後頚部、とくに項部の天柱や風池あたりの刺激が重要なことは、多くの鍼灸師によって指摘されきた。筆者も2007.3.15ブログ報告「頸性めまいと半身脱力感に対する後頚部刺針」にて、後頭下筋の緊張が頭位認識に重要で、後頭下筋のコリはめまいを生ずるから、上天柱や天柱に深刺することが有効なことを説明し、2012.10.14ブログ報告「緊張性頭痛治療に効果的な天柱・上天柱の刺針体位(追補あり)」にて、具体的な刺針姿勢について説明した。
今回は、前記の具体的な刺針姿勢の応用として胸鎖乳突筋の刺針に言及する。
1.頸性めまいと良性発作性頭位めまいの病態生理の類似点
良性発作性頭位めまいは、内耳にある耳石片が三半規管に流れ込むのが原因と考えられているのだが、良性発作性めまいの発作は、一定の方向に頭や体の位置を変える(具体的にはベッドから寝起きする際、ベッド上で寝返りをうつ)際に、グラッと床が傾いた感じがすることによって生ずる回転性めまいということである。
しかしめまいを熱心に治療している生野医院HPの説明によれば、「良性発作性頭位めまい」と「頚性めまい」の区別は困難だという。良性発作性頭位 めまいがあれば、頚部のコリは付随するからである。要するに、針灸治療でも両者の治療は同様に考えていいと思われる。
2.胸鎖乳突筋をゆるめる刺針技術
胸鎖乳突筋の強い圧痛を生ずる代表疾患には、ムチウチ症がある。しかし発症動機が不明であ っても、本人も気づいていないのに、胸鎖乳突筋に中等度の圧痛をみることは少なくない。そう したたぐいに、「頸性めまい」や「良性発作性頭位性めまい」がある。
1)仰臥位で横を向かせての刺針(従来的)
ベッドに仰臥位に寝かせ、健側に顔を向かせ、患側の胸鎖乳突筋を露見させる。これまでは筋の圧痛点に、数カ所刺針していたのだが、胸鎖乳突筋停止部付近に刺針するだけでも同じような効果が得られることを知った。
2)座位でストレッチさせての刺針(新式)
座位で胸鎖乳突筋をストレッチ状態で固定しつつ、胸鎖乳突筋停止部に刺針する方法。筋コリを指先で把握しやすく、従来の方法より効果がある。
①座位で上を見るよう、そのまま健側に頸を向くよう指示する。(患側胸鎖乳突筋のストレッチ状態)
②術者の上腹部を、患者の健側後側部にあて、患者の頭を保持。
③寸6#2~#4程度で胸鎖乳突筋の乳様突起付着部停止の筋硬結を触知し、雀啄10秒で抜針。刺針ポイントを変えて数回繰り返す。
上画像は、海外のネットで偶然発見したもの。実際には、もっとしっかりと患者の頭を施術者の上腹~胸に押しつけ、乳様突起直下の胸鎖乳突筋に雀啄針を行う。