(cartoon/oroginal unknown)
千利休がある時なじみの女を、数寄屋に呼び込んで内密(ひそひそ)ばなしに無中になっていた事があつた。
世間の人は利休というと、一生涯お茶の事しか考えなかったように思い違いをしているらしいが、利休はお茶と同じように色々世間の事も考えていた男なのだ。
利休の女房は、よっぽどの疳癪持ちだったと見えて、亭主と女との逢引きを勘づくと、いきなり刀を引っこ抜いて、数寄屋へ通う路地の木を滅茶苦茶に伐きりつけ、
おまけに数寄屋に並べてあつた大切な茶器を手当り次第に叩き割ってしまった。
ソクラテスの女房は、どうかして機嫌の悪い時には、ひとしきり我鳴りたてた揚句の果てが、いきなり水甕の水を哲学者の頭に、滝のようにぶち撒まけたものだ。
すると、哲学者は魚のように水のなかで溜息をついて、「雷鳴(かみなり)のあとに、夕立の来るのはお定まりさ。」といって平気な顔をしていたそうだ。
利休は女房の叩き割った茶器を、一つ一つ拾い上げて、克明にそれを漆で継いだものだ。そして女房のちんちんなどは素知らぬ顔で相変らずお茶をすすっていた。
ある人がその茶器を不思議がって由緒(いわれ)を訊くと、利休は何気ない調子で、
「さればさ、茶器など申すものは、そのままでは一向面白味が御座らんから、わざと割って漆を引いてみました。路地の木も同じ趣向で、あのように枝を一寸伐り透かして置きましたが……」
と言って、わざわざ立って障子を開あけて見せてくれたそうだ。 -切抜/薄田泣菫「茶話」より-
そういえば、ソクラテスはたしかこんな述懐をしている。
「良妻に巡り合えば幸せになれる、悪妻に巡り合えば哲学者になれる」。
千利休がある時なじみの女を、数寄屋に呼び込んで内密(ひそひそ)ばなしに無中になっていた事があつた。
世間の人は利休というと、一生涯お茶の事しか考えなかったように思い違いをしているらしいが、利休はお茶と同じように色々世間の事も考えていた男なのだ。
利休の女房は、よっぽどの疳癪持ちだったと見えて、亭主と女との逢引きを勘づくと、いきなり刀を引っこ抜いて、数寄屋へ通う路地の木を滅茶苦茶に伐きりつけ、
おまけに数寄屋に並べてあつた大切な茶器を手当り次第に叩き割ってしまった。
ソクラテスの女房は、どうかして機嫌の悪い時には、ひとしきり我鳴りたてた揚句の果てが、いきなり水甕の水を哲学者の頭に、滝のようにぶち撒まけたものだ。
すると、哲学者は魚のように水のなかで溜息をついて、「雷鳴(かみなり)のあとに、夕立の来るのはお定まりさ。」といって平気な顔をしていたそうだ。
利休は女房の叩き割った茶器を、一つ一つ拾い上げて、克明にそれを漆で継いだものだ。そして女房のちんちんなどは素知らぬ顔で相変らずお茶をすすっていた。
ある人がその茶器を不思議がって由緒(いわれ)を訊くと、利休は何気ない調子で、
「さればさ、茶器など申すものは、そのままでは一向面白味が御座らんから、わざと割って漆を引いてみました。路地の木も同じ趣向で、あのように枝を一寸伐り透かして置きましたが……」
と言って、わざわざ立って障子を開あけて見せてくれたそうだ。 -切抜/薄田泣菫「茶話」より-
そういえば、ソクラテスはたしかこんな述懐をしている。
「良妻に巡り合えば幸せになれる、悪妻に巡り合えば哲学者になれる」。
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