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肛門の「ひだ(しわ)」めは48本あるよしふるくいい伝えたれど、ものにしるせることはなきにきや、44の骨筋、8万4千の毛穴などは内典にも多くのせられしかど、このひだめのことは見えず。
また一名を菊と呼ぶことも。此のひだめ、その花房に似たる故の名なるべけれど、ある人の抄には菊花紫紅色なるものおおくは48ひらなりとも見えたれば、これはもしさるよしにもとづきて言うにや。何がしの院の女房一條が集に男のもとにいいつかわしける。
をみなへしなまめく野べをよそにして
菊にこころやうつろひぬらん
とあるは、やがてこの異名をよめるなるべし。
またこれを釜とよぶことはまたやや後になるや。近き頃、菅野何がしとかいいける京侍40にあまるるまで母をやしないて妻をもたらず。ともすればかの「手わざ」のみしけるを、したしき友うかがいしりて、あたら子を捨つるにやとわらいければ、男涙をながして、
ははゆえに子はあまたたひすてつれと
かまのひとつもほりえぬそうき
とていとうなきけり。なべていさををたつるにものうく、むくいをむさぼるにせちなるものは、みな此男のつらになんあるべき。
陰門のうち、車寄めくものを「ひなさき」とよぶは、なにのいわれにかあらん。つくづくおもうに、「ひな」もまた「ひだ」なり、「ししむら」のたたまれたる所ゆえにいうなるべし。「さき」とは物のなりいでたる所をいう名なればなり。からくにの人は、口の舌あるになずらえて吉舌とぞいうめる。古歌には「あまさかるひなさき」とつづけたり。ある歌合に、旅を、
あまさかるひなさきとほししたひもの
関よりおくのもやもやのさと
またこれを「さね」とよぶことは、から名に陰核などいうことあるよりよびつたえたることなるべけれど、これもややふるき世よりのことにや。古葉類林というものに、
ほとのさねももまりやつをえてしかな
数珠につなきてまらいのるかに
摩羅は梵語なり。
ー引用/阿奈遠加志(あなをかし) より