長年お世話になっている店で私はほぼすべてマスターを名前で呼ぶ。
しかしその人だけはずっと「マスター」だった。
若い頃吞んで度を越してしまい「もうかえんなはれ」といわれたことも何度かある。それでもしつこくなついていくうちに、バーでの流儀というものが自然に身につくようになってきた。
それとなく諭し教えてくれていたということにいまさら気づき、ありがたさに涙がこぼるる。
近頃ではよく「あわてんでもええ、ゆっくりやりや」といってくれていた。
あわてんでもええのに、マスターはいなくなってしまった。今年は次々と多すぎる。寂しすぎる。
「こんなんつくってみましてん」以前そういいながら何故だかわからないが私に手渡されたマスターの句がある。
- 従々(それぞれに)人の苦楽を持ち寄りてみち(路)をたずねて糧(かて)の酒含(く)む -