新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)の説明(2017年版)

2017-12-25 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)は血小板に対する自己抗体のため、脾臓で血小板が処理されて、血小板が低下する疾患です。この自己抗体がちぎれる前の血小板(巨核球からちぎれた断片が血小板なので、巨核球にもペタペタ張り付きます)にも影響するとも言われています。

 

基本的に血小板産生は正常から亢進しているので、自己抗体の産生を抑えれば血小板は増えてきます。しかし、それでもダメな時は血小板を食べる脾臓を摘出したり、巨核球に刺激を与えて血小板産生を増やしたりします(巨核球にひっついている自己抗体が血小板産生を邪魔しているとも言われてます)。

 

自己抗体が関連するものは治療に基本的にステロイド剤を使用します。難治になるとリツキシマブなども使用されたりします。

 

血小板数は10万/µl以上あれば正常で、5万/µl以上あれば出血が起きやすい手術でない限りは安全に実施できるといいます(整形外科の骨切り術とかは警戒しますが)。3万/µl以上あれば(研究によっては2万/µlでも大丈夫)出血死のリスクは健常人と変わらないと言われます。

 

そのため、副作用の多いステロイド剤による治療は「出血傾向がない」状況であれば2万/µl未満、もしくは3万/µl未満になるまで様子をみます。

 

それまでに唯一できる治療がヘリコバクター・ピロリ菌の除菌です。イタリアと日本からの報告ですが、ピロリ菌陽性のITPの場合、除菌が成功すると40%の患者さんで血小板数が上昇します。そのため、ステロイド治療の前に行うことができる唯一の治療法になります。

 

・・・この疾患も、過去に説明記事を書いていないのか・・・。意外だ〜。

この疾患は特定疾患ですので、国の補助が受けられます。

 

では、簡単に書いていきます。


 

Wさんは先日健康診断で、血小板という数値が5万/µlと減少していたため、当院に紹介となりました。

 

血液検査では白血球 6000/µl、ヘモグロビン 15g/dlと正常範囲ですが、血小板数のみ5万/µlと減少していました。

 

末梢血液像では通常血液中にいない細胞、例えば白血病細胞や不良品の血液(異形成)などはなく、割合も正常でした。

 

凝固系も正常で(PTやAPTT、FDP)した。これは播種性血管内凝固(DIC)という病気やAPTTが延長して血小板が下がる病気(抗リン脂質抗体症候群)ではないことを示しています。

 

抗核抗体など膠原病の因子も異常はなさそうです。PAIgGという血小板にひっついている抗体の数を示すものですが、120と少し上昇していました。しかし、これは血小板数が下がれば普通上昇するので、参考程度と考えています。

 

Wさん:先日行った骨髄の方はいかがでしたか?

 

骨髄の検査ですが、血液細胞の数は正常で(正形成骨髄)、巨核球という血小板を作る細胞の数も正常でした。白血病細胞などはなく、異形成(骨髄異形成症候群を示唆する)もありません。巨核球は少し表面がつるんとした感じの印象を受けますが、異形成はありません。

 

Wさん:病気の原因がはっきりしないということですか?

 

いえ、今までの検査の結果からITPと診断しました。この病気は他の病気の所見がないことを示す必要があります(除外診断)。

 

血小板を造る能力が落ちる病気(急性白血病、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血など)ではなく、他に血小板の消費が亢進する病気(DICなど)でもない。肝不全などで血小板が低下しているわけでもないなど、いくつかの病気を除外して診断します。

 

ITPは血小板を壊す抗体を作ってしまい、それがひっついた血小板は脾臓で壊されてしまいます。そういう病気です。

 

治療の基本は、この自己抗体を作らせなくすることにあります。その治療薬はステロイド剤というものを使います。この薬は色々な副作用がある薬です。そのため使用開始は副作用を超えるメリットがあるときに初めて使うことになります。

 

Wさんの血小板の数は5万/µlと低下していますが、実は血小板数は2万/µlくらいまで低下しないと出血などによる悪影響(大出血、出血に伴う死亡など)は増えないとされています。そのため、出血傾向がなければ2万/µl未満、出血症状が出ている患者さんでは3万/µl未満まで様子をみます(明らかに出血しているのであれば、3万/µl以上でも治療すると思いますが、普通はないです)。

 

Wさん:そうすると、しばらくは採血しながら様子見ですか?

 

その前に一つやっておくべき検査があります。実はこの病気はピロリ菌が原因で起きることがあります。ピロリ菌が陽性の患者さんで除菌を行うと、4割くらいの患者さんの血小板数が回復するといいます。まずはピロリ菌の検査と除菌を行いましょう。

 

Wさん:宜しく御願い致します。

 


 

こんな感じでしょうか。患者さんによっては即日入院してステロイドを入れることもあります(出血傾向があり、血小板数0.1万/µlとか)し、外来で導入することもあります(血小板数1万台くらい)。

 

ITPはピロリ菌の除菌、ステロイドで治療が終了しなかった場合は、脾臓摘出術やTPO-R(トロンボポエチン受容体)作動薬などを使用します。

 

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医師の知識アップデートによる影響:多分、一部正しいのかなと・・・

2017-12-24 22:47:23 | 医療

こんばんは

 

自宅に帰ってきて、娘と一緒に公園に行ったりしておりました。娘が「大きなお家が欲しい」と言っていたのと、以前より家を買う話があった(何度か住宅展示場には足を運んでいました)ので、本格的に自宅の購入に関する相談に行ってきました。

 

妻が欲しいと言っている土地とそれに見合った建物を買うと・・・(汗

 

「頑張るしかないか・・・」と思っているところです。まぁ、大丈夫でしょう。できると思ってできないことはない・・・と僕はずっと思っています(笑

 

さて、インターネットを見ていたら、こんな記事に気がつきました。

現代ビジネスです。

広がり続ける「病院格差」 医者のレベルはこんなに違った

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171224-00053812-gendaibiz-bus_all&p=1

12/24(日) 11:00配信

 

 研究熱心な医者と不勉強な医者、経営状態のいい病院と赤字の病院――どの医者に診てもらうか、どの病院に行くかによって寿命が変わる時代がやってきた。拡がり続ける「病院間の格差」を徹底レポートする。

知識が更新されていない

 「糖尿病専門医の立場から言わせてもらうと、他の病院から来た患者さんのカルテを見て、この医者は知識が乏しいなと感じることがあります。なんで初診の患者さんに、いきなり3種類もの薬を出しているのかと、首を傾げたくなることもある。

 特に最近は医学が細分化されてきたので、内科医の場合、最新の医療知識に追いつけていない医者も少なくない。それにより、患者さんが不利益を被っているのです」

(中略)

医学の最新情報をフォローし、常に知識をアップデートしている医者と、勉強せず昔の常識のまま同じ治療を続けている医者では、当然、治療結果にも差が出てくる

 医者は常に勉強することが求められる。だが、すべての医者が勤勉で高い意識を持っているとは限らない。

 知識レベルが低い医者にかかったために、いつまでたっても治らず、より悪化したり、最悪の場合、死期を早める可能性もある。患者にとってはたまったものではないが、いまの時代、「どの医者を選ぶかで治るか治らないかが決まる」と言っても過言ではない。医者を見抜く目が患者にも求められているのだ。

(以下略)


この記事の全てが正しいとは思っていません。ただ、本質はついているかもしれないとは思います。

 

僕も自分の専門分野以外を全てフォローするのは無理だと思っています。専門分野ですら「広く、そこそこ深く」と言っているぐらいですので、他の分野で自分が追いついていないことは自覚しています(と言っても、結構勉強はしていると思いますよ。これが最新かがわからない・・・というよりはガイドラインは最新ではないので、一定レベルで改善がなければ専門医・・と思っているだけです)。専門分野でも学べば学ぶほど最新の知識はまだあると思っているのに、自分の専門分野以外まで手が回らない。それを自覚して患者さんの治療に当たれば、致命的なミスはしないと思っています

本当に細分化されてきて、全てを最新知識にするのは難しいということは診療を行う上で大きな問題です。ただ、その自覚があればガイドラインレベル(標準レベル、最低限のレベル)までは持っていけるはずだと思います(僕は一応、セルフリミッティング:「勝手に治る」疾患で、「症状を抑える」治療をする「一過性」のもの以外は確認します)。

 

しかし、たまにですが僕は専門外の分野でも「なんでこんな治療をしているのか?」と思うことがあります。そんな病院が多いとは思いません(本文中で大病院が多いようなことを書いていましたが、クリニックも多いと思いますよ。アップデートされていない医師)が、確かにそういう医師がいます。

 

当初はよくわからない治療をしている患者さんを見ると・・・「最近の治療がそういう風に変わったか?」とガイドラインなどを確認したりしますが、やはりそうはなっていなかったり・・・。

先日も「HbA1cは7.6%くらいでずっと横ばいです」と言っていた40代の患者さんを見て、「40代前半だったら7.0%は下回ってくれ(そのラインが糖尿病の合併症が止まるラインですので、若い患者さんならば目標はそこを下回るくらいにします。7.6%で満足して、そのまま放置されると20年後くらいに困るかもしれないので)」と思ったり・・・。

70~80代ならシビアなコントロールはしなくて良いかもしれませんが・・・)

 

責任感という意味では・・・数年前ですがHbA1cだけひたすら3年間、3ヶ月おきに測っていたが、他の数値はフォローされていなくて、何がいつから悪かったかがわからない患者さんがいました。結構前から症状はあったようですが、「医師には伝えていたが、ただその数値を採血するだけで、他には何もしてくれなかった・・・」と。その時は「糖尿病は落ち着いていますし、大丈夫ですよ」と言われたと言っていましたが、糖尿病が変化していないならば、他のことを疑わないのかと思いますよね・・・(汗

また、どこかのクリニックにかかっていた患者さんが予想される副作用に関する採血をしていなくて、急変して救急部に救急搬送されていた患者さんもいました。

 

全員が全員とは思いませんが、確かにそういう医師がいます。それが淘汰されないのが今の医療体制だと思います(医師が不足していれば、不勉強な医師も淘汰されずに生き残ります。今はその人数もいないと医療が回りません。今の日本には必要な医師です)。

 

血液内科分野でもボルテゾミブが出た時代(数年後)にMP療法をやっていて「これ以上の治療はできない」と患者さんに言っていた医師については「どうしてアップデートされていないのか」と思ったりしました。というか、腹が立ちました。

 

自分がアップデートできていない話は、自分の限界点を決めて紹介するなりなんなりしたら良いと思うのですが、そういう医師に限ってなかなかそういう判断ができなかったり。

 

ただ、ずっと勉強を続けるというのは難しいことなのだろうと思います。特に仕事の内容が変わってきた場合・・・。例えば患者さんの診療中心から、研究や病院などの管理に回っていけば、自己研鑽の時間は減ります。年齢が高くなればなるほど体力はなくなります。疲れやすくもなるでしょうし、家族サービスもしなくてはいけないでしょうし。

 

僕自身も来年は40歳を迎える年になりますので、今後も「広く、そこそこ深く」・・・というポジションで行くのか、何かを掘り下げるのか・・・悩むところです。そしてどこまで頑張れるか。

 

まぁ、夢を果たすまで頑張るのでしょう・・・・。

満足したり、諦めたら終わりということで・・・(笑


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僕の多発性骨髄腫の患者さんへの説明(2017年度版)

2017-12-24 20:01:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

 多発性骨髄腫の記事を書き始める前にびっくりしたこと。

 

急性白血病と同じですが、多発性骨髄腫も過去に記事にしていなかった(汗

 

骨髄腫の患者さんやご家族の相談はかなりコメントでやりとりした記憶があるのですが、どこの記事で受けていたのだろう・・・(?)

 

多発性骨髄腫も現在、どんどん治療が新しくなっている分野です。

もともと2006年にボルテゾミブが発売されるまでは自家末梢血幹細胞移植以外の方法では「延命」すらできないとされていました。治療の目的はQOLの維持・・・。

 

そんな多発性骨髄腫の治療が一変したのはボルテゾミブが発売され、サリドマイドが2008年か2009年くらいに国内で使えるようになり(個人輸入はしていましたが)、レナリドミドが2010年くらいから使えるようになり・・・です。

 それから10年ちょっと・・・

 

今ではボルテゾミブもレナリドミドも初発の患者さんから治療に使えるようになり、多発性骨髄腫の治療の両輪のような位置付けにあります。

 

この2つの薬をさらに発展させた薬剤としてプロテアソーム阻害剤のカルフィルゾミブ、イキサゾミブ、IMidsとしてポマリドミドが使えるようになりました。

 

加えてボルテゾミブにもレナリドミドにも合わせられる抗CD38抗体(ダラツムマブ)、レナリドミドと合わせる抗SLAMF7抗体(エロツズマブ)、ボルテゾミブと併用して使うHDAC阻害剤であるパノビノスタットなどがあります(何も忘れてないよね・・・存在を忘れている薬はないはず)。

 

ということで、骨髄腫の治療はどんどん発展していっています。ここではまだ完治できない病気として説明していきますが、将来は治せる病気になっているかもしれません。

 

それでは少し説明文を書いていきます。

 


 

Vさんは貧血と骨痛を主訴に近医を受診され、総蛋白が多かったことなど、いくつかの要素から血液の病気を疑われて、当科に紹介となりました。

初診時の血液検査では白血球が5000/µl、ヘモグロビンが9.0g/dl、血小板は20万/µlと貧血の状態でした。他にアルブミンという物質が3.6 g/dlと少し減り気味で、IgGという数値が550 mg/dl、IgAという数値は2500 mg/dl、IgMは20 mg/dlとIgAの上昇と他の2つの数値の低下が認められました。

(IgAが上昇しただけならまだわかりませんが、正常免疫グロブリンが低下していれば、骨髄腫の可能性が高いです。過去に成人で診断した原発性免疫不全の方がいましたが)

 

この段階でいくつかの病気の可能性が高くなり、それを調べるための血液検査と骨髄の検査を行いました。

 

血液検査では1種類の免疫グロブリンが体の中で大量に作られていること、すなわちMタンパクがあることを示す検査結果が出ました。

また、骨髄の検査では形質細胞の数が25%と増えていました。その形質細胞には異形なもの、多核のものなど異常な細胞を多く認めました。それらを特殊な検査(フローサイトメトリー)で確認しますと、CD19というアンテナは陰性、CD56陽性で、免疫グロブリンのκ鎖に偏りのある腫瘍細胞集団を認めました。

 

腫瘍であるということはこのκとλという部分は通常1:1から1:2程度ですが、今は99:1になっています。これはκというアンテナを持つ形質細胞が腫瘍性に増殖したため、このような偏りができています。

 

 

上記の結果から「多発性骨髄腫」という病気と診断しました。

 

多発性骨髄腫は形質細胞の悪性腫瘍で、骨髄という骨の中にある造血工場で「腫瘤」を作りながら増えてきます。この腫瘍は骨を溶かしながら増えるため、骨が痛くなったり、弱くなった骨が骨折したりします。溶けた骨が多くなると、骨のカルシウムが血液中に流れ込み、吐き気や意識障害、高度の脱水から腎臓を悪くしたりします(高カルシウム血症)。また、貧血が起きたり、腎臓が悪く(腎不全)なったりします(CRABと言ったりします)。

 

他にもこの腫瘍細胞がつくるタンパク質が心臓や皮膚、腸などについて悪さをする「アミロイドーシス」というものが起きたり、正常な免疫グロブリンが作れなくなることで肺炎などが増えたりします(液性免疫不全ではウイルスなどのほか肺炎球菌などの細菌感染が増えます。基本的に液性免疫不全では呼吸器感染症:肺炎などが増えると言われます)。

 

 

この病気の評価は先ほどの「貧血などの有無」、「ベータ2ミクログロブリン(B2MG)」やアルブミンというタンパク質の量、染色体異常と言われるものなどで評価をします。

 

現在は貧血と低線量CTで骨の数カ所に病変を認めます。腎機能障害はなく、高カルシウム血症もないことはわかっています。アミロイドーシスを疑わせる所見もありません。

B2MGは3.7 mg/Lでアルブミンは3.6g/dlでした。LDHは正常より少し高く、染色体異常は高リスクの染色体異常はありませんでした。

 

これらからISSという分類でも、R-ISSという分類でもII期と診断できます。

 

Vさん:それはどういうことでしょうか?

 

II期というのは中間リスクという話です。どちらのリスク分類にしても調べれば生存期間や5年生存率などが書かれています。しかし、Vさんは今から治療を受ける方ですので、話が随分変わってきています。

 

Vさん:それはどういうことでしょうか?

 

細かい説明は行いませんが、多発性骨髄腫の治療は今どんどん進んできている状況です。先ほどのリスク分類は「骨髄腫のタイプ」として参考にはしていますが、ISSは今の標準治療薬であるボルテゾミブやレナリドミドがない時代の分類です。R-ISSはボルテゾミブなどが出てからのものですが、今出てきている新規薬剤のことを考えれば、参考として考えていただきたいと思っています。

ISSもR-ISSも腫瘍の性質を反映するものとして参考にしますが、治療がどんどん良くなってきているので、生存期間などはあてにしないという意味です) 

Vさん:医療が進歩しているので、私がそれを調べてショックを受ける必要はないと言いたいのですね?

はい。あくまでVさんはVさんの治療経過がありますので、インターネットなどの情報に惑わされすぎず、一緒に治療をしていきましょう。

 

 

その治療についてですが、多発性骨髄腫は完治を目指す疾患ではなく良い状態を作り出し、それをできるだけ長く維持する「共存」を目的とした治療を行います。

 

そのため症状がない患者さんには治療をすぐに開始せずに、様子を見るのが一般的です。

Vさんは現在貧血や骨痛などの症状がありますので、治療の適応があります。

 

治療に関してですが、今ではボルテゾミブとレナリドミドという2つの薬剤を使用して治療を行います。

 

ボルテゾミブは注射薬で通院の頻度が少し多くなります。

副作用として血小板という数値が下がったり、痺れなどが出たりする(神経障害)ことがあります(というか、多い)。それ以外にも心臓や肺の障害(稀ですが)が起きたり、抵抗力が低下してウイルスなどに感染しやすくなったりします(帯状疱疹など)。B型肝炎に感染した既往がある人は、それが再燃することもあります。

 

レナリドミドは飲み薬で通院の回数は少なくて済みます。ただ、血液の数値が全般的に低下しやすいこと、それによる感染症が起きることがあります。他に血栓症が起きることや、アレルギーで皮疹や発熱が起きることがあります(免疫調整薬だからかもしれませんが)。

 

 

Vさん:どちらの薬がいいですか?

 

どちらも良い薬ですので、絶対にこっちとは言いません。ただ、腎臓にダメージがある場合はレナリドミドではなく、ボルテゾミブを使用します(レナリドミドは腎排泄、ボルテゾミブは腎不全の影響を受けない)。通院が大変なお年寄りであれば、レナリドミドを使用するかもしれません(少なくともQOLが上昇するまでは)。他は患者さんと話をしてになりますが、初回をボルテゾミブで治療を行い、その後の維持療法をレナリドミドという患者さんもいます。

 

Vさん:わかりました。ありがとうございます。

 


 

 

こんな感じでしょうか。多分、どんどん進歩している分野なので、説明が古くなってしまうかもしれません。

 

ただ、ベースは変わらないと思いますので、患者さんやご家族の役に立てば嬉しく思います。

 

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僕のバーキットリンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-23 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

バーキットリンパ腫はバーキットリンパ腫/白血病という位置付けからもわかるように高悪性度リンパ腫にあたります。

 

IgH-c-Mycという転座(たまにIgH:重鎖ではなく軽鎖と転座していることもある)によりがん遺伝子であるMycが活性化します。それにより全ての腫瘍細胞が増殖状態に入ります

増殖している細胞を認識するKi-67 (MIB-1)は100%陽性を示します。

 

腫瘍ができる場所として回盲部(小腸から大腸に行くところ、虫垂のあるところ)、中枢神経浸潤、後腹膜、某脊椎などが有名で、回盲部腫瘤では腹痛などの症状、脳の腫瘤ではそれに応じた症状、某脊椎では対麻痺などが知られます。

 

しかし、この腫瘍は強い治療を行うと長期生存率が80~90%あります。全ての腫瘍細胞が増殖しているので、抗癌剤の感受性が高いわけです。高齢者では強い治療が難しいのですが、DA-R-EPOCHの成績が良さそうということで、この治療が行われたりしています。

 

R-CHOPでは再発の可能性がかなり高くなります。

 

それでは、書いてみたいと思います。

 


 Uさん(45歳、女性)は右下腹部痛のため、ご自宅の近くの外科に搬送され、造影CTで腹部腫瘤を認めました。それによる腸閉塞と診断され、緊急手術で病変部の腫瘍を摘出しました。

 

腫瘍の病理検査で悪性リンパ腫の1つ、バーキットリンパ腫と診断されて、当院に紹介となりました。

バーキットリンパ腫は高悪性度リンパ腫の1つで、怖い話ですが週単位で増殖してくる「白血病なみ」の増殖力を持ったリンパ腫です。

今回は腹部に腫瘍ができ、全身に広がる前に腫瘍による症状が出現し、周辺のリンパ節も含め大きな病変を摘出することができました。

 

Uさん:はい。早く診断できてよかったと思います。

 

ただ、他に病変がないと言い切れないのが悪性リンパ腫の怖いところで、広がる速度が他の腫瘍よりも早く、見えない病変が存在している可能性があります。それも含め、いずれにせよ抗がん剤治療が必要になります(腫瘍が取りきれたとは言えない。仮にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫でStage Iでも放射線治療だけでなく、R-CHOPを3コース行います)。

 

Uさん:はい。わかりました。

 

治療を行う前に、摘出した場所以外に病変部があるのか評価をする必要があります。治療開始前に病変部が他にあるのであれば、治療後はそこが消失していなくてはいけないからです。今回は時間が少しありますので(手術で大きな病変が除去されているという意味です。わかっている残存病変部があれば、速やかに治療を開始します)、PET-CTと骨髄の検査を行い、評価をしてから入院、治療と行きたいです。PET-CTは塊を形成している腫瘍を、骨髄の検査は骨の中の骨髄に腫瘍がいるかいないかを確認するために行います。

 

Uさん:わかりました。

 

治療法ですが、この病気は強い治療を一定の回数行えば、完治する可能性が高い病気です。当院ではR-HyperCVAD/MA療法という治療を行います。

 

Uさん:副作用は一般的にどのようなものがありますか?

 

この治療は急性リンパ性白血病の再発時にも行うことがある治療で、抗がん剤の量としてはかなり多くなります。そのため血液が作れなくなる程度がかなり高いです。特に白血球という抵抗力の数値が100/µl未満(感度未満)まで下がることが予想されます。その期間は発熱する(感染症)可能性が高いです。貧血や血小板減少が進むことも予想されますが、白血病のように作る能力が低下していなければ、輸血をしなくて済むかもしれません。しかし、必要に応じて輸血などで対応することになります。

 

他にも嘔気・嘔吐などの副作用もあるかもしれませんが、これは制吐剤で抑えます。脱毛は永久脱毛ではありませんが、抗がん剤開始2週間後くらいから抜け始めます。他にも神経障害(痺れ)や口内炎、下痢、便秘なども起きる可能性があります。

様々な副作用が予想されますが、それを乗り越えて完治していただきたいです。

 

Uさん:わかりました。宜しく御願い致します。

 


 

 

こんな感じでしょうか。バーキットリンパ腫は増殖も早く、初期の症状によっては本当に急いで治療を行う必要があります。しかし、完治する可能性も十分にある腫瘍ですので、説明としては「治しに行きましょう!」という感じになります。

 

僕の場合は・・・ですが。

 

(もちろん、絶対に治せるわけではないですし、時折抗がん剤が効きにくい要素が加わっている患者さんもいます。それでも最初は「治しに行きましょう」と言いたいです)

 

なお、悪性リンパ腫一般という感じでは、こちらの記事を参考になさってください

悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方) 、僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)

 

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僕のマントル細胞リンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-22 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

マントル細胞リンパ腫はサイクリン D1陽性、t(11;14)という転座が特徴の悪性リンパ腫です。このサイクリンD1というものは細胞増殖のスタートボタンです。スタートボタンが入りっぱなしの悪性リンパ腫になります。

 

昔は高容量の抗がん剤治療(入院治療が必要なもの、R-HyperCVAD/MAなど)ができるのであれば実施、それが難しい患者さんではR-CHOPが標準治療でした。

 

(R-CHOPや悪性リンパ腫一般についてはこちら:僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方)

 

 

ところがベンダムスチンが登場し、VR-CAP(ボルテゾミブ+リツキシマブ、ドキソルビシン、シクロホスファミド、プレドニゾロン)など治療法の進歩があり、説明が難しくなりました。

 

僕は高齢者だとR-CHOPの反応を見て、リツキシマブ+ベンダムスチンに行くことが多かったのですが、VR-CAPは・・・?
VR-CAPの効果は論文で知っているのですが、大学から離れて医務室などで働いているのでやったことがない(VR-CAPを患者さんに使用したことがない)のでなんとも・・・(汗

 

ちなみにVR-CAPはビンクリスチン(微小管阻害剤:神経毒性が強いが骨髄抑制はほとんどない)をボルテゾミブ(神経毒性が強く、血小板産生抑制作用がある)に変更した治療で、完全寛解率が53% vs 42%と高く、無再発生存率も24.7ヶ月vs 14.4ヶ月ですので、効果は良いのです。ボルテゾミブを加えることで血小板減少が多く(72% vs 19%)、輸血が必要な患者さんも23%と多いのです。

 

ただ、有効性は高いので、70歳前後ならばこっちの方が良いかな。けど、80歳くらいだとベンダムスチンを選択するかしら・・・など、色々思っています。

 

ということで、説明が難しくない若年者のマントル細胞リンパ腫(MCL)の説明を記載します。

 


 

Tさん(62歳、男性)は巨大な脾腫の原因精査のために当院に紹介となりました。診察時に行くつかのリンパ節も触れましたので、リンパ節生検をおこなったところマントル細胞リンパ腫(MCL)と診断されました。

 

MCLは中等度悪性度に位置する非ホジキンリンパ腫で、月単位で進行します。60歳以上に多く、進行期で見つかる患者さんが多いのも特徴です。肝臓や脾臓が腫れたり、骨髄の中に入り込んだり、血液中に出てきたり、消化管ポリポーシス(ポリープ状になったリンパ腫が腸にいっぱいできる)なども起こすことがあります。

 

Tさんは今回、へそまで大きくなった巨大な脾腫がきっかけで受診されました。そういったこともよくあります。

 

Tさん:すでに脾臓とリンパ節に病変があるので、進行期なんでしょうか?

 

進行期と考えて良いと思います。ただ、最初の評価として広がり具合を確認します。そのためにPET-CTと骨髄の検査を行います。PET-CTは固まっている腫瘍を、骨髄の検査はバラバラに入ってきている腫瘍を確認するのに行います。

 

今回は進行期とわかっているかもしれませんが、治療する前にあった病変が全て消えるかどうかを確認するのは非常に重要なので、まずは検査を行います。

 

Tさん:消えることはあるのですか?

 

MCLの完全寛解率は低くないです。むしろ治療は普通に効くことが多いのですが、再発率も高いという特徴があります。

 

MCLの治療方針は65歳未満で、強い化学療法が行える患者さんは入院しての治療を行うことが一般的です。

 

当院ではHyperCVAD/MA療法(高容量シタラビンを併用する)という治療を行います。これはバーキットリンパ腫や急性リンパ性白血病の再発時に行うような強い治療になります。これにリツキシマブという薬を加えて治療を行います。

 

その後の治療効果次第ですが、自家末梢血幹細胞移植を行うこともあります。

 

それらの治療で長期に寛解状態を維持できることもありますが、再発する患者さんもいます。その場合は、状況に合わせて治療を行います。

 

Tさん:再発時の治療もあるのですか?

 

本命の治療を行う前に再発時のことを考えるのはあまりオススメしませんが、再発時にはベンダムスチンという薬やボルテゾミブという薬を使用した治療を行うと思います。また、イブルチニブという薬も承認されましたし、外国では他の薬(mTOR阻害薬など)もあります。将来は色々な薬が出てくるかもしれません。今は若いからこそできる治療でできるだけ良い状態を長期に維持させることを目標にしましょう。

Tさん:治るとはおっしゃらないのですね。

 

治るといって良いかがわからない状況です。先ほどの治療は自家移植を行わなくても、比較的良い成績が出ていますし、自家移植を併用すればさらに良い効果があるかもしれません。しかし、長期の経過で再発する患者さんもいますので、治るとは言いにくい病気です。

 

もちろん、将来は治るといってよくなる日も来ると思います。今は最良の治療を行い、それで完治していれば良いと思いますし、そうでなくても良い状態を作り出すことに大きな意義がありますので、頑張って一緒に治療をしていきましょう。

 


 

 

こんな感じになると思います。

WHO2016改訂でindolentな経過のMCLの患者さんはSOX11という因子が陰性であるということが言われるようになりました。

高齢者などでこのSOX11が陰性の場合は「経過観察」というのも選択肢になるかもしれません。

 

 

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僕の濾胞性リンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-21 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

濾胞性リンパ腫は低悪性度のリンパ腫の代表格ですが、少し難しい病気です。何が難しいのかと言いますと、他の低悪性度リンパ腫もそうですが、今のところ完治できると言えないからです。

 

完治できる病気であれば、病気がわかった時点で治療をして、完治を目指せば良いのですが、そうではないところが難しいところです。

 

そして治療選択肢として、リツキシマブが登場するまでは「経過観察して、悪化してきたら治療開始(watchful waiting)」が基本でした。積極的な治療のメリットが少ないからです。

 

しかし、リツキシマブの登場で積極的治療もOKになりました。

NCCNガイドラインではStage IやStage IIであっても抗体医療±化学療法という記載になっています。もしくは経過観察です。

 

進行期は基本的に治療をするのですが、低腫瘍量進行期という考え方があり、このグループに経過観察とリツキシマブ単剤の治療を行うのとどちらが良いかという臨床試験も行われました。

 

そんな感じで、濾胞性リンパ腫の患者さんが最もバラエティに富んだ説明、治療方針になってしまうわけです。だから大変なんです。

 

正直、唯一の説明はそういうことでないのですが(患者さんに合わせて実施します)、一つの案として低腫瘍量進行期の患者さんを例に説明をしてみます。

 

 


 

Sさん(65歳、男性)は半年くらい前に足の付け根の腫瘤に気がつかれていましたが、しばらく様子を見られていて、先日近くのクリニックにかかられました。そこから当科に紹介していただき、先日リンパ節生検という検査を受けていただきました。

 

検査の結果ですが、濾胞性リンパ腫という病気になります。

 

濾胞性リンパ腫は悪性リンパ腫のうち、非ホジキンリンパ腫というグループに入ります。これには低悪性度から高悪性度までありますが、濾胞性リンパ腫は低悪性度リンパ腫の代表格になります。

(他の低悪性度リンパ腫も治療は濾胞性リンパ腫に準じて行うなどと記載されているものも多く、これが基本になります)

 

濾胞性リンパ腫は年単位でゆっくり増大してくる悪性リンパ腫で、昔は治療を悪化傾向になるまで行わずに、タイミングを計るような腫瘍でした。

 

今は積極的に治療をすることもありますし、様子を見ることもあります。それは病気によって症状があったり、腫瘍が全身に広がっていたりした場合は積極的に治療を行います。それ以外の場合は積極的に治療をするか、様子を見てから治療を行うかは患者さんの考え方次第になります(という意味で、バラエティに富んでいます)。

 

積極的に治療を行うかどうか検討するというのは、早期に治療を開始しても、悪化してから治療を開始しても全生存率は差が出ないと言われているからです(積極的な治療が生存には影響しない)。

 

Sさん:なるほど。腫瘍があることがわかっているが、その人の生活や仕事の状況なども考慮して対応できるということでよろしいでしょうか?

 

そうですね。症状があるかないか、全身への広がり具合、検査異常などの状況、それらを総合して治療を積極的に行うか検討することになります。

 

まず、それらを判断するためにPET-CTという検査と骨髄の検査を受けていただきます。PET-CTは全身の腫瘤状になっているリンパ腫を見つけ出すのに、現在最も良い検査です(濾胞性リンパ腫でも推奨はPET-CT)。骨髄の検査はPET-CTではわからない、骨髄にバラバラと入っている腫瘍を見つけ出すのに実施します。

それらの検査を行なっている間に、必要な血液検査も行います。

 

Sさん:わかりました。宜しく御願い致します。

 

(10日後に全ての検査結果が出そろいます)

 

今日は今まで行ってきた検査の結果を説明するために、きていただきました。まず、広がり具合ですが、PET-CTでは鼠径リンパ節(足の付け根)、腹腔内(お腹の中)、胸腔内(胸の中。縦隔周囲など)などに病変は存在します。ただ、大きな病変はなさそうです。骨髄の検査では異常は認めませんでした。これらの検査結果からStage IIIとなります。

 

Sさん:進行期ですか・・・。

 

濾胞性リンパ腫は症状が出るのが遅く、診断された時点で75%の人が進行期と言われています。進行期だからと言って、ショックを受けすぎる必要はありません。ここから治療をしていくわけですから。

 

そのほかの検査結果ですが、貧血(Hbとなっています。

 

FLIPI(リツキシマブ登場以前の基準)では2点で中間リスク、FLIPI2(リツキシマブ登場後の基準)では1点で中間リスクになります。

(個人的には高リスクでなければ、あまり気にしていません)

 

先ほども申し上げましたが、SさんはStage IIIAという状態です。濾胞性リンパ腫は進行期だから治療という考え方もありますが、高腫瘍量でなければ様子を見るという考え方があります。

 

それはいくつかの基準(GELFの基準が有名)がありますが、それで亭主要領であれば経過観察というのも方法になります。

 

Sさん:低腫瘍量でも進行期ですよね。経過を見るのは怖いです。

 

そのお気持ちはよくわかります。そこでいくつかの考え方があるのですが、低腫瘍量・進行期の患者さんを対象に、経過観察をしたグループとリツキシマブという濾胞性リンパ腫治療のキードラッグのみで治療を行なったグループ、リツキシマブで治療を行なった後にリツキシマブの維持療法を行ったグループで比較をしたものがあります。

 

その結果は生存期間に差はありませんでしたが、抗癌剤を併用した治療を行う必要性が出た患者さんがリツキシマブで治療をしたグループで少なかったという結果でした。

 

(黒が経過観察、薄いピンクがリツキシマブを治療したあと経過観察、濃いピンクがリツキシマブを治療した後に維持療法をおこなったグループです)

 

ですので、全く治療を行わないのが不安であれば、そういう選択肢もあります。治療開始はいつでもできますので、Sさんとご家族で相談していただいて、来週その結果を伺えればと思います。

 

Sさん:わかりました。ありがとうございます。

 


 

 

こんな感じでしょうか。

 

症状がある患者さんやGELFの基準を満たす患者さんは積極的に治療を行うのが普通ですので、説明は「治療を行なった方が良いグループです」という内容になります。

 

限局期の場合は年齢によっては放射線治療も検討します。抗がん剤治療よりも放射線治療の方が良い場所もありますので(照射範囲内に重要臓器が少ない、鼠径部のリンパ節のみなど)、高齢者であればそれもありかと思います。

 

放射線治療も嫌だな・・・と言われれば、限局期はリツキシマブ単剤でも大丈夫です。

 

今のところ進行期の患者さんではR-CHOPを行うのが普通だと思います(こちらの記事を参照してください僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方))が、再発時の手段は色々増えてきました。ベンダムスチンなどですね。

 

再発時にリツキシマブ+内服治療という選択肢をとった患者さんもいます(再発までの期間が空いていたのと、本人が「もう点滴は嫌」とおっしゃられたので。僕の担当では2人いますね)。

 

治療方針は主治医の先生とよく相談して頂ければと思いますが、濾胞性リンパ腫はそういう意味で難しいですし、医師も患者さんもよく相談して治療方針を決めなくてはいけないなぁと思っています。

 

 

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抗がん剤治療後の妊孕性(子供を産む能力)について

2017-12-20 20:23:17 | 医学系

こんばんは

 

今日は午前中、午後と出張医療教育に精を出しておりました。いつも「聴く人にとって意味がある話を」とは思っておりますが、最近話をしている内容は結構うなづいたり、メモを取る人が多くいるので嬉しい限りです。

 

将来、聞いてくださった方の役に立つのではないかと期待しています。

 

さて、最初に先ほど中外医学社のホームページに行ったのですが、先日の血液学会で売れた本のランキングに僕の本が入っていました。

http://www.chugaiigaku.jp

1位、2位は木崎先生の編集している本ですし、4位は金倉先生の編集している本ですので、その間に入っているのは嬉しい限りだと思っております。また、現場で立ち読みした先生が買ってくださっているということですので、僕は本当に嬉しいです(中外医学社の売上情報は知らなかったので)。

 

次にこのブログに来る方の中に「抗がん剤」「化学療法」+「子供」、「妊娠」で検索している方がいるのに気がつきました。色々ご不安があって調べられているのだろうと思いまして、軽く書いてみようと思います。ただ、他に良い記事がいっぱいありますので、そこへのリンクを貼らせていただきますが・・・。

 

まず、血液疾患には様々な治療がありますが、リンパ腫の標準治療や通常のAMLやALLの治療ではリスクは低いとされています。

しかし、一般的な話ですが、年齢が高くなればなるほど性線機能障害が出る確率は高くなると言われています。

 

僕は血液疾患では探しきれませんでしたが、乳がんでは「30歳未満では大きな影響は受けない」とされている抗がん剤治療が「40歳以上で治療を受けると90%以上で性線機能不全(閉経)する」という記載があるものもあります。

 

ですので、確かにいくつかの論文にあるように上記のような治療(骨髄移植を除く)では、若年者での妊孕性の危険は少ないかもしれません。ただ、若くても0にはなりませんし、年齢が上がれば上がるほどリスクは上がると思います。

 

僕の担当した患者さんでは20代の女性は抗がん剤治療中に妊娠してしまい、堕ろすかどうかの相談をされたことがあります。「一般的に抗がん剤治療中は胎児異常の可能性があるので、妊娠を回避すべきというものがあります」と、お伝えしたところ諦められたということがありました。

(国立がんセンターの一般向け情報ページにも記載があります)

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/attention/chemotherapy/side_effect/sexual_dysfunction.html


もちろん、妊娠後半に見つかる場合は胎児への影響は少ないと思うのですけど(やりようはある)、器官形成期などに抗がん剤に暴露されているのは、胎児のリスクが低いとは言えないのです。


逆にリスクが少ないとも言われているAMLの治療でも、40歳くらいの女性では「性線機能障害になる可能性が高く、半分以上と思ってほしい」旨をご説明して治療に入ったことがあります。

 

ですので、一概には言えないのですが、20代であればリスクは比較的低いかもしれませんし、自然に閉経のリスクが出て来る40歳に近づけば性線機能障害で妊孕性が落ちる危険は高くなると言えると思います。

 

時間があって(白血病はあまり時間がないですが、リンパ腫などですぐに治療に入らなくても少しタイミングがずらせるタイプ)、妊孕性の相談などをするのであれば、主治医の先生と婦人科の先生によく相談する必要があると思います。

 

参考資料として

国立がんセンター がん専門相談員向け手引き

http://www.j-sfp.org/ped/dl/teaching_material_20170127.pdf

 

「小児・若年がん長期生存者に対する妊孕性のエビデンスと生殖医療ネットワーク構築に関する研究班」のPDF 

http://www.j-sfp.org/ped/dl/Cancer_treatment_brochure_F.pdf

 
などもご確認いただければと思います。参考になれば幸いです。
 
 

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僕のMALTリンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-20 19:15:07 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

MALTリンパ腫は低悪性度の中でも低悪性度のリンパ腫です。正常なリンパ球より増殖が遅い、固形腫瘍並みの増殖力です(早いか遅いかは考え方次第)。

 

かなりゆっくりで、複数の病変に広がることが少ないため、Stage IやStage IIが多いです。しかし、時々進行期で見つかる患者さんもいます。

 

進行期でも15年生存率は80%くらいで限局期とあまり差はないと言われています。完治と言いにくいのだけが問題ですが、一回治療が効けば長期生存が期待できます。

 

 

有名なものは胃のMALTリンパ腫(WHO 2016改訂ではヘリコバクターピロリ関連リンパ増殖性疾患のような位置付けになっています)ですが、これ以外にも腸(腸粘膜下)、気管(気管粘膜下)など菌などにさらされている場所やシェーグレン症候群・慢性甲状腺炎などの慢性炎症にさらされる場所(甲状腺、唾液腺、涙腺など)は発生することがあります。

 

それでは、まず胃のMALTリンパ腫を説明したいと思います

 


 

Rさんは先日胃カメラを受けられて、その際に異常を指摘されて当院の消化器内科に紹介になりました。消化器内科の先生がそれを生検したところ、MALTリンパ腫という病気であることがわかり、当科に紹介となりました(ちなみに話していてわかりましたが、血液内科と消化器内科で治療とその後の経過観察の仕方が少し違うかもしれません)。

 

MALTリンパ腫は悪性リンパ腫の中では非ホジキンリンパ腫と言われるグループにあたります。この中には低悪性度から中等度、高悪性度と進行速度によって別れていきますが、MALTリンパ腫は低悪性度になります。

 

その中でも低悪性度の中で最も低悪性度のリンパ腫がこれ(MALTリンパ腫)になります。

 

MALTリンパ腫は細菌や自己免疫疾患などの慢性的な刺激によって発生する悪性リンパ腫で、粘膜の下にある最近から身を守るためのリンパ組織(粘膜関連リンパ組織:MALT)から発生する腫瘍です。

 

基本的にはゆっくり進行し、手術などで摘出していた場合で他に病変部がなければ経過観察となります。また、病変部が限定されたものであった場合は「放射線治療」を行うことが一般的です。

 

ただ、胃のMALTリンパ腫はピロリ菌との関連が言われています。そのため、他の場所に病変がなく、ピロリ菌が胃の中にいる場合は除菌が最初の治療になります。ただし、ピロリ菌がいてもMALTリンパ腫にt(11;18)という染色体異常があった場合は、除菌療法は効きません(染色体転座が原因で、ピロリ菌による胃MALTリンパ腫ではないから。除菌療法の治療効果は5%未満とされている)ので放射線治療が適応になります。

 

Rさん:私はピロリ菌が関連したものでしたか?他の部位にあるかどうかというのはどのような検査を行うのですか?

 

まず、Rさんの胃の生検検体からピロリ菌が確認されていますので、ピロリ菌関連と考えています。他の部位にあるかどうかは造影CT(頚部〜骨盤)と骨髄の検査を行います。

(濾胞性リンパ腫まで・・・MALTリンパ腫以外のリンパ腫では概ねPET-CTが良いとされていますが、MALTリンパ腫は増殖が遅すぎるため、造影CTで検査を行うことが推奨されています)

 

それらの検査と並行して、先ほど言いました「染色体異常の確認」などを追加で行いたいと思います。

 

Rさん:検査ばかりで大丈夫でしょうか?

 

基本的にMALTリンパ腫はかなり増殖が遅いので、心配はいりません。このあと治療のところで説明をしますが、ピロリ菌が陽性であった場合は除菌を行います。その間、かなりゆっくり治療効果を待ちます。待つことができるほど、ゆっくりしか増えてきません。

 

このまま治療の説明を行います。

今のところ他の部位にはいない可能性が高いので、ピロリ菌を除菌する治療法の説明をします。

 

まず、I期などのリンパ腫であった場合はピロリ菌の除菌を行います。除菌から3ヶ月後に内視鏡検査と生検を行なって、ピロリ菌がいるかどうか、悪性リンパ腫がどうなっているかを確認します。

 

ピロリ菌もMALTリンパ腫もいなくなっていたら、その時点から経過観察です。

 

ピロリ菌が消えているが、MALTリンパ腫がいる場合。特に増大傾向でなければ、もう3ヶ月経過を見ます。3ヶ月後に再度評価をしますが、改善傾向がなければ放射線治療を行います。

 

ピロリ菌が消えていなくて、リンパ腫も残っていた場合は、症状がなく、大きくなっていなければもう一度違う抗菌薬を使用して除菌します。再評価は同じように3ヶ月後です。

 

症状がある場合などは放射線治療を行います。

 

Rさん:わかりました。では、一通りの検査を行って、他に病変部がなく、染色体検査で異常がなければ除菌を行うということですね。

 

基本的にはその通りです。評価については消化器内科さんと共同して行います。腫瘍細胞が確認されなくなれば(完全寛解)、最初は3〜6ヶ月(5年間はこのペースと言いますが、僕はゆっくりしか増えて来ないので、5年もやりません。患者さんも大変なので。最初に残存した腫瘍が急速に大きくなってくるのを警戒して初期にはこのくらいで行きますが、1〜2年くらいからは半年から1年にしてしまっています)のペースで内視鏡検査を行います。あとはRさんと相談してペースを決めたいです。

 

2つだけ言っておかなくてはいけないことがあります。

MALTリンパ腫は低悪性度のリンパ腫なので、忘れた頃に再発してくることがあります。一般的にいう5年間再発がなければ大丈夫という腫瘍ではないです。そのため、5年経過した後も年に1回は内視鏡検査を受けるようにしていただきます。

 

Rさん:わかりました。もう1つは?

 

胃でもどこでもそうなのですが、MALTリンパ腫からびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に性質が変わることがあります。それは増大傾向になったり、異常に大きいものはそういう傾向があると思います。何れにせよ、DLBCLの要素が捕まった場合は、治療方針はDLBCLのものに準じて行いますので、それだけはご理解頂ければと思います。

 

 僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)

 

Rさん:わかりました。その場合は宜しく御願い致します。


 

 

こんな感じでしょうか。

一般に進行期のMALTリンパ腫はあまり多くありません。ただ、時々いらっしゃいます。僕はCP(シクロホスファミドとプレドニゾロンの内服)からリツキシマブの維持療法をおこなった患者さんと素直にCHOP+Rで治療をした患者さんがいます。どちらの患者さんも完全寛解になり、無病生存中のはずですが、時折そういうことはあります。

 

(クロラムブシルがないのでCP+Rで行きました)

また、胃のMALTリンパ腫からDLBCLになった患者さんも数名いらっしゃいますが、そういうこともピロリ菌除菌の効果に期待して長期に待っていたりすると生じるのかもしれません(ある患者さんが紹介されてきた時「MALTというにはデカすぎるだろ」と思わず心の中でツッコミを入れました)

 

なお、限局期の若い患者さんで放射線治療の二次発癌を避けるためにリツキシマブ単剤で治療を行うこともあります。

 

少しでも患者さんの役に立てば幸いです。

 

 

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北海道・四国大地震の可能性:地震大国なので準備は必要ですかね

2017-12-20 05:42:39 | 北海道

おはようございます

 

ブログのコメント、ネットサーフィンなどをしているうちに5:40になっておりました。

昨日、年内最後の出張を終え、無事に帰ってまいりました。今日も帯広内で他の部署に出張しますが、歩いて行けますし、他の仕事もできますし。

 

ネットサーフィンをしていたら北海道や四国の巨大地震の可能性に関するニュースが出ていました。

 

 

北海道沖で超巨大地震「切迫している可能性」 地震本部

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000034-asahi-soci

12/19(火) 11:22配信

 北海道沖の千島海溝沿いで、今後30年以内にマグニチュード(M)8・8以上の「超巨大地震」が発生する確率は最大40%とする見解を、政府の地震調査研究推進本部が19日、発表した。東日本大震災に匹敵する規模の地震が「切迫している可能性が高い」として対策を呼びかけている。

(以下略)


 

最大M8以上の大地震の可能性 四国の活断層「中央構造線」 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000032-mbsnewsv-soci

12/19(火) 11:58配信

MBSニュース

 政府の地震調査研究推進本部は四国にある国内最大の活断層「中央構造線」について、今後30年以内に大地震を起こす可能性が高い部類に入ると発表しました。

(以下略)


僕は個人としてはあまり地震対策はしていないのですが、子供もできましたし、何かあった時の準備はしないと行けないかなと思ったりしています。

 

関東も含めて30年以内に大地震というところ(可能性があるところ)は多いですよね。犠牲者数の予測がどう見ても少ないような気がするのですが、まぁそこはそこで・・・。

ともかく発生する可能性のあるものに備えておくのは大事だと思います。

 

医師(特に血液内科医)の考え方かもしれませんが、抗がん剤治療などを行うにあたり、起こりそうなことは予測しています。本当に想定外のことが起きることもありますが、感染症(発熱)は起きるだろう・・・いつ起きるか、程度はどの程度か・・・と思って身構えていれば、たいていのことには対処できます

 

まぁ、普通の敗血症性ショックの対応で対処できずに、PMX(エンドトキシン吸着)をしなくてはいけない方もいましたが・・・(汗

これはとんでもない場合のパターンですが、行動パターンの最悪の場合の対処・・・ということです。

 

最悪まで考えてどうするか準備しておくことが大事かなと。そういう意味では個人もそうですし、国も都道府県も準備が必要ですよね。できる範囲が個人では限られていますし、都道府県の限界もあると思いますし、国の限界もあると思いますが・・・。

 

と、医者の考え方で思ってしまいました。

 

 

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僕のホジキンリンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-19 19:59:17 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

ホジキンリンパ腫に関してはABVD療法の成績が良いので、大きな変化は初発の患者さんではありません。

 

しかし、再発した患者さんに対して大きな選択肢が出てきました。僕が以前書いた頃は自家移植をするかどうか・・・という選択肢でしたが、ブレンツキシマブ ベドチン(抗CD30抗体にMMAEという抗がん剤を引っ付けたもの)と抗PD-1抗体のニボルマブが出てきました。再発した患者さんに関しては満足できる成績ではなかったので、大きな進歩だと思います。

 

ただ、ここでは初発の患者さんに対する説明ですので、前とあまり変わらないかもしれません(汗

ホジキンリンパ腫の説明(患者さん向け)(前の記事) 

それでは、書いて見たいと思います。

 


 

Qさん(20代、男性)は首のリンパ節が腫れたということで、近くの病院を受診され、当院に紹介となりました。首だけでなく、鎖骨上リンパ節も腫れていました。悪性リンパ腫を疑い、リンパ節生検をしたところ、ホジキンリンパ腫の診断を得ました。

(ホジキンリンパ腫は若年者と高齢者の2峰性ですが、若年者は頚部+鎖骨上リンパ節腫脹から始まる限局期が多いことが知られています。限局期の長期生存率は90%前後です)

 

Qさんは他に調子の悪いところはありましたでしょうか?例えば、熱が出るとか寝汗がひどいとか、体重が減ってきたなど。

 

Qさん:発熱と寝汗があります。寝汗は布団が濡れて、夜中に着替えるくらいぐっしょりです(ホジキンリンパ腫はB症状が30%くらいの方に出ます)

 

なるほど。もしかすると病気のせいで、そのような熱が出たりしているかもしれません。治療をして熱がでなくなれば、病気が原因です。

ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫の1つですが、20代と60歳前後の高齢者に多いとされています。ホジキンリンパ腫は5つのタイプに分かれますが、Qさんのタイプは古典的ホジキンリンパ腫に入る「結節性硬化型」です。これは15歳から30歳くらいまでに多いとされています(上のような特徴のホジキンリンパ腫です。ちなみに明らかにタイプが違うのは結節性リンパ球優位型というタイプで、これはCD20が陽性でCD30は陰性という特徴があります)。

 

今から病気の評価を行なっていきます。広がり具合を見ることと、血液検査などの評価を行なっていきます。

広がりを見る検査はPET-CTと骨髄穿刺というものを行います。PET-CTは腫瘍細胞が固まって存在している場所を見つけるのが得意な検査です(細かくは「悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方)僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)」を参照してください)。一方、骨髄の検査はPET-CTでは見つけることができない、バラバラに骨髄の中に入り込んだリンパ腫細胞を見つけるために行います。これらの検査を行い、血液検査でさらに細かく評価を行います。

 

(上記の検査結果が出て、結果説明と治療の説明を行います)

 

Qさんに先日受けていただいた検査の結果が出ました。まず、PET-CTですが、最初にあった首と鎖骨上リンパ節の2箇所だけでした。骨髄の検査でもリンパ腫の浸潤はなく、StageはII期になります(Stage IIB)

 

ほかの評価も行なっていますが、発熱などのB症状があったためかアルブミンは少し減っていましたが、貧血もなく、白血球の上昇も12000/µl程度でおさまっていました。ほかのリスク因子もなく、国際予後スコアという評価方法では2点になります。

 

これの統計学的な意味は説明できますが、Qさんには治っていただきたいと思っていますので、一緒に治す。治るという気持ちでいていただければと思います。万一の時の治療法はいくつか考えがありますので、まずは今から説明する標準治療を理解して、受けていただければと思っています。

(ちなみに限局期ホジキンリンパ腫では血沈を治療前に見ることもあります。というかチェックする医師は確認します)

 

治療に関してですが、ABVD療法という治療法を行います。これはドキソルビシン(アドリアマイシン)、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジンの4剤による抗がん剤治療で、この組み合わせを2週間ごとに2回を1サイクル(要するに4週間、1サイクル)とする治療法です。これを病気の状態に合わせて治療を行います。

 

標準的には限局期にはABVD療法を4コース行なった後に、腫瘍があった場所に放射線治療を行います(IFRT)。しかし、放射線治療は二次発癌の危険があります(30年後の発癌率)。私の方針としては20歳代であれば放射線治療を避け、ABVD6コースで行きます。これは巨大腫瘍(Bulky mass)がなければ標準治療として認められています。(高齢者の限局期には放射線治療を行います。ABVDは骨髄抑制が強くてやりきれない時がありますので)

 

 

 

Qさん:2次発癌とはどのようなものでしょうか?

 

放射線治療を行なった後に白血病や固形癌などの危険が普通の人より上昇します。時間がたてばたつほどリスクが上がっていきます。今の時点では30年後のリスクという論文が示されており、標準化罹患比(一般人のグループと比較した時にリスクが何倍になっているか)を調べると4.6倍になっています。

 

Qさん:もし、放射線治療を使わなくても治りますか?

 

先ほど言いました、ABVD療法を6コースで治る可能性は同等と評価されています。

(ちなみに、前の記事:ホジキンリンパ腫の説明(患者さん向け)に書いていますが、ABVD+IFRTはABVDのコース数や放射線治療の強度など様々なものが検討されています)

 

わかりました。頑張って治療を受けます。宜しく御願い致します。

 


 

 

と、こんな感じでしょうか。ホジキンリンパ腫の基本はABVD療法です。それでかなり治る可能性は高いです。

しかし、再発、もしくは最初から効きにくい患者さんがいらっしゃいます。そういう患者さんに対してはESHAP療法などプラチナ製剤を含んだ治療法から自家移植などに行く患者さん、先ほど書いたブレンツキシマブ ベドチンを使用する患者さん、ニボルマブを使用する患者さんなどに分かれると思います。

 

ただ、まずはABVDを完遂できるかどうかが重要です。高齢者には意外ときつい治療なので(40代でもやりきれなかった方がいました)、そういう意味でもやり遂げるというのは一つ重要なことです。ただ、無理な場合はうまく調整しながら治療するのが重要だと思います。

 

 

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