玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*空即是色

2025年02月03日 | 捨て猫の独り言

 愛読書の一つに、遠藤誠(2002没)著の般若心経がある。弁護士でもあり仏教者でもある著者の生き方そのままに型破りの著作だ。デカルトの「我思う、故に我あり」とは「あらゆるものの実体は存在しないかもしれないが、しかしあらゆるものの実体の存在を疑っているこの自分というものだけはたしかにここに存在する」という、ヨーロッパの「自我の確立」思想である。

 それに対して仏教ではその自我、すなわち心と呼ぶ精神作用に振りまわされているから人間の苦悩はなくならないとする。すなわちクルクルと変化し続けるという意味において心(自我)というものの実体はないとする。色即是空。色は我々人間の肉体のこと。空はこの世に本当に独立に実在しているものはなくあらゆるものは絶えず変化するということだ。

 破天荒な著者は言う。「自分という実体はなにもないのです。あると思っているのは単なる夢まぼろし錯覚なのです。また、ここに女房のかっこうをした生きものがいるようにみえるが、そんなものは夢まぼろしであって実体は何もないのだという世界をガッチリと腹に入れちゃうと何がおきても〈ああそうか〉で終わっちゃう。そしてそのような夫婦関係、親子関係がかえって夫婦や親子の円満な人間関係を永続させることになる」(小金井公園にて)

  

 般若心経は色即是空のあと空即是色と続く。A=BはB=Aで同義反復である。この著作における空即是色の解釈に私はいたく納得させられた。(-1)×(-1)=+1である。否定の否定、あるいは否定を徹底したその先にある世界では、一木一草、道ばたで踏まれながら生えている雑草に至るまで、美しく見えてくる。この世はこのままで美しく見え、この世はこのままで楽しく見えてくる。これが空即是色の世界だというのである。

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