2024年(民国113年)の冒頭1月13日に行われた中華民国総統選挙では与党・民主進歩党の頼清徳(ライチントー)が最大野党・中国国民党や第三勢力・台湾民衆党を破り初当選した。民進党が3期連続で政権を担うことになった。1911年の辛亥革命により孫文は「中国革命の父」と呼ばれる。中華民国では中国最初の共和制の創始者として長らく国父と呼ばれ、近年は中華人民共和国でも「近代革命先行者」として再評価が進んでいるという。
台湾は45年まで日本に統治されたが、日本の敗戦後、戦勝国となった中華民国に組み込まれた。その中華民国の政権を握っていたのは国民党だ。しかし中国共産党との内戦に敗れて台湾に逃れる。49年に台湾に中央政権を移した国民党は一党独裁体制を取った。それに抵抗する形で生まれたのが民進党だ。「中華民国台湾」という表現を用いた蔡英文前総統はその起点を49年に置いており「113年」の歴史に触れたこともなかった。
暮れに「台湾海峡のキーパーソン・台湾総統・頼清徳」という4回連続の記事が掲載された。その頼総統が辛亥革命を記念する10月10日の「双十節」の演説で「中華民国113歳、誕生日おめでとう!お隣りの中華人民共和国は75歳を迎えたばかりだ。年齢からいえば中華人民共和国(中国)は中華民国(台湾)の人々の祖国にはなりえない」と声をあげると、会場がざわめき波紋が広がった。この演説の後、中国は台湾を包囲する大規模な軍事演習を開始。一方民進党のある老幹部は「まるで中国や国民党の歴史観だ」と不快感を口にした。
頼氏のこの演説のねらいは何であったのか。立法院で民進党は過半数割れの少数与党だ。弱い総統である頼氏は少なくとも国家安全の問題については与野党が一致して対応すべきだと考えている。国民党が政権を握った中華民国が中国本土に拠点を置いた12~49年の歴史も否定しなかった。支持者の反発を覚悟してでも、4年後の選挙に向けて支持層の拡大を図ろうとする狙いは明らかだ。これは理念型と思われていた頼氏が実際には現実主義の戦略的な政治家であることを示すものだろう。
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