1.めまいと頭頂部浮腫の相関性
めまい発作が起こる時期になると、百会を中心として「神聰四穴」あるいは「廻髪五処」の領域で、広い範囲で皮下浮腫状態が観察され、発作が鎮まるとその程度が減 弱する症例があったとして、めまいと水毒、水毒と百会は密接な関係がありそうだ、と代田文彦先生は記している。
竹之内診佐夫氏も、メニエール病患者は、頭頂部付近の皮下浮腫帯がみられ、この部の浮腫の消長と症状が一致することを指摘した。浮腫部に対する治療として、通天または絡却から百会に向けての横刺を行うことで、著効47%、有効53%(30症例中)の成績を得たという。(竹之内診佐夫ほか:めまいと鍼灸治療、全日本鍼灸学会雑誌 1985; 35(2): 117-125.)
2.頭頂部と頭頂導出静脈
百会と頭頂導出静脈の関係については、本ブログ<現代医学的針灸>の中の、「 百会の治効と導出静脈」2011.12.03報告で既に記している。その内容を要約すると次のようになる。頭蓋内の欝血、静脈血の環流の妨げがあると、頭蓋の外側に静脈血が流れ、環流をはかるようになるので、百会・通天に刺針施灸または瀉血をすると、この部分の血行を促進し、従って頭蓋内の欝血を除く。これは代田文誌先生が考案し、代田文彦先生にも継承された。
3.クモ膜下腔の狭小による脳脊髄液環流不全が想定される可能性
この考え方は、内臓体壁反射で有名な石川太刀雄(病理学者)も同調した。現代の臨床医である入野宏明氏は、頸性めまいの一所見として、頸部におけるクモ膜下腔の狭小による脳脊髄液環流不全が想定される可能性があることを指摘している。
脳脊髄液は、静脈洞の膜顆粒を通過して静脈血に吸収される場所と考えられているのだが、本来脊髄を下降すべき髄液が、頸部クモ膜下腔の狭小により、クモ膜顆粒を通しての静脈洞環流量の増加は、頭頂導出静脈を介して、頭頂部浮腫をつくるのかもしれないと記している(入野宏昭:めまいについて、入野医院HP)。
つまり頸性めまいの原因とは、頸部に下降すべき脳脊髄液が、静脈洞窟に流入する結果であり、その所見として頭頂付近の浮腫をみるという機序になる。
脳脊髄液は、前庭水管を介して内耳の外リンパ液と交流しているので、脳脊髄液圧上昇は、内耳リンパ液圧上昇を生じ、メマイ・難聴・耳鳴といった内耳症状を起こすことが考えられる。これらの事項は、頭頂浮腫、内耳症状の治療として、頸部治療が重要だとする一つの根拠となるだろう。
話は横道にそれる。故<北杜夫>は小説家であると同時に医師でもあった。北杜夫のユーモラスな自伝を読んでいたとき、医学部卒業試験だったかの教授との口頭試問されることがあった。その時の教授からの質問は「頭頂導出静脈は普段、頭蓋祖外から頭蓋内へ流れているか、それとも頭蓋内から頭蓋外へと流れているのか」だった。極度に緊張した北杜夫は、「内から外に流れる」と返したが、教授に「本当にそれでよいか」と問われると、「いや、外から内に流れる」と回答を変えた。すると教授は、また「本当にそれでよいか」と問いただしたので、しどろもどろになったとったエピソードが紹介されていた。「外から内に流れる」というのが正解である。