と、
木製テーブルの上を軽くノックしながら、
ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
どことなく、あの時の彼女.......
マグリットの絵の前で色んなことを語りだした彼女の姿とダブって見えて来た。



「君さ、よくいるのよ。そういう人って。」

「そういう人?って?」

「そういう人。どこか、遠くに。
海外とか、そういうところに自分を探しに行ってね。
それで、結局見つからない人」

「.......」

「そういう人ってね、きっと、ずーーーーーっと、自分を探してるのよ」

「......」

「もちろん、よ。もちろん。
それで何かを見つけられる人もいるかとは思うけど。
でも、多くの場合、そんな旅?とか旅行とか?って、
自分をリセットしたり、客観的に何かを見つめ直したり、とか。
色んなアイデアのインスピレーションの為に、とか。
それで十分。そういう部分が本当のとこなんじゃないの?って。
私はそう思ってるわけ」

「.......」

「自分を見つけよう!なんて時はね、だから、私の場合は、
旅でやることなんかじゃ無いんじゃないの?
なんて思ってたりもするわけ。どう?」

「........」

「失った?自分を?見つけられる人もいるかもしれない。
でも、もし、よ。君が今回も旅に出て、それでも同じ状況だったら、
ソレはもう、旅で探すようなモノではないんじゃないの?って。
そう思うけど。
もう何度もそんなことをして、それでも見つからないワケじゃない?
自分だか何だか分からないけど、探しものが、見つからない。
じゃ、その時は、よ。
その時は探して見つかるものじゃないモノを探してるってことかもしれなくない?
そもそも探す様なものではない物を探しているって可能性があるとは思わない?
その時は、だけど」

「探すものじゃないもの......」

「そうよ。
そういうものを探してる人って、よくいるのよ。私から見ると」

「でもさ、それは君が好きなコトがちゃんとハッキリしていて、
そう言う目標みたいな物がしっかりわかっているからでさ、
俺みたいな普通の、なんの取り柄もなくて、
営業しかできない様な人ってさ、そこが無いわけだよ。
だから難しいんだよ。
タマに君の様な人が羨ましくなったりもするんだ」

「あのね。君さ。ひとつ確実に間違ってるコトあるよ」

「何が?」

「私が最初からデザインの仕事が好きだったと思ってるの?
私が最初から自分の好きな事がわかっていたなんて言うわけ?」

「そうは言い切らないけど、、、
でも、子供の頃から絵とかデザインとか?
興味あったわけじゃ無いの?そう言ってたじゃん。この前。
違うの?」

「違うわよ。何言ってるの。
勝手に決めつけないでよ。
バカじゃない?あなた。
もちろんそんな人も居るとは思うけど、私は違うわよ。
子供の頃から絵を描くことは好きだったけど、
そんな話はしたかもしれないけど、
それはその辺の皆んなと同じ様なレベルよ。上手くもないし。
別にそれを仕事にしようなんてことでもなかったし。
いつも散々悩んで考えて、自分の天職ってなんだろうとか、
本当に好きな事ってなんだろう?とか。
そんな、
アナタが「普通」って言う様な人達と同じような事は考えてきたわよ。
失礼ね。
私は普通よ」

「.......ご、ごめん。。」

「あのね、私が言いたいのは、
探しても見つからないモノとか、そんな時っていうのは探しても無駄なわけ。
ある程度探して見つからないなら、見つけるの辞めたら?って。
そういう事。
でね、そういう時は決めるのよ。決めつけるの。それでイイのよ。
自分で自分を決めつけるの。一旦。
それも解決方なのよ。立派な。
私はある時、デザイナーになるって、そう強く決めたの。
ただそれだけ。
探し当てたわけじゃないの。決意しただけ。
そういう話」

「.......決める...」

「色々な解釈があると思うわよ。
覚悟っていう事かもしれないし。この場合の決めるって。
でも、そんな重いものでなくても別にいいし。
とにかく、世界だか日本だか、
アチコチ飛び回って見つからないものなら探さなくていいのよ。
その時は決めればいいだけなのよ。
わたしはこの道で行こう!って。それだけのことじゃない。
それで、その決めた道を歩いていくうちにまた......もしかしたら、
そこから初めて君の言う?その探しもの?
みたいなモノが見つかるかもしれないし。
そういうことでもいいんじゃない?
私から見ると君の状態はそんな感じがするけど。
むしろ何かを決め切れない原因のほうが気になるわよ。
それを “自分を見失ってます.......” みたいに言ってるけど。
問題はその何かを決めきれない要因とか弱さ?意思の薄さ?無さ?
流れ通りに無理せず生きよう!なんて思ってたりしてないの?
うまく、普通に生きていければいいや、的な?
気持ちとかでもあるわけ?
自分をうまいこと慰めている様な、ね、
そんなニュアンスを君から感じちゃう方が気になるのよね。
嫌な話に聴こえていたらホント、申し訳ないんだけど」

「.......」

「あら?ちょっと言い過ぎたかな?わたし?
やめようか。もう。こんな話し。
ま、私の事を決めつけて誤解している所がね、
ちょっとイラっとしちゃったの。
変なコト言っちゃったかもしれないけど。
そこはごめんなさいね。謝るわ。
迂闊なこと言う人いるものね。
本当の自分を生きなさい!みたいな。
それがわからないから悩んでるって人にまでそういうこと言っちゃって。
まるでそれが世界や宇宙の真理?みたいな言い方してたりね。
私もね、周りからはどう見られているかはわからないけど、
別に自分の好きなことととか、天職とか、
そんな分かりやすくやってきたワケではないのよ。
いつも迷って、考えて、分からないから、
決めるとこは強い気持ちでもって決めたりね。
時には自分を騙すようなことまでして。
そうやって今の仕事してきたの。
それは同じよ。君と。間違わないで。ソコ。お願い。
そもそも、私なんか営業なんて器用な仕事できないもの。
こんなこと言っちゃう人間だしね。
すごじゃない。君は。ソコ。私そう思うわ」



この時、お店の中で響いていたあらゆる音が.......
小さな音量で鳴る店内のBGM、
客同士の話し声やスマホの音、皿とフォークがあたる音。
グラスを回る氷の音......
そんな、僕に聴こえていた全ての音が消えてしまった。
そして、彼女と見たマグリットの絵が脳裏に浮かんできて......
やっぱり、マグリットに音はなかった。



オフィスでは日々、色々な話を、色々な人とします。

何かと悩んでいるスタッフさんも沢山いますし、

皮肉にも、
何かに懸命であればあるほど
悩みというものは大きくなったりもして。

自分を安全地帯に置いて、そんな人達を責める事しかしないような人もいて。

時折、世界には「音」が多過ぎるようにも思います。

時折、音を完全に消したくもなります。

そんな世界で自分や誰かを、何かを、

ジッと見つめてみたく思う時もあります。

しかしそれは、きっと、全て、何かを「決めるため」の様にも、

そんなふうに思う時もあります(^^)



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8 コメント

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うーん (モナド明王)
2018-01-21 09:08:38
ウズメサンこんにちは!
なんか自分に説教されてるよーでしたよ、この女史(笑)
なんか、すげぇーよくわかりますね。反省…

最善となるようにとも求めてしまうから…
決めるという自由意思…
人の器の分相応…
全知全能の人間はいないと…

はぁ~仕事したくないでござる⤵
でも頑張るでござる👊

はぁ~難しいし、でも簡単だ(笑)
返信する
Unknown (ハナウタ)
2018-01-21 13:41:40
『流れ通りに無理せず生きよう!なんて思ってたりしてないの?
うまく、普通に生きていければいいや、的な?気持ちとかでもあるわけ?
自分をうまいこと慰めている様な、ね』

グサッ( ̄□||||!! とくるお言葉です!
そうやって生きてきてるなー
これからも、、、か? (^^;

感情や行動をも左右させてしまう音…
生活してると、自分にとって心地のよい音だけ、とはいかないですね!(^^)
返信する
モナド明王さんへ。 (amenouzmet)
2018-01-21 14:26:35
こにゃにゃちわー。
彼女の球は豪速球ですよねー(*´ω`*)うんうん。
返信する
ハナウタさんへ。 (amenouzmet)
2018-01-21 14:28:01
いかないですのーいかないですのー。。
だから人は旅に出るのですかのー。。(*´ω`*)
返信する
覚悟 (プリリンねーさん)
2018-01-21 18:28:20
私は、長く生きているので思うことですが、最近の若い人達は、平和で豊かな中で生きているので、明日食べる物がないということがないから、自分探しをしてしまうのでしょうね。

寅さんシリーズの一場面で、寅さんがさくらの息子に物を売ることについて、諭していて、私は、そのことを思い出していました。

この鉛筆を売るという話だったと思いますが、いつの世でも、迷い人の話は曖昧で、購買意欲は湧かないと思います。

仕事をするということは、お金を得ることで、覚悟が必要だということですね。

きっと、悩んでいる人に向けての話だと思いますが、仕事はやってわかることが多いし、最終的には、回りとの人間関係だったりするので、キラキラした素敵な人が増えるといいですね。
返信する
プリリンねーさんへ。 (amenouzmet)
2018-01-21 19:57:00
僕の場合は、いつの時代も、世代でも、きっと変わらずにある様なことではないかと思っています。
返信する
音コと音ナのハーモニー (アシュラの息子)
2018-01-22 13:38:12
自分という音が大きくなる
(自主性が高まる)と
色んな音が掻き消されます

色んな音と調和することで
人は豊かになっていくのだと思います
返信する
アシュラの息子さんへ。 (amenouzmet)
2018-01-22 14:31:52
(^_^)
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