1.月経痛とは
下腹部不快感、下腹部痛、腰部や肛門に響く痛み、頭痛などが、月経開始日やその前日くらいから始まり、月経終了時まで持続する状態。
2.機能性と器質性の鑑別
月経痛にも機能性と器質性がある。機能性では症状を軽減させることが治療目標になるが、器質性では症状を起こしている原疾患の追求が必要になる。
思春期~十代女性で、月経直後からの痛みであれば機能性を考える。しかし20~30歳代以上で、月経数日前もしくは月経とは無関係の痛みであれば器質性を疑う必要がある。
器質性月経困難症にはつぎのものがある。
20~30歳代→子宮内膜症(不妊症の合併あり)
中年女性→子宮筋腫、子宮癌
月経は正常→卵巣嚢腫や卵巣癌(初期)
3.機能性(原発性)月経困難症の機序
1)過剰なプロスタグランジン産生
黄体期(高温相期)には子宮内膜でプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が増大し、またプロゲステロンからプロスタグランジン(PG)が産生される。
過剰なPGは、過剰な子宮筋収縮→子宮内圧亢進→子宮筋虚血という悪循環により月経痛が生ずる。月経時にみられる悪心・嘔吐・腰痛・下痢・頭痛などの全身症状は、PGとその代謝物質が、子宮内に限局せずに、体循環に流入して起因する。
※プロスタグランジン(PG)とは:細胞や血小板でつくられるホルモンの総称。PGが胃や食道で増えれば嘔吐し、腸で増えれば下痢となる。また気管支では咳となり、頭部血管が収縮すれば頭痛になる。そして子宮で増えれば強い月経痛となる。とくにプロスタグランジンF2αには、平滑筋刺激作用があり、子宮筋や胃腸筋を刺激し収縮させる。この機序からPGは分娩促進剤としても用いられる。
2)子宮頸管の狭小
出産経験のない若い女性では、子宮頸管が狭いことがある。この場合、月経血を外に出そうとする際、子宮頸部を無理に押し広げることになるので、強い子宮収縮や子宮痙攣が起こり、月経痛となる。
4.機能性月経痛の体壁反応点
針による鎮痛は、子宮収縮の程度を弱めるのではなく、関連痛の鎮痛によるものだと思われる。したがって興奮する体性神経の鎮静が重要になると考えている。鎮痛剤バファリンのコマーシャルのうたい文句は「頭痛・歯痛・生理痛に」であるが、腹痛を止めるには、副交感神経緊張を弛めるために抗コリン剤である鎮痙剤(ブスコパンなど)が有効となるのである。
1)交感神経興奮→体性神経興奮による反応点
交感神経興奮に伴う子宮体部や子宮頸部の平滑筋収縮による痛みは強いものではなく、二次的に生じた同じデルマトーム上(Th10~L1)の体性神経興奮により強い痛みを感じる。
Th10~L1脊髄神経後枝反応は、脾兪~三焦兪に、Th10~L1脊髄神経前枝反応は天枢~横骨に、それぞれ筋コリや自発痛として出現する。またL1神経への過剰入力は腰神経叢(L1~L3)を興奮させるので、腸骨下腹神経・腸骨鼡径神経・陰部大腿神経などの分布領域に筋痛や皮膚過敏をもたらす。
2)副交感神経興奮→陰部神経興奮による反応点
子宮体部や子宮頸部の内臓興奮反応は、副交感神経反応として骨盤神経が興奮する。骨盤神経はS2~S4支配であり、S3仙骨孔の中りょうが代表穴である。副交感神経性の痛みは強いものではないが、同じS2~S4からは体性神経性の陰部神経も出ているので、二次的に陰部神経が興奮すると陰部神経支配領域に強い痛みが出現する。肛門・膣・前陰部の痛みは、このために起こるのであろう。
5.月経痛の針灸治療
内臓痛に対する針灸治療の効果は一般に不安定であるが、月経痛に関しては非常に効果がある。内臓痛一般では、関連痛が内臓痛を上回る強い痛みであれば重篤疾患を予期して病院受診するのが普通だろうが、月経痛では非常につらくはあっても、毎月のことなので患者に重篤感がなく、針灸受診する余裕があるからだろう。
月経痛に針灸がよく効くのは、症状が体性神経興奮主体だからであろう。
1)背腰腹部の治療
脊髄後枝反応→脾兪~三焦兪の筋コリや圧痛点に施術
脊髄前枝反応→天枢~横骨の筋コリや圧痛点に施術
2)仙骨部の治療
陰部神経反応→中りょう付近の圧痛点に施術
3)遠隔治療
腰神経叢興奮→大腿神経興奮→伏在神経興奮の機序で三陰交を中心とした下腿内側に皮膚過敏が出現する。これらの施術により関連痛をゆるめる。
※筆者ブロク「三陰交の治効機序」を参照
4)月経痛の針灸治療の実際
三陰交に皮内針すると、大部分の例で痛みは改善する。残存する痛みがなおも強いようならば、中りょう付近の圧痛点に皮内針を追加。それでも効果不足であれば、腰痛時には脾兪~三焦兪、下腹痛時には天枢~横骨の反応点に皮内針する。
下腹部不快感、下腹部痛、腰部や肛門に響く痛み、頭痛などが、月経開始日やその前日くらいから始まり、月経終了時まで持続する状態。
2.機能性と器質性の鑑別
月経痛にも機能性と器質性がある。機能性では症状を軽減させることが治療目標になるが、器質性では症状を起こしている原疾患の追求が必要になる。
思春期~十代女性で、月経直後からの痛みであれば機能性を考える。しかし20~30歳代以上で、月経数日前もしくは月経とは無関係の痛みであれば器質性を疑う必要がある。
器質性月経困難症にはつぎのものがある。
20~30歳代→子宮内膜症(不妊症の合併あり)
中年女性→子宮筋腫、子宮癌
月経は正常→卵巣嚢腫や卵巣癌(初期)
3.機能性(原発性)月経困難症の機序
1)過剰なプロスタグランジン産生
黄体期(高温相期)には子宮内膜でプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が増大し、またプロゲステロンからプロスタグランジン(PG)が産生される。
過剰なPGは、過剰な子宮筋収縮→子宮内圧亢進→子宮筋虚血という悪循環により月経痛が生ずる。月経時にみられる悪心・嘔吐・腰痛・下痢・頭痛などの全身症状は、PGとその代謝物質が、子宮内に限局せずに、体循環に流入して起因する。
※プロスタグランジン(PG)とは:細胞や血小板でつくられるホルモンの総称。PGが胃や食道で増えれば嘔吐し、腸で増えれば下痢となる。また気管支では咳となり、頭部血管が収縮すれば頭痛になる。そして子宮で増えれば強い月経痛となる。とくにプロスタグランジンF2αには、平滑筋刺激作用があり、子宮筋や胃腸筋を刺激し収縮させる。この機序からPGは分娩促進剤としても用いられる。
2)子宮頸管の狭小
出産経験のない若い女性では、子宮頸管が狭いことがある。この場合、月経血を外に出そうとする際、子宮頸部を無理に押し広げることになるので、強い子宮収縮や子宮痙攣が起こり、月経痛となる。
4.機能性月経痛の体壁反応点
針による鎮痛は、子宮収縮の程度を弱めるのではなく、関連痛の鎮痛によるものだと思われる。したがって興奮する体性神経の鎮静が重要になると考えている。鎮痛剤バファリンのコマーシャルのうたい文句は「頭痛・歯痛・生理痛に」であるが、腹痛を止めるには、副交感神経緊張を弛めるために抗コリン剤である鎮痙剤(ブスコパンなど)が有効となるのである。
1)交感神経興奮→体性神経興奮による反応点
交感神経興奮に伴う子宮体部や子宮頸部の平滑筋収縮による痛みは強いものではなく、二次的に生じた同じデルマトーム上(Th10~L1)の体性神経興奮により強い痛みを感じる。
Th10~L1脊髄神経後枝反応は、脾兪~三焦兪に、Th10~L1脊髄神経前枝反応は天枢~横骨に、それぞれ筋コリや自発痛として出現する。またL1神経への過剰入力は腰神経叢(L1~L3)を興奮させるので、腸骨下腹神経・腸骨鼡径神経・陰部大腿神経などの分布領域に筋痛や皮膚過敏をもたらす。
2)副交感神経興奮→陰部神経興奮による反応点
子宮体部や子宮頸部の内臓興奮反応は、副交感神経反応として骨盤神経が興奮する。骨盤神経はS2~S4支配であり、S3仙骨孔の中りょうが代表穴である。副交感神経性の痛みは強いものではないが、同じS2~S4からは体性神経性の陰部神経も出ているので、二次的に陰部神経が興奮すると陰部神経支配領域に強い痛みが出現する。肛門・膣・前陰部の痛みは、このために起こるのであろう。
5.月経痛の針灸治療
内臓痛に対する針灸治療の効果は一般に不安定であるが、月経痛に関しては非常に効果がある。内臓痛一般では、関連痛が内臓痛を上回る強い痛みであれば重篤疾患を予期して病院受診するのが普通だろうが、月経痛では非常につらくはあっても、毎月のことなので患者に重篤感がなく、針灸受診する余裕があるからだろう。
月経痛に針灸がよく効くのは、症状が体性神経興奮主体だからであろう。
1)背腰腹部の治療
脊髄後枝反応→脾兪~三焦兪の筋コリや圧痛点に施術
脊髄前枝反応→天枢~横骨の筋コリや圧痛点に施術
2)仙骨部の治療
陰部神経反応→中りょう付近の圧痛点に施術
3)遠隔治療
腰神経叢興奮→大腿神経興奮→伏在神経興奮の機序で三陰交を中心とした下腿内側に皮膚過敏が出現する。これらの施術により関連痛をゆるめる。
※筆者ブロク「三陰交の治効機序」を参照
4)月経痛の針灸治療の実際
三陰交に皮内針すると、大部分の例で痛みは改善する。残存する痛みがなおも強いようならば、中りょう付近の圧痛点に皮内針を追加。それでも効果不足であれば、腰痛時には脾兪~三焦兪、下腹痛時には天枢~横骨の反応点に皮内針する。