AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

八髎穴の選択と刺激方法の選択

2012-11-22 | 経穴の意味

1.序

最近行われた「現代鍼灸科学研究会」の席上、中髎穴への刺針が話題になった。ある先生は、1㎝刺せば十分だと話し、別の先生は、深刺して響かせなと効果がないと発言した。どちらが正しいといえるのだろうか。この辺りの知識を調べてみることにした。


2.仙骨神経の走行


仙骨神経は左右5対(S1~S5)ある。脊髄を出た後、仙骨神経は後枝と前枝に分かれる。仙骨背面には、左右4つずつの後仙骨孔(第1~第4後仙骨孔)があり、この後仙骨孔ら、S1~S4神経経後枝が出てくる。この中で、とくに S1-S3後枝外側枝は中殿皮神経と称され、仙骨部を中心とした皮膚知覚を支配する。

一方S1~S3の前枝は、前仙骨孔から出てきて、L4・L5神経枝とともに仙骨神経叢をつくる。


3.後仙骨孔からの刺針

仙骨の後仙骨孔(第1~第4後仙骨孔)対応して八髎穴がある。すなわち上から順に、上髎・次髎・中髎・下髎である。第1後仙骨孔(上髎)への刺針が最も深く、足方向に向て斜刺60度程度となる。第4仙骨孔(下髎)への刺針は比較的浅くほぼ直刺になる。

針灸治療において、これら4穴の中では、次髎と中髎が使用頻度が高いので、ここでは中髎を例にとって刺針を検討する。

1)中髎直刺深刺

中髎穴を刺入点として、第3後仙骨孔孔中に刺入すると、まず第3仙骨神経後枝を刺激できる。第3後仙骨孔を貫通した後、針は仙骨管(仙骨管中には硬膜があり、硬膜にまれた馬尾神経がある)に入り、ときに仙骨神経前枝も刺激し、第3前仙骨孔中に入っ本孔を貫通し、骨盤内に入る。

その後、仙骨神経叢中に入り、仙骨神経叢から発する神枝である坐骨神経や陰部神経を刺激し、それら支配領域に針響を与えたり、筋収縮反応生ぜしめたりする。すなわち坐骨神経を刺激すれば下腿までの針響が生じ、陰部神経を激した場合、肛門や生殖器に針響が至ることになる。


これらの仙骨神経叢を刺激するためには、針は6㎝程度の深度が必要なので、2寸以上長さの針を使用することになる(ただし第3前仙骨孔入口から第3後仙骨孔出口までの骨の厚みは約3㎝)。

 

 2)中髎斜刺深刺

第3後仙骨孔上の皮膚を刺入点として、頭頸部方向に斜刺して仙骨後面に鍼を沿わせる方法。第3前仙骨孔中はもちろん、第3後仙骨孔中には刺入しない。本法は、北小路博司先生が泌尿器疾患の治療で行う方法である。これには2寸8番針を使用し、50㎜皮下に刺入する。仙骨孔中に深刺しなくてもこのような方法で骨盤神経(S2~S3)に影響を与えていることが知れる。

 

 

 

4.八髎穴の中で、どの穴を使うか? 刺激深度・方向はどうするか?

1)坐骨神経症状、陰部神経症状をつかさどる仙骨神経叢は、L4~S4前枝で構成されいる。

この仙骨孔から出る部を1カ所刺激するとすれば、ほぼ中央になるS2仙骨孔、すなわ次髎が妥当であろう。しかしながら、坐骨神経を刺激するのであれば、殿部ほぼ中央にる坐骨神経ブロック点から刺針する方が容易である。陰部神経を刺激するのであれば、部神経刺をする方が容易である。すなわち坐骨神経痛や陰部神経症状に対し、あえて次から深刺(6㎝程度)する意義は乏しいであろう。 

2)泌尿生殖器臓器の副交感神経機能をつかさどる骨盤神経は、S2~S4なので、S3骨孔である中髎刺激が妥当である。中髎からの刺激は、骨盤神経を刺激するのに適切だが、後第3仙骨孔に入れるほど深刺をしなくても、泌尿生殖器疾患の治療に効果のある場合が多い。表面刺激である施灸刺激でも差し支えないのかもしれない。

3)上記見解により、仙骨を貫通するほどの次髎や中髎からの深刺は不必要であると考えた。この目的では坐骨神経ブロック点刺針や陰部神経刺針の方が容易である。ただし太い針で仙骨骨面に沿わせるなどの針や、大きな艾炷で壮数を増やすなどの強刺激は必要かと考えた。