AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

指端刺絡の作用

2006-06-24 | 経穴の意味
1.指端刺絡の概略
1)方法
 指端刺絡とは、手足の各指の左右爪甲根部から、三稜針等で刺絡し、ごく少量出血させる方法で、針灸治療の伝統的手法の一つである。この部は古典的に井穴とされ、大部分が各経絡の末端になる。

2)従来的適応症
 古典五兪穴の作用分類では、心下満(心窩部のつかえ感)の際に使うとされる。実際的には、急性心疾患や脳卒中発作時の緊急処置としても適応がある。常用法では、対症治療として神経根症時や糖尿病等での知覚鈍麻に使うと速効することが多い(持続効果は丸1日程度)。

2.指先刺絡の作用機序
1)グロムス機構とは
 手足の指の末端の血流は、動脈から静脈に流れる経路で、一般的な毛細血管を経由するものとは別に、小動脈から小静脈へと短絡する経路がある。これをグロムス機構(動静脈吻合)といい、指先にあるものをとくに指端グロムス機構とよぶ。

2)グロムス機構の臨床応用
 寒冷時にはグロムスを閉じて末梢血流量を減らすことで核心温度の低下を防止し、熱暑時にはグロムス機構を開いて放熱を盛んにするというのが本来の生理的意義がある。指端の1カ所の指先グロムスを刺激すると、その指の血行が促進されるので、知覚麻痺に効果がある。それにとどまらず、理論上は手足全部のグロムスに影響を与え、全部の指の血行を改善するとされる(石川太刀雄)。

 指先グロムス刺激では、脳や心臓などにはグロムスはないので内臓血流に変化を与えることはできない。しかしながら実際には脳卒中や虚血性心疾患時の承知として効果的なので、指の末端といった知覚過敏部刺激による血管収縮に関係するとも解釈できる。

3.指端刺絡と自律神経の関係
 古典針灸書をみてみると、治療法として、「まず刺し、・・・・」という記述に出くわすことが多い。これはまず「刺絡し、・・・・」ということだとされている。針灸治療の最初に刺絡処置を行った後、本格的な補瀉治療が行われた。つまり刺絡は補法でも瀉法でもないという解釈をしているらしい。刺針時の切皮痛は補でも瀉でもなく単なる有害刺激とするのが普通だが、指先刺絡に限定するなら、部位的特性として知覚に敏感なので、刺痛を伴いやすく、結果的に瀉法になってしまうと私は考えていた。ところがそういう訳でもないことを知った。

 近来話題になった本に、安保徹著「医療が病いをつくる 免疫からの警鐘」岩波書店刊がある。福田稔医師は安保理論をベースとし、浅見鉄雄医師の論文を追認し、指端刺絡が副交感神経興奮作用のあることを提示した(」難病を治す驚異の刺絡療法」マキノ出版による)
 浅見先生の見解は、30年来の実践から生まれたそうで、手足の第4指からの刺絡は、副交感神経緊張を抑えて交感神経緊張を亢進させる作用があり、副交感神経緊張で悪化する疾患(喘息・アトピー性皮膚炎・蕁麻疹など)などに適応があると述べている。なお浅見先生の井穴刺絡では一カ所につき30滴ほど出血させるという。私は2~3滴程度だったので意外な感じがする(浅見鉄雄先生の井穴刺絡学:優游堂本舗「戸塚鍼灸院別館」HPより)。
 福田先生の見解は、第1、2、3,5指からの指端刺絡は交感神経緊張を弛める作用があるとするもので、広義の交感神経緊張症(頭痛、高血圧、肩こり、腰痛など病の大部分)に効果があるとしている。

 刺絡した指は、<血行がよくなる→すなわち副交感神経緊張に傾く>とは理解できるにしても、なぜ第4指だけ逆の作用になるのか分からない。しかしメカニズムが分からなくでも治療に役立てばよいとするのが臨床家の考え方である。交感神経緊張にもっていく治療は、西条一止理論では座位での灸治療だったので、武器がもう一つ増えた格好になる。本当に使える武器なのか否か、今後追試してみたい。