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水の門

体内をながれるもの。ことば。音楽。飲みもの。スピリット。

歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
詳細は、こちらの記事をご覧ください。

Amazon等で購入できます。 また、HonyaClub で注文すれば、ご指定の書店で受け取ることもできます。

ご希望の方には、献本も受け付けております。詳細は、こちらの記事をご覧ください。

また、読書にご不自由のある方には【サピエ図書館】より音声データ(デイジーデータ)をご利用いただけます。詳細は、こちらの記事をご覧ください。

聖句は完璧。でも敷居高いだろうから、抜き書きして雑感を添える。

2021年02月09日 17時44分48秒 | 言葉に寄せて
一部だけ切り取るなとは言うけれど全部コピペじゃ読まないでしょう?
(とど)

2021年2月7日 作歌。

*上句がお題。
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白飛び。

2021年01月28日 03時46分08秒 | 言葉に寄せて
当事者によらぬ添削 輪転機に白飛びのしたJPGめいて
(とど)

2019年11月2日 作歌。
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自省→自責癖。

2021年01月10日 04時06分19秒 | 言葉に寄せて
私にも牛の名残が残ってるおのが言葉をにれかむだけは
(とど)

2021年1月3日 作歌。

*付句の題は上句。
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優しい言葉。

2020年12月30日 10時15分02秒 | 言葉に寄せて
甲州弁さける我が家も使ってる「決めつけちょし」は優しい言葉
(とど)

2020年11月30日 作歌。
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「アーメン」

2020年12月18日 03時24分39秒 | 言葉に寄せて
朗唱の余韻のうちに公同の祈祷に自ずと出ずるアーメン
(とど)

2020年10月14日 作歌。
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鉄路。

2020年09月19日 13時08分39秒 | 言葉に寄せて
この道は古い実家に続いてる 錆びた鉄路にまぼろしの姉
(とど)

2020年9月12日 作歌。
*お題は下句。

—— Salyu「iris~しあわせの箱~」をイメージして——
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律法めいて…

2020年03月14日 14時35分10秒 | 言葉に寄せて
新共同訳が脳裏に染みついて枷となりくる二十年(はたとせ)の間に
(とど)
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#inutanka(打ち止め)

2017年07月15日 09時37分11秒 | 言葉に寄せて
来年の年賀状作りの参考にするためにTwitterにメモしている「犬」にまつわる短歌が既にかなり溜まってきたため、気が早いようですがここら辺で #inutanka としてとりあえず公開します。また折々に追加もしていきます。
(考えるところあって、干支短歌の蓄積を中止します。2017年7月23日)

しろじろと毛深き犬が十字路を這うまたの世の日暮れのごとく/大森静佳
わが犬のドヂな次郎が溝に落ちわれはころびて下駄を落せり/河野裕子
豆腐屋の前の溝から吹いている湯気の匂いを犬もかいでる/竹内亮
自動車の鍵はかけない壱岐という島の空港犬が見送る/竹内亮
店先の自転車のそば飼い主を待つ灰色の犬の落ち着き/竹内亮
夏休みの最初の朝に眠ってる犬を起こして霧を吸い込む/竹内亮
眠る犬のしづかな夢を横切りて世界を覆ふ翼の話/石川美南
二十代遠のくことを対岸の犬の散歩のごとくかなしむ/永田紅
耳垂れし犬ゆっくりと石段を上まで嗅ぎて道にもどりつ/永田紅
色うすき柴犬あわく過ぎゆくをパンのようだと言えば頷く/永田紅
春だねと言えば名前を呼ばれたと思った犬が近寄ってくる/服部真里子
大きな犬のやうに眠つてゐるだらう月に真白く耀(て)りつつ家は/澤村斉美
犬は地に鼻さしよせて歩めりき光り天よりひたさしにけり/尾山篤二郎
銃の音木魂はしばし谷伝ふあとにうつろにさびし犬の鳴きて/土屋文明
いつも君は犬に好かれき見知らざる犬さへ千切れんばかり尾振りき/尾崎左永子
冬山の遠き木靈にのどそらせ臟腑枯らして吠ゆる犬あり/多田智滿子
雪解けを待ちつつブラシかけやれば盲導犬の背に春陽あり/吉村保
喫茶店の床にごろりと寝転んだ犬のかたちに呼吸(いき)はふくらむ/飯田彩乃
右肩上がりの雲の段々あれはギザの夢を見ている狛犬のせい/井辻朱美
人界に親しみたれば飼犬は素裸なるを恥ぢ入りて吠ゆ/斎藤寛
飼主と飼犬なれど指揮命令系統ぐじやぐじやしてゐる愉快/斎藤寛
人のをらぬ住戸と住戸の壁へだてべうべうと呼びかはす犬たち/真中朋久
黒い犬を見た記憶あらず低きより幼児を見上げてゐたのは かすか/真中朋久
くさむらに鼻さし入れてゐる犬を思へばただにものぐるほしき/真中朋久
砂粒がわずかに混じるハンバーガーくわえて犬は微笑みかえす/佐藤りえ
少年と大きな犬がわあわあとわれを追い抜き波蹴りあげる/佐藤りえ
雨上り 回転木馬 昇る月 黒い風船 つながれた犬/筒井富栄
凍死した犬のかたわら降誕祭 真紅のイエスの空にむいた瞳/筒井富栄
保護色をもつ者だけが住む街に今朝猟犬は放たれてゆく/筒井富栄
まひる 泣き出す前の沈黙の領域をよぎる黄金(きん)の山犬(ジャツカル)/筒井富栄
ムチならし犬連れた人がゆきすぎるその背の高さほどの日没/筒井富栄
野犬狩りの夢のつづきは野の彼方月光の中を影がとびかう/筒井富栄
犬はチエホフのきれぎれの鎖ひきずって春のはじめを遠のくばかり/筒井富栄
遠吠えの犬に凍った赤い月ダイスあそびに落ちてきた恋/筒井富栄
わが泣くを少女等(をとめら)きかば/病犬(やまいぬ)の/月に吠ゆるに似たりといふらむ〔石川啄木〕
愛犬の耳斬りてみむ/あはれこれも/物に倦みたる心にかあらむ〔石川啄木〕
路傍(みちばた)に犬ながながと呿呻(あくび)しぬ/われも真似しぬ/うらやましさに〔石川啄木〕
真剣になりて竹もて犬を撃つ/小児の顔を/よしと思へり〔石川啄木〕
われ饑(う)ゑてある日に/細き尾を掉(ふ)りて/饑ゑて我を見る犬の面(つら)よし〔石川啄木〕
庭のそとを白き犬ゆけり。/ ふりむきて、/ 犬を飼はむと妻にはかれる。〔石川啄木〕
従きて来し犬は日本の犬なればひそと車座の傍らに座す/稲葉京子
犬は花を見ずとも花を見し人の心の機微を味はひてゐむ/稲葉京子
あのやうな人になりたかつた私を人間になりたかつた犬が見てをり/稲葉京子
信号に吾は停まれども余念なき老犬が来て渡りはじめき/三枝昂之
ならぬことはならぬものです霜月の犬しやんとして死んでゐたるよ/吉田隼人
激震に飛び出して来し人の抱く小犬の瞳濡れてふるへる/山口明子
父が逝きし日のゆふぐれの屋上に黒き犬ゐて吾を見おろす/松平修文
十年を人の目となり働きて老いたる犬は我が家に遊ぶ/野田孝夫
麻薬犬災害救助犬警察犬帰りに一杯やることもなし/香川ヒサ
死の自由われにもありて翳のごと初夏(はつなつ)の町ゆく犬殺し/塚本邦雄
心きほふ日は犬鋸(のこ)の目を立てて吸はるるごとく山蔭に入る/葛原妙子
犬を呼ぶ男(を)の子の低音(バス)のこもりつつ雨あがる庭にこもれる溫氣(うんき)/葛原妙子
人の耳にきこえざる音聽きてゐる犬を繫げる鎖地に曳く/葛原妙子
坂の町犬を曳きゆく一人(いちにん)とあゆめる犬の間の默契/葛原妙子
骨折せし犬がギプスを嵌めてゐる後脚を上げてあゆめり/葛原妙子
薄やみに犬繫がれてゐる夕べ猫はほしいままに食卓に飛ぶ/葛原妙子
甕作る古代の筵に耳立ちし大いなる犬うづくまりゐざりしや/葛原妙子
頭蓋低く差しのべたる野の犬は人間の手に愛撫されけむ/葛原妙子
通行のあらざる夜明石道に犬出でて遊ぶ一尾二尾ならず/葛原妙子
犬の尾の渦巻きしあり垂れしあり巴となりて朝辻にゐる/葛原妙子
遠く立ちてわれを眺むる犬をりきあさあけの犬人を襲はず/葛原妙子
あけがたの路面濡れつつさわさわと浮浪の犬はわれにしたがふ/葛原妙子
曉星(あけぼし)はふたたびいづることなきや犬ゆく石の朝街暗む/葛原妙子
 (アルブレヒト・デューラーに)
放心の天使をりつつ足元に犬うづくまる「メランコリア」/葛原妙子
膝の上にあごを乘せくるわが犬をしづかにはらひわれは立ちたり/葛原妙子
犬猫の目あまたひそむ路地をゆくべつちんの足袋あたたかからむ/葛原妙子
ここあいろの乳房を垂れし犬步み既知にいそげるもののごとしも/葛原妙子
夜のあけぬをちかたにして犬吠ゆるそこのみ寒き空氣搖れゐき/葛原妙子
赤き犬群れゐる過ぎにしがわがめぐりなる雪の圓周/葛原妙子
雪踏みて耳ほてりゐる束の間のわが聲透る犬を呼びつつ/葛原妙子
蛾のごとくもの憂き斑(はん)犬セッター種立ちあがるとき薄陽差したり/葛原妙子
犬吠ゆる闇の近きに洋菓子のごとき聖壇ともりてゐたり/葛原妙子
犬の毛皮つけたる農夫ありありと夜の教會の椅子にねむりぬ/葛原妙子
散らばりしぎんなんを見し かちかちとわれは犬歯の鳴るをしづめし/葛原妙子
月の夜は球となりつつ犬の尾のゆたかなる總(ふさ)過ぎむとすなり/葛原妙子
炎天に砂あれば砂によこたはる黑犬は漆黑乳房もろとも/葛原妙子
さわさわと野犬の遊步つらなりあかつきに石の街角はありし/葛原妙子
高層に人のめさめのたゆたへるときあらはるる野の犬の群/葛原妙子
犬の耳雫垂りつつゆききせりさびしくもあるかしづく垂るること/葛原妙子
くひちがひて嚙みし犬齒をおそれたりわが飼猫を埋めむとして/葛原妙子
雪の道のへ消毒藥の匂ひして犬屋の白き犬は放たる/葛原妙子
われをよぎる豫感のしづか猛犬を飼ひて山家に老ゆる日あらん/葛原妙子
病む少女臥床(ふしど)にふかく目醒めつつあまたの犬の怒れる時間/葛原妙子
霧はひくく道を這ひをり黑き犬步める短き足ともろとも/葛原妙子
草の上にゆるやかに犬を引き廻し與へむとする堅きビスケット/葛原妙子
ゆるき坂そこにありつつめぐすりを差してもらひし仔犬を連れゆく/葛原妙子
白き靄充つる街ゆきわが連れし犬も鎖もふとうしなはる/葛原妙子
草枯れの見知らぬとほき町のはづれわがうしなひし犬が走るなり/葛原妙子
わが手より葡萄を食へる犬をりてガラスの扉とほく透きとほる/葛原妙子
マルタ島原産の犬が葡萄を啖(く)ふ灰色の毛を深く垂れながら/葛原妙子
光源の眞下に毛長き犬あそぶときふと犬のうしなはれたり/葛原妙子
走りても走りても汗の出づるなき犬をかなしみ暑(しよ)をかなしめり/葛原妙子
ひかりなき家竝の彼方たまたま犬はひとりに步道をわたる/葛原妙子
山上の耳にしきこゆわが家の暗きに小さき犬は吠えむか/葛原妙子
ゆくりなく振り向きしときわがみたり飼犬が階段をのぼりつつあるを/葛原妙子
犬などがことことと階段をのぼりゆくひたすらなるにわれは微笑す/葛原妙子
長き毛を垂りて敷物の上を步く飼犬は室内を薄明となす/葛原妙子
降雪のやみたる雪原をかへりくる犬の腹毛の暗きゆふぐれ/葛原妙子
ワイパーの拭へる雨の小微明よぎりし黑き犬の尾みえず/葛原妙子
山屋(さんをく)の土間によこたはりゐる犬はをりをりにして端坐をせり/葛原妙子
おろかなる犬といへどもわが投げし青草を咥へ走ることあり/葛原妙子
下半身影なる犬よ窓の邊にひとみを張りてしばしゐる犬/葛原妙子
水番の飼へる一尾の銀ぎつね犬よりもやや嗄れて鳴く/葛原妙子
ひとりゐるわが良夜(あたらよ)飼猫はすでに死にたれ犬失踪す/葛原妙子
まさめにしつぶさにみれば犬の目の奥をしみれば鈍き知惠の火/葛原妙子
坂下に暗い夕燒の立つ時間繫ぎし犬を先立ててゆく/葛原妙子
天空より暗き地上をまさぐるに白き塊なんぢは犬/葛原妙子
薄ら陽の差しそめにける雪の上犬先づ走り人次に走る/葛原妙子
もらひたる仔犬育ちてけふみるに馬のやうなる顏となりゆく/葛原妙子
赤き林に赤き木ありてさむき朝嬉しき犬は走りゆきたり/葛原妙子
幻のおほ犬なればグレート・デーン影なる一家婦を衞りゐき/葛原妙子
犬店に大犬をりき 懶(ものう)げに坐りゐしセント・バーナード犬/葛原妙子
憂犬眺むるものにさはなれや舗道(いしみち)をゆく人の半身/葛原妙子
犬憂へ曳かれたりけりアルプスの斑おほいぬ市街を曳かる/葛原妙子
犬の足渡る二、三步雪積める橋はみじかきときに悲しも/葛原妙子
すわりゐる老犬をりきしろ睫毛白犬なれば瞬かんとす/葛原妙子
犬ちひさくちひさくなりゆき おもむろに犬の原型失せにき/葛原妙子
石疊たひらなりせば思ひいで小さき犬の遊ぶことある/葛原妙子
わがみたる風景にしてうらかなし極月の空白犬に晴る/葛原妙子
漆黑のくちびるをもつ幼獸西藏犬に椀より食はす/葛原妙子
十二時半遠耳に啼く犬をりてガラス室のまだら木の影/葛原妙子
猫と犬ちひさき池のほとりにて出あへる星の夜をあやしまず/葛原妙子
腹熱き仔犬を抱きし少年はまどろむわれを迂回しゆくも/葛原妙子
愛なんて、と言いかけてごわごわの服を着ている犬と目があう/虫武一俊
ただ独り留守居してあればさ庭ゆくまぐれ犬さえなつかしきかな/武田寅雄
つれづれのかかる寂しさ冬日(ふゆひ)さす道のとほくに犬がねて居る/佐藤佐太郎
血に染(そ)みて伏しゐし犬がまだ生きて水すする音暫(しばし)ののちに/宮柊二
夜に呼べば懈(たゆ)げに立ちて寄りて來(き)ぬ人の愛撫に狎れざる犬か/宮柊二
梅雨の夜の居間の片隅ねそべれる犬は起たずて目を上ぐるのみ/宮柊二
われに來よと言ふにやあらん吠えやまぬ犬を撫づべくペン置きて立つ/宮柊二
ポンペイの廃墟の昼を寝そべりて吠ゆることなき犬ら病みおり/小川玲
花びらの転がってゆく朝の道犬との距離を保つ正しく/吉野裕之
悲しげな声で鳴いてる犬がいた塀の向こうの昨日の夜に/工藤吉生
透明に一瞬見える紐なので一瞬自由な犬の散歩だ/工藤吉生
鳴き声が省略形のこの犬を ゥ ゥ 真似したくなる ゥ ゥ/工藤吉生
犬吠える・自動車がくる・自動車はそのまま走り去る・犬吠える/工藤吉生
こそこそと家を回って人の目と犬を怖がる初ポスティング/工藤吉生
写メでしか見てないけれどきみの犬はきみを残して死なないでほしい /岡野大嗣
飼い犬にパン齧らせる夕方のこれ以上ないなめらかなこころ /岡野大嗣
犬が風かんじてるのを盗み見てたらこっちにも来てくれた風/岡野大嗣
写ってる犬はとっくに居なくって抱いてる僕はほんとうに僕? /岡野大嗣
とけかけのバニラアイスと思ったら夢中でへばってる犬だった/岡野大嗣
みぞれ、みぞれ、みぞれはぼくの犬の名で祖父が好んだ氷の味だ /岡野大嗣
待ち合わせに遅れてやってきたような勢いで犬が来てなつかれた/岡野大嗣
偉くなくすごくなくとも夏風に犬は笑ったような顔する /小川佳世子
巨(おほ)いなる白毛の犬 顎の下に幼児は神のごとくに笑ふ/山本かね子
ピアノ消え明るき部屋のティータイム隣りの犬の遠吠え聞こゆ/徳高博子
悲しみて二月の海に來て見れば浪うち際を犬の歩ける/萩原朔太郎
座りいる大型犬の美しき骨格透けるような六月/小島なお
菜の花はこちらを向いていなくても私に気がつく子犬のようだ/正岡豊
停電の夜に着せたる赤い服あらたな犬に着せて歩めり/斎藤雅也
守護天使喪ひたりしわがかたへふさふさと白き仔犬寄りくる/雨宮雅子
里親といえば犬猫の飼い主を指す世となりぬ何かが違う/松村由利子
犬を洗ひ枇杷を洗ひて一日(ひとひ)過ぎゆふぐれに子の指を拭へり/木下こう
衣着けし犬がひかれてゆく土手に野良犬が首をあげて見てゐる/志垣澄幸
犬に寄りてなにかもの言ふ男あり犬も人間のやうに聞きゐる/志垣澄幸
星に名を/犬に眠りを/コーカサス地方に雨を/ワインに栓を〔佐藤りえ〕
魚の香の乏しくなりし港町犬ゐてどこ迄も吾に従きくる/雁部貞夫
たましいの堕落などなき犬を連れ野牡丹の咲く庭にたたずむ/藤村学
さびしくてわがかひ撫づるけだものの犬のあたまはほのあたたかし/岡本かの子
わが胸の恐怖(おそれ)の声の我を出て響くとばかり犬の長鳴く/高村光太郎
獅子の仔も犬の仔のごと母親にふざけかゝるところがされけり/中島敦
フーセー犬ヤング犬ミンコウスキー犬みな実験糖尿病に寄与せりき/上田三四二
犬の目に涙のごときひかるもの低丘のうへに来しときみたり/上田三四二
病舎裏の原に赤土の堆積あり実験済みし犬を葬る/上田三四二
雨まじり吹雪となりてあす屠る実験犬は濡れつつありや/上田三四二
梅雨のあめこめたる闇に犬の仔がくぐもり啼けり倦みて淋しき/上田三四二
夕ごとにとほるよ庭ひろき農家の犬もいつよりか吠えず/上田三四二
となり家に犬のこほしく鳴くきこゆきさらぎ寒く雪つもる夜を/上田三四二
わが寄るは動物店なれば狭くゐて檻なる犬は値をつけてあり/上田三四二
放たれて道にのどけき犬にあふ奥之院にても金剛峯寺にても/上田三四二
放たれていづくの犬か信号まで随き来てともに信号を待つ/上田三四二
犬の夢いるかの夢のいかならん木洩日の斑(ふ)のうごく鋪(しき)みち/上田三四二
小屋にゐて吠ゆるなかりし老犬は雪の日すぎて身と屋(をく)と亡し/上田三四二
用もたぬ歩みはいづくゆくとなく犬吠えぬこの小路のやすし/上田三四二
曳かれつつ人に先立つ犬にして空みることもなくて歩める/上田三四二
犬を牽く人はのどけし若葉道ゆきてうれひの雲もとどめず/上田三四二
道にみて犬曳く人はおしなべて人よりも切にもの言ひて行く/上田三四二
背丈おなじき幼きものに尾を振りて保育所の犬はたのしからんか/上田三四二
うらさぶる夕べの道に耳ひらけ地にたえまなく犬の鳴くこゑ/上田三四二
さつきからついてくる犬 ちひさな犬 吠えるくせについてくる犬/目黒哲朗
真夜中の散歩のたびに教えても犬には星は見えないらしい/入谷いずみ
雨に濡れし褐色の犬のあとを行けりこのごろ寂かなる一日だにあらず/安立スハル
初めて来し姫路を茫と歩み居てさきほど逢ひし犬にまた逢ふ/安立スハル
犬ならぬひとをわらひて手はたきぬ三遍廻つてわんといふゆゑ/前川佐美雄
またしてもわが痩せ胸の骨あさる老犬の如きこころ叱りぬ/前川佐美雄
野良犬を追ひ返すべく棒投げぬ棒かんと藪の竹に鳴りたり/前川佐美雄
小半日われに従き来し野良犬がいま野良犬の伴(とも)を見つけぬ/前川佐美雄
あとになり前(さき)になりしてわが犬のある時は外(そ)れて萩むらに入る/前川佐美雄
萩むらに外(そ)れゆきし犬に道くさをすなと叱るもあとに従きゆく/前川佐美雄
わが犬の何思へるかふとふいに曼珠沙華道ひたかへり行く/前川佐美雄
どろんどろんと朝太鼓鳴る犬の皮たるみたる如き天にあらずや/前川佐美雄
飼犬の口あけさせてその荒くながき舌見けり人に呉るる前/前川佐美雄
捕られたる犬を探ねて三里ほど隔たれる荒き村に入りゆく/前川佐美雄
みづからの分を知れるは快し野良犬野良猫の類とてよし/前川佐美雄
犬猫にあらぬ親子がしやぶりをる鰤の頭なり涙もよほす/前川佐美雄
幾万の星は夜空にかがやけど落ちて来ざれば犬ら安けし/前川佐美雄
どの家の犬でもありどの家の犬でもない小泉八雲の犬が来てゐる/前川佐美雄
春先のあらし吹きしく日に見つるわれの赭犬も大きくなりぬ/前川佐美雄
花すぎてほこり風立つ街のなか汚れゐるあか犬を見つつ唇(くち)拭く/前川佐美雄
貰はれてゆきし仔犬を気づかふや折折吾子はその家訪ふらし/前川佐美雄
わが家のくらしの中もさびしけれ赭犬急にゐずなりしかば/前川佐美雄
犬に吠えられ草原駈けり跳びこえて鹿はいづれもしんけんに逃ぐ/前川佐美雄
恥多き日にありぬらしわが犬のわが家の門に向きて吠えしは/前川佐美雄
腹すりて地(つち)にしぢかに臥す犬をひた憎む彼がざまに似つれば/前川佐美雄
街中の犬ことごとく鳴きたちて夜半に没りゆく月を恐れず/前川佐美雄
争ひをやめたる犬は樹液にほふ木の間ゆきつつ見返ることなし/木俣修
冬濤にむきて吠えつぐ犬の声臨港の駅は大戸を鎖して/木俣修
朝(あした)より絶望のさまに犬臥して一塗りの緑竹群を行く/前登志夫
庭にある仔犬の皿はかがやけり皿拭ふ舌も夜は不在のひとつ/前登志夫
朝の陽を身ぶるひてはじく尨犬(むくいぬ)つれ霜柱踏む娶りしのちも/前登志夫
犬一つわれにまつはる君が恐れし蛇の時にはまだ早くして/柴生田稔
なにか焼く匂いに過去へはこばれて人立ちどまり犬それを待つ/宮脇由美子
静臥時の戸外あかるし赤犬がおと健やかに水を飲みゐる/滝沢亘
その妻の死に超然とゐし犬も終へき十餘年の病中のこと/滝沢亘
安堵せし眸(め)をして小さく尾を振りぬ魘(うな)されてゐし犬を起せば/滝沢亘
菓子のごと団花(たまばな)咲けり従へし犬は長じて係累もたず/滝沢亘
永遠のなかのことにて人も犬もうつむきあゆむ霧の栅外/滝沢亘
犬を曳き来りし闇に焰あり燃えつつ若き胃の高さまで/小野茂樹
くもり垂れて嵐の移る海峡に吾と埠頭のはてに佇つ犬/近藤芳美
飯場の灯護岸に低くともり合いあされる犬は嵐に走る/近藤芳美
芥埋むる岸をはるかに犬走り嵐はめぐる沖のきらめき/近藤芳美
雪染むる地平の火事に吠ゆる犬埋れしものの影ら凍りて/近藤芳美
嗅ぎあてし一片の神さはやかな地に臥して開く犬の耳/浜田到
天と海のあいだ細き糸らちぎれちぎれ犬の中に雨降つている/浜田到
目を赤く凍らせて立つ犬 冬の夜のながき審(さば)きにわが耐えらるる/浜田到
こんや早く炭屑の中に犬眠れば夜のやつれたる眼鏡を拭く/浜田到
垂直に電柱は土に突刺さりひそひそ夜の犬群れはじむ/浜田到
犬死にの犬の轢死のくれないに濡れいつ登校の吾も濡れつつ/佐佐木幸綱
振袖に真白き犬をかいつつみ冬の光にゆくをとめあり/岡野直七郎
花なんか買わない人が花を買う駄目犬だったあいつのために/松瀬詩子
ばらばらになったおとこへ文庫本カバーのような犬が寄り添う/笹井宏之
夭き日はつゆ思はねど詰襟はつくづく犬の首輪のごとし/水島和夫
差し入れは切手封筒 犬の絵のある便箋は不許可とされたり/酒井久美子
愛犬のやうな掃除機つれあるくだれにも会へぬ日の夕ぐれは/春野りりん
六歳で壮年となる柴犬の温き項(うなじ)は野焼きの匂い/沼尻つた子
犬には犬の愛ありと聞けそを抱く君は森なり身をひらきつつ/黒瀬珂瀾
愛犬の痙攣のたびに摩ってた医学書引けば摩るなとあり/黒木淳子
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いつもドキリとさせられる。

2017年02月23日 15時14分13秒 | 言葉に寄せて
御言葉の「肉に心を用いるな」君のためよりわれに向けねば
(とど)

*ローマの信徒への手紙13章14節

2011年5月26日 作歌、2017年2月23日 改訂。
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My Favorite Scriptures

2017年02月02日 15時11分26秒 | 言葉に寄せて
天の果てに追いやられても連れ帰ると確かに告げていた申命記
(とど)

2015年8月15日 作歌。

*申命記30章1〜4節 参照。
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#toritanka(じわじわ追加中)

2016年07月03日 13時34分13秒 | 言葉に寄せて
初めからある程度は予想していたことですが、来年の干支「酉(鳥、鶏)」にまつわる短歌が見聞きするだけでも沢山あり過ぎます。今後の管理にも難渋しますので、Twitterにメモしてきていた #toritanka をここら辺で一旦公開にします。また折々に追加もしていきます。
*来年の干支短歌が思いつきましたので、とりあえず #toritanka の蓄積はここで終了したいと思います。(2016年7月3日)


そこよりは出られぬ鳥がカンバスにはばたきつづく夏美術館/河野小百合
空青くすむ聖五月この朝けステンドグラスの鳥息絶ゆる/河野小百合
失(なく)したくないなら地上(つち)におろしなさい十センチほどの鳥が来ている/河野小百合
鶏頭の残りの炎かきたてて十一月の雷雨きたりぬ/雨宮雅子
つつぬけの空に筒鳥のこゑひびきうつつなる日のひと日つつぬけ/雨宮雅子
朝刊にそそぐ日ざしはためらわず廃鶏の文字くきやかに見す/島田幸典
ここに立つここより他に無き場所の空に枝を張り鳥遊ばせて/寺尾登志子
今日いつさいことば発してゐないこと鳥でいい鳥がいいこころをつつむ/今野寿美
誓ったり祈ったりしたことはない 目を離したら消えていた鳥/土岐友浩
きららかについばむ鳥の去りしあと長くかかりて水はしづまる/大西民子
夏空は帽子のつばに区切られて銅貨のように落ちてゆく鳥/吉川宏志
折る膝のなければ敗れし軍鶏はからだごと地へ倒れてゆけり/田村広志
人間ばかり歴史をもちてかなしきを空は荒びてもがく春の鳥/河野愛子
首うねり白鳥は死にゐたりけりそこにあるだれの罪だれの罰/米川千嘉子
かごめ歌かごの鳥とは人間が秘めてかなしむ魂(たま)といふ説/米川千嘉子
雛飾り小鳥ほどなる人ゐたりこゑも飲食(おんじき)の跡もちひさく/米川千嘉子
白鳥の魂(たま)ありし莢みづからの白のふかさに朴(ほほ)わらふかも/米川千嘉子
魚の生(よ)や鳥の生(よ)すぎて育ちゆくさむさつぶさに胎を蹴るとき/米川千嘉子
白鳥のゐたれば静まりたる少女はばたきは苦く汝れに生るるを/米川千嘉子
千鳥鳴く佐保の河瀬のさざれ波恋一千首鳴りて苦しも/米川千嘉子
ふりおろす鮮黄の槌とほく見ゆ 雨に向かひて立つ鳥あらむ/中山明
中世の森を映してしづもれる湖ありき 鳥も忘れき/中山明
みづとりのこゑのみすなり成熟に向かふ時代の夜の川原に/中山明
震災をおほくうたはず少年と犬、馬、小鳥をよみし牧水/米川千嘉子
断崖崩落おもへばわれにこみ上げる鳥屋に鵜の足摑む苦しさ/米川千嘉子
口笛のフィーと鳴く鳥秋に来る照鷽は雄、雨鷽は雌/米川千嘉子
ユリカモメ空に光りぬどの鳥も偶然としてわが前を過ぐ/吉川宏志
鳥笛の小さき一つはチコチコの大き二つはコルージャの声/本多峰子
鳥笛を手に遊ばせてこの昼は何呼ばわんとわれの居りたる/本多峰子
高層の部屋に一人のわがために吹けとや君が買い来し鳥笛/本多峰子
母の葬りすぎて十日の真昼間を一人し遊ぶ鳥寄せ笛に/本多峰子
無理するな限りに励めと鬩(せめ)ぐこゑ花鶏頭に寄ればきこゆる/千葉修
風に靡きしままのかたちに素枯れたる芒の原に啼く鳥もなし/伊藤輝文
乳色の靄の中なる檜原ゆきゆく手もさやに朝鳥のこゑ/津田治子
いたはりて育てし小鳥よ吾の掌に奇形の体あづけて眠る/田沢さかゑ
鶏(くだかけ)はくびを伸してながながとひるをうたへり青桐の花/合田とくを
起き出でて寝汗を拭ふとひとしきり水鶏の声は近まさりつつ/明石海人
水鳥の鴨の羽(は)の色の春山のおぼつかなくも思ほゆるかも/笠女郎『萬葉集』
花鳥のほかにも春のありがほに霞みてかかる山の端(は)の月/順徳院『續後撰集』
殘る夜の月は霞の袖ながらほころびそむる鳥の聲かな/三條西實隆
すさまじきわが身は春もうとければいさ花鳥の時もわかれず/伏見院
夕暮や嵐に花は飛ぶ鳥のあすかみゆきのあとのふるさと/伏見院
櫻咲く遠山鳥のしだり尾のながながし日もあかぬ色かな/後鳥羽院
亡き人の日數も今日は百千鳥鳴くは淚か花の下露/佛國
山もとの鳥のこゑごゑ明けそめて花もむらむら色ぞ見えゆく/永福門院
鳥が音(ね)も明けやすき夜の月影に關の戸出づる春の旅人/藤原爲家
百千鳥聲のかぎりは鳴き古りぬまだおとづれぬものは君のみ/惠慶
春されば百舌鳥(もず)の草潛(くさぐ)き見えずともわれは見やらむ君が邊(あたり)をば/作者未詳
行く春のなごりを鳥の今しはと侘びつつ鳴くや夕暮の聲/邦輔親王
おもひたつ鳥は古巢もたのむらむなれぬる花のあとの夕暮/寂蓮
花は根に鳥は古巢に歸るなり春のとまりを知る人ぞなき/崇徳院
花鳥もみな行きかひてむばたまの夜の間に今日の夏は來にけり/紀貫之
雲のゐる遠山鳥の遲櫻こころながくも殘る色かな/宗尊親王
花鳥の春におくるるなぐさめにまづ待ちすさぶ山ほととぎす/花園院
いまだにも鳴かではあらじ時鳥むらさめ過ぐる雲の夕暮/章義門院小兵衞督
時鳥ふかき山べに住むかひは梢につづく聲を聞くかな/西行
霍公鳥(ほととぎす)此(こ)よ鳴き渡れ燈火(ともしび)を月夜(つくよ)に比(なそ)へその影も見む/大伴家持
過ぎぬとも聲の匂はなほとめよ時鳥鳴く宿の橘/守覺法親王
なほざりに鳴きてや過ぐる時鳥待つは苦しき心盡しを/二條爲定
心あてに聞かばや聞かむ時鳥雲路に迷ふ峰の一聲/後鳥羽院
水鳥の浮寢絶えにし波の上に思ひを盡きて燃ゆる夏蟲/藤原家隆
夏刈の玉江の蘆をふみしだき群れゐる鳥の立つ空ぞなき/源重之
星のため八聲(やこゑ)の鳥も心せよまだ初秋の夜半ぞみじかき/十市遠忠
ひとり寢(ぬ)る山鳥の尾のしだり尾に霜置きまよふ牀の月影/藤原定家
春の夜のみじかき夢を呼子鳥(よぶこどり)覺むる枕にうつ衣かな/木下長嘯子
松島や雄島が磯に寄る波の月の冰に千鳥鳴くなり/俊成女
狩りごろも雪はうち散る夕暮の鳥立(とだち)の原を思ひすてめや/肖柏
はかなしや暮れぬと歸る御狩野に驚く鳥のおのれ立つ聲/肖柏
日の暮はかたへに小鳥とりつけておきのは山を出づる狩人/心敬
御狩野はかつ降る雪にうづもれて鳥立(とだち)も見えず草隱(くさがく)れつつ/大江匡房
輕(かる)の池の入江をめぐる鴨鳥の上毛(うはげ)はだらに置ける朝霜/藤原顯輔
三島野に鳥踏み立てて合せやる眞白の鷹の鈴もゆららに/顯昭
佐保川にさ驟(ばし)る千鳥夜更(よぐた)ちて汝が聲聞けば寢(い)ねがてなくに/作者未詳
かくてのみ有磯(ありそ)の浦の濱千鳥よそに鳴きつつ戀ひや渡らむ/よみ人知らず
月もいかに須磨の關守ながむらむ夢は千鳥の聲にまかせて/藤原家隆
淡海(あふみ)の海夕波千鳥汝が鳴けば情(こころ)もしのに古(いにしへ)思ほゆ/柿本人麿
風ふけばよそになるみのかた思ひ思はぬ波に鳴く千鳥かな/藤原秀能
辛崎(からさき)や夕波千鳥ひとつ立つ洲崎(すさき)の松も友なしにして/心敬
浦風の吹上の眞砂(まさご)かたよりに鳴く音みだるるさ夜千鳥かな/飛鳥井雅有
浦傳ふ夕波千鳥立ち迷ひ八十島かけて月に鳴くなり/飛鳥井雅有
佐保川の汀の冰踏みならし妻呼び迷(まど)ふさ夜千鳥かな/飛鳥井雅有
鳴きて行く荒磯千鳥濡れ濡れず翼の波にむすぼほるらむ/肖柏
さ夜千鳥有明の月を遠妻の片江の浦に侘びつつや鳴く/肖柏
水鳥の冰柱(つらら)の枕隙(ひま)もなしむべ冱えけらし十符(とふ)の菅菰(すがごも)/源經信
朝冰とけなむ後と契りおきて空にわかるる池の水鳥/守覺法親王
水鳥の下(した)安からぬ我が中にいつか玉藻の牀を重ねむ/頓阿
志賀の浦や波もこほると水鳥のせかるる月による方やなき/木下長嘯子
逢ふことは遠山鳥の狩衣(かりごろも)きてはかひなき音をのみぞ泣く/元良親王
きぬぎぬに別るる袖の浦千鳥なほ曉は音ぞなかれける/藤原爲家
武庫の浦の入江の渚鳥(すどり)羽(は)ぐくもる君を離れて戀に死ぬべし/作者未詳
淵やさは瀬にはなりける飛鳥川淺きを深くなす世なりせば/赤染衞門
夏の日の燃ゆるわが身のわびしさに水戀鳥の音をのみぞ鳴く/よみ人知らず
友戀ふる遠山鳥のますかがみ見るになぐさむほどのはかなさ/待賢門院堀河
いかにせむ宇陀の燒野に臥す鳥のよそに隱れぬ戀のつかれを/元可
幾夕べむなしき空に飛ぶ鳥の明日かならずとまたや頼まむ/後伏見院
水の上に浮きたる鳥の跡もなくおぼつかなさを思ふ頃かな/藤原伊尹
鳥のこゑ囀りつくす春日影くらしがたみにものをこそ思へ/永福門院
時しもあれ空飛ぶ鳥の一聲も思ふ方より來てや鳴くらむ/藤原良經
鳥の行く夕べの空よその夜にはわれも急ぎし方はさだめき/伏見院
流れそふ淚の川のさ夜千鳥遠き汀に戀ひつつや鳴く/姉小路濟繼
憂きなかぞ聞くも稀なるきぬぎぬに鳴くは深山の鳥ならねども/堯孝
飛鳥川七瀬の淀に吹く風のいたづらにのみ行く月日かな/順徳院
都鳥なに言問はむ思ふ人ありやなしやは心こそ知れ/後嵯峨院
浦風の寒くし吹けばあまごろもつまどふ千鳥鳴く音悲しも/宗尊親王
朝な朝な雪のみ山に鳴く鳥の聲に驚く人のなきかな/藤原良經
曉のゆふつけ鳥(どり)ぞあはれなる長き眠(ねぶ)りをおもふ枕に/式子内親王
卵よりつぎつぎ亀が出でくればひかりを散らす鳥の下降線/清水峻
立つ鳥はいつでも後を濁すから僕がここにいることを知る/中島裕介
屋上で紙飛行機を飛ばしたら私も渡り鳥になれるわ/中島裕介
凧糸が切れてるような飛び方をする冬鳥が黄昏を裂く/中島裕介
脇腹の痛みは鈍く 夕闇へ飛び去る鳥を追えば追うほど/中島裕介
ランニングマシーンでしか走れない僕にちらつく鳥の羽の影/中島裕介
これよりも夢に国試はあらわれん春に見えいる花喰鳥のごと/田中濯
小鳥よりちひさき靴を磨きゐて神しらぬわがいのりはあつし/稲葉京子
われは樹を樹々の梢は発つ鳥を神が配分の位置に見上げつ/稲葉京子
真上より人を見下ろすさびしさの、鳥にあるいは神にはいかに/永田和宏
鳥籠を遁れしゆゑに神のごと風の中なる森に消えゆく/大野誠夫
わらう鳥わらう神様わらう雲チャックゆるくてふきだす涙/東直子
晩禱のはるけきときを鳥のごと空こえゆかな聖マリア月/桜木由香
鳥の声ひびかう丘に墓標あり生きて此処なるわがクロニクル/桜木由香
飛ぶ鳥の胃の腑ゆらぐかさやさやと秋の真水は茜を渡る/古谷智子
わがなげきまたあらたなり夏鳥の呼びかはし啼くこのあかときは/木俣修
笹ごもり啼く鳥が音(ね)は春山の寒きくもりのなかに徹れり/木俣修
赤い針がビルの隙間にさしてきて始発を待てば駅は駒鳥/法橋ひらく
祝砲に沸き立つように水鳥が散っていくから湾は手のひら/法橋ひらく
大いなる矢印として北を指す鳥たち 送る歩道橋の上/法橋ひらく
ふくろふはまこと鳥猫きれぎれのその昼の夢われはかなしむ/河野裕子
杳(とほ)き陽が差しゐる草地風が吹き翳りやすくて鳥が歩める/河野裕子
猫や鶏寡黙に愛しゐし幼女期は昼も裏藪に火が見えてゐし/河野裕子
日の暮れはあかあかとしてもの暗く樹樹らさわげり樹に棲む鳥も/河野裕子
鳥の脚太きも細きもひたひたと音なく急ぎをり森の日暮は/河野裕子
まろき胸の羽毛まづ吹かれしろじろと鶏(かけろ)つむれり夕風の中/河野裕子
秋真昼かぐろく晴れぬ古き家(や)の天窓を鳥の趾ゆき来す/河野裕子
鳥の影さして人ゐぬ真昼まの明るきさびしさ草の実が爆づ/河野裕子
夕昏るるげんげの畑を出でて来て怪(け)しき硝子玉鶏吐き出だす/河野裕子
生き過ぎて生きねばならぬ祖母にして鶏括るごと呻くことある/河野裕子
鳥の嘴(はし)しきりに動き鏡面に黒き人毛は剪られつつあり/河野裕子
鳥の道はるか光れり 汝が為の新墓(にいはか)いまだ地上にあらず/河野裕子
われは往けず汝れは還れぬ夕闇の中有の風道鳥も通はぬ/河野裕子
ふさふさと褐色にそよぐ羽ひろげ鶏(かけろ)はしばし風に瞑れり/河野裕子
夜天快晴のこの青さ 人も居ぬ鳥も居ぬ万華鏡夜ふけに覗く/河野裕子
骨なしのチキンに骨が残っててそれを混入事象と呼ぶ日/岡野大嗣
春空に千鳥格子の鳥たちを逃がしてつくる無地のスカート/岡野大嗣
満席の回転寿司は養鶏場みたいでふるえつづけるプリン/岡野大嗣
一羽ずつ立つ白い鳥真っ白い鳥せかいいちさみしい点呼/兵庫ユカ
遠い空に女の顔で鳴く鳥が今夜も私に呼びかけてくる/川本千栄
鳥に似て首を突き出し人々は歩く小さなこの国の中/川本千栄
自らの滲(し)み出す脂にまみれつつ鶏の肝臓煮詰められたり/川本千栄
虫愛づる姫君あるいは鳥愛づる皇帝いずれも人の世に倦み/川本千栄
人間の途絶えた森に鳥獣(とりけもの)激増すとうチェルノブイリの/川本千栄
体温計腋にまどろむ チチチチと小鳥が鳴いている夢を見て/渡辺和子
車止めの上に飾りの小鳥いて紗希子の小さき手に撫でられる/渡辺和子
このあさは頭の白き鳥ふたついて馬酔木の花を互みにゆらす/渡辺和子
鳥の巣の中よりあふぐ心地しぬ若葉のひまのいと青きそら/片山広子
まつしろいペンキのやうな鳥の糞に飛び立つときの勢ひがあり/花山多佳子
おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを/伊藤一彦
空想を逃がさぬように目を閉じたわたしの頭蓋は鳥籠になる/村津初美
鳥のことば解く人とほくエトルリアの鳥占ひ師は壁画より出づ/大沢優子
飛びながら鳥が凍るといふ寒さ思ひみがたく雪の街ゆく/栗木京子
からだとは大きな鳥籠かもしれず午睡より覚めしばらく咳きぬ/栗木京子
眠る鳥そのくちばしの小(ち)さき穴に呼吸(いき)通ひゐむ秋の夜ふけを/高野公彦
遠ければひよどりのこゑ借りて呼ぶそらに降らざる雪ふかみゆく/小原奈実
朝の庭にしあはせの鳥十羽来て七羽去りたるごとき夕餉ぞ/黒瀬珂瀾
かんむり座のあかりのとどく陵墓より母音ひきつつわが鳥は発つ/小黒世茂
鬱を病む白鳥あらばはばたかぬつばさの内に星抱(いだ)くらむ/水原紫苑
ほのぼのと春こそ空に 春の鳥飛ぶには春の空間が要る/香川ヒサ
鳥語 星語 草語さやかに秋立ちて晴れ女われの耳立ちにけり/松川洋子
聖夜、階段の踊り場から絞めらるる鶏を見てゐたり/松川洋子
彦乃のあとを飼はむかとつと思ふ 口惜し鳥獣店の猫と目が合ふ/松川洋子
天(あめ)をゆく鳥ならぬものの声のして流星痕はそののちに見ゆ/松川洋子
にはとりは三歩あゆめば忘るると立ち上がりざま忘るる我は/松川洋子
群鳥のゆきて幾日(いくか)かいらへなき君を果てとして蒼天のあり/松川洋子
零下二十度鳥ゆかず水ゆかず今生とはありありと他界である/松川洋子
白秋の序言葉美しきマザーグウス お針が怖いかつこ鳥怖い/松川洋子
食欲の無くなるほどに恋ふといふおそろしき鳥を緑蔭に見つ/松川洋子
鳥群のこゑなくゆけり眼鏡らの仰角三十度の視線の果てに/松川洋子
真正面の白鳥の顔ふと笑ふわがうちの退嬰の神を見たるや/松川洋子
海鳥の羽根折る海石(いくり) 日本海はどうしてかうも荒いのでせうか/松川洋子
迷鳥のひとみのごとし三等星ミンタカは軽い鬱の星/松川洋子
息(おき)長の競鳴鳥のごと胸反らしガリクルチ歌へり“埴生の宿”/松川洋子
少年よマロ舞踏のやうに狂へとぞけしかけてゐる夜鳥羽(は)たたき/松川洋子
ソプラニスタ岡本知高、鳥類の王のごとくに黒衣を纏ふ/松川洋子
わが神はおんぼろぼろぼろ羽抜け鳥 口惜しかつたら戦を止めよ/松川洋子
神父あらぬ聴罪室の格子窓を鳥ならぬもののつばさ過ぎれり/松川洋子
雪代のあふるる半球鳥瞰するシュワスマンワハマン彗星/松川洋子
死がすこし怖い 妻との黄昏は無数の鳥のこゑの墓原/岡井隆
鳥の重みに揺れてゐる枝 どのやうに苦しむべきかわれはわからず/中津昌子
北晴れて飄飄と飛ぶ鳥のかげ目に追はせつつ鋭心(とごころ)を耐ふ/宮柊二
彼岸花の花瓣(くわべん)にうつる陽の寒しちりぼひ群れて空をゆく鳥/宮柊二
秋はやく寒陽照り澄む高空を耿耿(かうかう)と翔(かけ)りて消えゆきし鳥/宮柊二
青垣の群山(むらやま)見ればこころかなし鳴きつつ落つる鳥の影あり/宮柊二
弟の家に宿りて春早き蛙(かはづ)とも水鷄(くひな)とも聞きすます夜/宮柊二
尾に打ちて石移りする鶺鴒の小さき鳥の喜びも見よ/宮柊二
病室の硝子戸のそと日は射して園に色映ゆ鷄頭花(けいとう)の黄は/宮柊二
靜まりて鷄頭花(けいとうくわ)みな倒れをり颱風去りしテラス庭園/宮柊二
撥彫(はねぼり)の花喰鳥も妻見けん紅牙紺牙(こうげこんげ)の撥鏤(ばちる)の碁子(きし)に/宮柊二
池わたり來る水鳥の聲きけば遠ふるさとも年明けけんか/宮柊二
古びたる心洗ひて辿り行く鳴く百鳥(ももどり)を山に聞きつつ/宮柊二
春暑し萌ゆる草間に籠り入り含(ふふ)むごと啼く鳥ありて晝/宮柊二
鳥の影庭を素早く過(よ)ぎりしが來かかりし猫立止まり仰ぐ/宮柊二
庭よぎる猫に小鳥に吠え止まぬ末の娘が飼うケアン・テリヤ種の犬/宮柊二
徹夜明けの心勵(はげ)まし逝ける人をおもひゐしとき秋鳥(あきどり)渡る/宮柊二
感傷し淺草に食ふ鳥肉の刺身冷たくいたく身に沁む/宮柊二
降りてきて冬の色鳥(いろどり)一羽二羽庭に遊ぶを部屋より覗く/宮柊二
岸に鳴く鵞鳥の聲はあざやけき樗(あふち)青葉の下より聞こゆ/宮柊二
鷄頭の紅曼陀羅(こうまんだら)の一花が插されて壺が机にぞある/宮柊二
文鳥の死をあはれみて雨の午後棗の下に妻は葬る/宮柊二
一羽にて我らと共に生きてこし文鳥死にてかなしかりけり/宮柊二
文鳥は止り木を落ち夏終る雨のあしたに息絶えてゐき/宮柊二
昨日今日野の鳥あそびしらじらと木下(こした)の石に糞あたらしき/宮柊二
わが家に迷ひ來てより五年となる一羽の手乘り文鳥老いぬ/宮柊二
構内の川岸ゆくにアカシヤの莢實(さやみ)散らばり小鳥群れゐつ/宮柊二
鷄頭花(けいとう)に秋冷えの雨晝を降り耐へがたきまで口腔乾く/宮柊二
あきらかに秋づく空の鳥のこゑ曇のなかを移りゐるなり/宮柊二
石のほとり日ざし動けり雨ののち秋さらんとし小鳥ゐるなり/宮柊二
沙羅の木をわが尋(と)めくればこの園に飼はるる鳥ら聲啼きてをり/宮柊二
一羽のみ飼はるる遠き南洋の鳥の足跡砂にみだれつ/宮柊二
ハッカンの鳥舎は乾く敷砂(しきすな)に金網の影映りゐるのみ/宮柊二
鳥にあり獸にあり他(ひと)にあり我にあり生命(いのち)といふは何を働く/宮柊二
鳥群れて曇る空間(そらま)を啼きゆけり樹木ある東京郊外なれば/宮柊二
文鳥の捨餌食まむと朝々をしたしげにくる雀五六羽/宮柊二
朝空に量感持ちて一團の鳥移りゆく羽光らせて/宮柊二
小鳥らの聲走るなる梅雨樹間(このま)張(はり)ある聲のいたく樂しげ/宮柊二
疲れたる頭はげまし亡き君を思ひゐる朝鳥渡りゆく/宮柊二
鳥一羽その空間を翔び去りぬ花咲き垂るる藤棚の下/宮柊二
春逝く夜柱時計の鳴りそめて籠の中なる文鳥騒ぐ/宮柊二
北國の濱おぎろなし渚邊に降りゆく鳥の黒羽光る/宮柊二
迷ひ來て家に二年を飼はれつぐ文鳥一羽水浴びてゐる/宮柊二
雨の日の櫻見に來て園の鳥啼くを聞きをり雨の木(こ)の間に/宮柊二
北ぐにの海岸沿ひを渡るとふ候鳥(こうてう)はこれの園に憩ふや/宮柊二
初日さす梅の木の下土凍り楕圓(だゑん)に鳥の影走りたり/宮柊二
參道の石段ながし降(くだ)りゐて啄む鳥の影の小ささ/宮柊二
背戸山(せどやま)の風の中にてひよどりら遊ぶ高音(たかね)のまぎれず透る/宮柊二
水鳥の晝を鳴くこゑ霙する岸の木(こ)の間に透りて聞こゆ/宮柊二
風空(かざぞら)を冬鳥渡り折り折りの啼く聲とどくこの竹群(たかむら)に/宮柊二
小鳥賣(う)る貼紙仰ぎ讀みをれば町のとほくに晝の火事あり/宮柊二
耳とほき若林翁(をう)訪ひきたりさまざま語る鳥のこと石のこと/宮柊二
黒鳥(こくてう)は嘴赤くして二羽泛(う)くを車に見つつ人の喪に行く/宮柊二
鳥が水を飮むごとくして緑の茶啜り終へたり夜の部屋にして/宮柊二
熱帶の木(こ)のまを早く飛ぶ鳥の聲細くして體(からだ)小さし/宮柊二
色鳥(いろどり)は雨の中きて錦木の枝にしばらく遊びをりたり/宮柊二
鷄頭花(けいとう)は秋日(あきび)に燃ゆと眺めつつしばらく他(ひと)の垣外(かきそと)に立つ/宮柊二
雨のなか一つ小鳥が啼く聲は杉の林の中より透る/宮柊二
岩かげの入江いち早く暮れづけば砂なぎさより鳥發(た)ち移る/宮柊二
櫻咲く園の眞晝に斧の音庭鳥の鬨(とき)いたく靜けし/宮柊二
鈴蘭の傍にきたりし庭鳥が葉に載る露を飮みて去りたり/宮柊二
靄のごと東京灣の沖空の低どを渡る海鳥の群/宮柊二
硼酸(はうさん)で目を洗ひをり今朝いまだ庭に降りこぬ鳥憶ひつつ/宮柊二
わが庭に降りくる鳥も減りしかな界隈ひろく家建ち増えて/宮柊二
雨の朝こゑまれまれに鳥啼きて秋づく庭の樹の中にゐる/宮柊二
鳥獸の聲せぬ園(その)の雨のあさ梅の林のわき通り來(き)ぬ/宮柊二
山中に鷄頭の朱を打ちたたき雨荒れざまにひびきつつ降る/宮柊二
風筋の鷄頭の花見つつ待つ家開け放ち主人(あるじ)びと留守/宮柊二
母二人かたみに寡婦と生きてきて聞く時鳥牟禮(むれ)の空を過ぐ/宮柊二
胸のうち波立つごとく怒(いか)るとき庭に野の鳥降り來つつ啼く/宮柊二
離々たりし穗も實も今は靜まれる草原(くさはら)に來て小鳥遊べる/宮柊二
たちかへる年のあしたに鳥のごと甦りくる智識に遊ぶ/宮柊二
雌連るる七面鳥が突然に剛羽(こはば)を張りて地(つち)を走りき/宮柊二
鳴く聲のしはがれてゐき七面鳥山中(やまなか)の湯の庭に飼はれて/宮柊二
雨ふかき島の夜空を啼き渡る小鳥らありてこゑの遠ぞく/宮柊二
鳥避(よ)けの威しに鴉の亡骸を下げて靜けし島の籾田(もみた)は/宮柊二
鳥鳴くは島の磯囘(いそわ)か朝の波白くひろがる中より聞こゆ/宮柊二
鳥のこゑ獸のこゑの跡絶(とだ)えをりあはれあしたの給餌の時間/宮柊二
小走りに道に影して群れあそぶほろほろ鳥(てう)の羽光り落つ/宮柊二
聲張りて小鳥ら啼けり命あるものが檻なる内の安らぎ/宮柊二
啄(ついば)みて正月(むつき)の庭に羽小さき鳥遊びゐき、人を愛さむ/宮柊二
霜いまだ降らぬ十月盡(じふぐわつじん)の朝冬鳥すでに道に遊べり/宮柊二
逝ける犬逝ける小鳥を埋めおく小さき庭に秋ふかみ來(き)ぬ/宮柊二
秋ふかみつつ幾日か庭に降り野鳥ら騒ぐ晨(あした)あしたを/宮柊二
金屬(きんぞく)が飛び遊ぶごと空(そら)にして候鳥(こうてう)の群北より旋(めぐ)る/宮柊二
川水を飮みに近よる野の鳥が草かげにして羽ばたく音す/宮柊二
耕さぬ荒田(あれた)の雨にくだりきて晝(ひる)を遊びし小鳥ら數種/宮柊二
籠の小鳥鳴きて鳴きやめつ被ひ置く眠(ねむり)のための黒布のうち/宮柊二
單調(たんてう)に群れわたりゆく鳥ありて移る季節を知るといふなり/宮柊二
犬一匹小鳥三羽を飼ふ家に少年怒り易く育ちつ/宮柊二
闇の田の空鳴き過ぐる鳥が音(ね)はわれの聞くのみ父は眠りて/宮柊二
霧白く捲きてながるる門(かど)の邊(へ)に鳴く鳥あればわれは出て見る/宮柊二
燒く鳥の匂ひ立つとき這入(はひり)より覗ける犬の親し夜の顏/宮柊二
燒鳥の膏(あぶら)のりたる股の肉引き裂きて食ふ齒を慰めて/宮柊二
一夜(ひとよ)寢てきけばま白き雨霧の立ちのまにまに鳴く山の鳥/宮柊二
冬の日の長くかがやく草むらに翔け入りし鳥潛みて出でず/宮柊二
田に下りて冬の小鳥のこまごまと遊ぶを見をり二階の部屋に/宮柊二
吊環(つりくわん)のゆれうごくした額狹く女(をみな)坐しをり鷄頭花(けいとう)持ちて/宮柊二
乾き照る石垣沿ひにあゆみ行く鷄鳴き騒ぐこゑは前方/宮柊二
高原(たかはら)の丘に影して渡りゐる小鳥らのむれときに閃く/宮柊二
雨くらき路地にうごきし庭鳥のとさかの朱(あけ)を過ぎきて想へる/宮柊二
みちわたる秋の朝日は金にして鷄頭群(けいとうぐん)を黒く立たしむ/宮柊二
鷄頭花(けいとう)は影を置きたり廣庭の砂あかくして夏もかたむく/宮柊二
ただざまに海に望みて目標(しるし)なる鳥海山(てうかいざん)の雪光るなり/宮柊二
わがわきに來て一人立つ外人も暮れゆく濠の白鳥を見る/宮柊二
鷄は皆とほくあそびて網戶越し秋日てらせる鳥屋(とや)の土見ゆ/宮柊二
小鳥の山中のこゑきかしむとらぢおの孤(ひと)つ部屋に鳴りをりき/宮柊二
春楡の午の林に入りくればこゑもの憂くて郭公鳥(くわくこうどり)啼く/宮柊二
ひろき野に降りてむらがる黒どりの烏鳴きてをり首むきむきに/宮柊二
この地區に保護うけて棲む鳥けもの夕早くよりその聲を果つ/宮柊二
百鳥(ももどり)の春の遊びを聽かむとししづけき園を横切りてきぬ/宮柊二
小鳥らは白霜(しらしも)にきて遊びをりなごましきかな陸べるさまの/宮柊二
收奪の形おもほえ春の野の大き鷄舎を覗きゐたりけり/宮柊二
庭鳥(にはとり)と犬叱りゆく道のこゑうらわかわかし少女(をとめ)のこゑにて/宮柊二
山の湯の池のほとりに軍鷄(しやも)一羽頸(くび)のべて夕日の中に遊べり/宮柊二
野分する音小止(をや)みなくきこえつつ鷄(にはとり)の啼くこゑも聞こえつ/宮柊二
屋上の金網のなか目を瞑(と)ぢて養(か)はるるゆゑの羽白き鵞鳥(がてう)/宮柊二
甲々(かんかん)と鳴く鳥きけばこゑひさし御墓處(みはかど)一つ冬の日の中/宮柊二
啼きかはす夜の鷄(にはとり)に焦(いら)ちつつ草明りする夜の道を歸(かへ)る/宮柊二
戀の句の釋(と)きがたきかなおろおろと鳴ける夜鳥(よどり)を憎まむとをり/宮柊二
梅雨のまを山に籠りし小鳥らの昨日今日より降りてくる聲/宮柊二
雨暑き山の木(こ)の間に羽ばたける鳥を聞きつつわが步(あゆ)みたのし/宮柊二
翼(はね)搏ちて荒寥と空に鳴きあぐるまがつ鳥(どり)鴉を胸ふかく飼ふ/宮柊二
勤務(つとめ)より歸りくる道ゆふかげにみみず掘りつつ遊ぶ庭鳥/宮柊二
こころしづかにわれはなりゆく道の上に呼ばるる鷄の急きゆくを見つ/宮柊二
どの部屋か鷄(にはとり)鳴けり疲れざる精神持ちて生きつぐ友か/宮柊二
道塞(ふた)ぎ繁れる黍(きび)の甘く充ち稔(みのり)に入らば鳥も來寄らむ/宮柊二
うちかへす摩天の山のつらなりに墜ちいゆきしは魂(たま)消えし鳥/宮柊二
日蔭田(ひかげだ)の濃霜(こじも)のうへに亂(みだ)れつつとりけだものの過ぎし跡ある/宮柊二
しはがれて曉告鳥(あかときどり)の鳴くころにわれは眠らむ蠟の灯消して/宮柊二
このあした木原(こはら)に迫り鳴く鳥のこゑ低まりて何𩛰(あさ)るらむ/宮柊二
鳥打帽(とりうち)を無頼にかむり燒跡をたもとほりゆく脚絆いでたち/宮柊二
棗の葉しみみに照れば雨過ぎて驢馬と庭鳥と一所(ひとつど)に遊ぶ/宮柊二
鳥ひとつ影にも翔ばす景荒れたり連(つら)なみ遠き陝西省の山/宮柊二
鷄をいすくめ抱へ密偵の丈の低きが捕(と)はれ來りぬ/宮柊二
支那人が水に貯はふる鷄卵をあがなひ飮めばおほかたに下痢(くだ)す/宮柊二
岩稜(いはかど)に群がる鳥の鴉にて時をり木靈(こだま)を呼びつつ啼けり/宮柊二
わが窓に双鳥文なしてひよどりの遊びゐし雪の日を懐かしむ/北沢郁子
背戸裏の雜木林の下ゆきて仰げば鳥の群れ渡るかげ/宮柊二
彼岸花咲きて午(ひる)の陽やや寒く散りぼひ群れて空をゆく鳥/宮柊二
鳴き声を聞きてひよどりと言ひあてし少年は空を指さして立つ/北沢郁子
ひよどりが猛りて目白を追い払う餌台に神の林檎のひとつ/角倉羊子
手を執りて朝道行けば言ひ出づる小鳥屋の前にて小鳥がにほふ/北沢郁子
飛翔するむら鳥の影地にこぼれ明るき春の空仰がしむ/北沢郁子
浅き皿に水浴みに来る鳥のごとをりをりこころ降るる場所あり/横山未来子
むくどりが落すさくらの種子を踏むかそけき音ぞ離れ歩みて/近藤芳美
軒の茂りに画眉鳥は朗らなる声に呼び杜甫草堂に遠く来てあり/近藤芳美
しきりに啼くを画眉鳥と教えたまうなる杜甫草堂のときの移りに/近藤芳美
残りの柿にひよどりは時を定め来る落葉は深きひと日ひと日に/近藤芳美
後れ歩みて妻と佇む「小鳥たちへの説法」の下堂に灯ともさず/近藤芳美
行き行きて鳥の巣のごと影つづく山のやどりぎの日の明るさに/近藤芳美
あけびの実今年残れば部屋に挿す妻に小鳥らの食み残す実と/近藤芳美
白鳥の浮きただよえる水と城冷え増す夕光は木々にひととき/近藤芳美
火山礫なだれて鳥かげもなき岬過ぎつつ夕陽の島の崖は見つ/近藤芳美
梢澄みて落葉しつくす白樺に喚(よ)び喚ぶひよどりもひと日妻の友/近藤芳美
白さざんかいつひそかにて咲きつぐ日しぐれしぐれの庭のひよどり/近藤芳美
群れを離れ鳥も海獣も死を待つをうずくまるものおのずから曝(さ)る/近藤芳美
落葉おくれ水木の茂り影立てばひよどりは鳴く遠き黄昏/近藤芳美
くれないの暗き余光にかげ立ちて朴の散る葉の鳥落つるごと/近藤芳美
脂肉吊りて小鳥を待つ庭にひかりは荒し朴の散る葉に/近藤芳美
ともしびのごと白冴ゆる山茶花のしぐれは昏れて鳥影もなく/近藤芳美
ひよどりの声のおさなき一日を野の上のしぐれはや暗く降る/近藤芳美
水盤の降りしぐれつつまれに来る野のひよどりら野のかげまとう/近藤芳美
仮屋建て鶏飼い病みしつかのまの倖せの日か顕てるおもかげ/近藤芳美
白き鳥梢を渡る朝明けを残る街灯の雪降りしきる/近藤芳美
梨畑の寒の没り陽を見て戻る雲凍るはて鳥影もなく/近藤芳美
炎昼の青田に鳥の影もなし農道ぬけて行くビデオ店/伊東文
肉体というよりむしろ声に似る影をのばして飛んでいく鳥/小谷奈央
どの鳥も過去へ吸われていく途中はがねのような川面を越えて/小谷奈央
風昏きアリーナの底てのひらに水鳥球(みずどりきゅう)はしんと乾いて/小谷奈央
この鳥のゆききするとは思はねど燕の飛べば都おもほゆ/岡麓
山の鳥肌うることなきことわりを考へ考へ我は畑打つ/杉浦翠子
あはれ水鶏よと耳傾けて我があれば遠くより聞え近きより又/矢代東村
雨にぬれて軒下に來し庭鳥のわれを見るかも繩綯ひをれば/中島哀浪
我が家のいまだ焼けねば庭木木に枝移る鳥の聲はひびくも/木村捨錄
百鳥(ももとり)のさえづるなかを鳴き徹る鶯きこゆ信濃路の朝を/今井邦子
服部真里子(とりまり)が泣いて笑った みずたまの大中小を服に散らして/喜多昭夫
大鳥よその美しき帆翔を見上げずに人は汚泥を運ぶ/齋藤芳生
木かげ暗き夏の園来つ樫の中にほろほろ鳥は羽ふくらます/三宅菜緒子
どうか鳥よ この魂をついばんで日輪とける海に散らして/東直子
朝鳥のこゑに裂かれてひかりあれどまた引きよせてまた目をとぢて/桜木裕子
われら火食(くわしょく)われら墓あり鳥獣はみな寒食し墓もあらずも/高野公彦
鳥のつばさの静けさに町は濡れているわれの体がバスに乗りたり/花山周子
誰もゐないたそがれがきて鶏小屋を黒い揚羽が覗いていつた/岡部由紀子
慟哭か嗚咽か悲鳴か絶望かどうぶつゑんの獣鳥魚のこゑ/宮里信輝
果てしでの痛い叛乱ひだり足小指のうらのひとつ鶏眼/宮里信輝
奇つ怪なさまに伐られし神の木のいつしか繁り鳥を憩はす/内藤明
ある日ぼくはオキナワにゆき濃い血を飲む鳥になりました/松川洋子
遠くを見ること楽しくて五階より富士を、黄雲(きぐも)を、候鳥(こうてう)を見る/高野公彦
夏の鳥 夏から生まれ消えてゆく波濤のやうな鳥の影たち/吉田隼人
救急車の音やかましいこの部屋に逃げ延びてきた馬鹿な鳥二羽/山田航
牛も馬も鶏(とり)も斃(たふ)れし映像の荒野百年 さらに百年/高尾文子
きよき壁画の小鳥翔(た)たせむ父いますとこしへの国も水ぬるむころ/高尾文子
鳥のこゑ鳥の沈黙ふかぶかと抱くために青いおほぞらの胸/高尾文子
〈小鳥への説教〉世々に言ひ継がれ大観光地いのりの丘は/高尾文子
庭の樹をめじろ飛び去り額の絵のアッシジの小鳥と遊ぶ春昼/高尾文子
一羽二羽、五羽六羽、聖画の小鳥たち位階なき一人の声に聴き入る/高尾文子
イタリア半島南下してやさしい雨の降るこの丘に〈小鳥の聖人〉と逢ふ/高尾文子
桃咲いて鳥啼く家郷しづかにもわれは受容すちちははの死を/高尾文子
アッシジに購(もと)めし聖画の小鳥たち聖者のことばのみ聴いてゐる/高尾文子
鳥や草、そして永遠。無名のまま書き遺すディキンソン千余のポエム/高尾文子
前に見し放たれし牛も餌を乞ふ犬も空飛ぶ鳥さへもなし/佐藤祐禎
鳥にあり獣にあり他(ひと)にあり我にあり生命(いのち)といふは何を働く/宮柊二
たたかひの最中(さなか)静もる時ありて庭鳥啼けりおそろしく寂し/宮柊二
花のやうに日暮の鳥屋に眠りゐる鶏(かけろ)を姉とわれと見てゐつ/宮柊二
みづあびのみづあらたむる深皿に鳥の影きて横切りてゆく/上村典子
天衣無縫、テンイムホウと呼びかけむ南東へゆく暮鳥の雲へ/上村典子
白鳥を殺むるひとの指撓ひ鼻水の垂る垂れてやまざり/上村典子
「殺処分」あらたな言葉のふちふるへ未明捕獲の白鳥の頸/上村典子
冬山はまなこをとぢて羽たたむ老いたる鳥の思惟の重量/上村典子
石灰岩割れ目にいこひし鳥一羽こぼしし種子の榎は大樹/上村典子
筒鳥のこゑをテープに聞きをればここだここだよ降る兄のこゑ/上村典子
影として水面うつろふ水鳥にこころ寄りゆくふたり黙せば/柚木圭也
追はれつつ鳥屋に入りくる鶏(かけろ)らの次々と踏む夕光(ゆふかげ)の土/宮柊二
飛鳥川の夜目にも白き飛石(いはばし)を踏みて帰りぬ蛍も見たり/小谷稔
飛鳥川に蛍を待てば鳴く鳥はうぐひす止みて山ほととぎす/小谷稔
柿の実のたわわに熟れて採る人のなく華やげり鳥さへも来ず/小谷稔
引率の下見に来たり鶏頭の花鮮やかなディズニーランド/大崎瀬都
早春の風も光も飛ぶ鳥も一リットルの脳内現象/大崎瀬都
緩慢に小さき首を振りてゐし障碍のある小鳥も飼ひゐき/大崎瀬都
渡り鳥落伍せしのち死へ向かふさまをつぶさにカメラは映す/大崎瀬都
蛇の骨に小鳥の骨がつつまれたまま少しずつ愛されている/東直子
ゆふぐれのめんどりちどり兄さんの月にゆきたい気持ちをつつく/東直子
国見山ゆめの棧橋こふのとり無政府主義者はじめての恋/東直子
水枕鳥の産卵風車小屋花野武蔵野無人改札/東直子
あれは鳥? あれは布です北風に白いボタンをきつくとどめて/東直子
波音がわたしの口にあふれ出す鳥が切り裂く空に会いたい/東直子
避雷針つつけば水のもれさうな空にひひつと小鳥が啼けり/東直子
夏空をうつした井戸につるべなし詩人会議を過ぎてゆく鳥/東直子
冴えわたる朝の白鳥(しらとり)わたくしのこめかみうなじつついておくれ/東直子
テーブルの下に手を置くあなただけ離島でくらす海鳥(かもめ)のひとみ/東直子
季節ごとの鳥を愛してしまう程このごろ痛みやすい母さん/東直子
初秋の文鳥こくっと首を折る 棺に入れる眼鏡をみがく/東直子
みどりごのひそと眸(め)ひらくあかときを鳥たつや暗き水の裡より/高野公彦
桃色のあはく沈める夕ぞらへ撒かるるごとき鳥の影見つ/横山未来子
鳥の翼の影よぎれるを三たび見ぬ家にこもりてゐたるひと日に/横山未来子
四十分ほどを電車にゆられゐて夕空をゆく鳥を三たび見ぬ/横山未来子
見えぬほどこまかき花もまじりゐむ芝を椋鳥の駆けてゆくなり/横山未来子
春雨につむり濡れゐむひよどりをかくせる椎も濡れそぼちたり/横山未来子
白き頁の隅のこまかきノンブルの「2」は並びをり鳥の姿に/横山未来子
鳥のこゑに鳥の呼ばれてはじまれる朝ひとすぢの背をのばすなり/横山未来子
まふたつにされし蜜柑の断面の濡れをりいまだ小鳥来らず/横山未来子
ああ接吻(くちづけ)海そのままに日は行かず鳥翔(ま)ひながら死(う)せはてよいま/若山牧水
抱卵の母鶏はみなうつむきて祈るごとくに目を瞑るなり/高木佳子
六月は鳥の羽ばたき多き月こころみだれて一人が休む/棚木恒寿
麦揺れて風は体をもたざれど鳥類であることをみとめる/山田航
鳥獣虫魚に飲食(おんじき)ありて星の夜は銀の食器が天に散らばる/小島ゆかり
鳥の歩み見てゐるまひる放心のわが踝(くるぶし)に老いの貌ある/小島ゆかり
子に兆す小鳥の恐怖のやうなもの抱きしむる刹那せつなにおもふ/小島ゆかり
囀りはあかるき挫折 思ひより遠くひろがる鳥の浮彫(レリーフ)/山中智恵子
とどろける夕映の底に鳥らを鎮めたしかならざる手をひとに措く/山中智恵子
わが生みて渡れる鳥と思ふまで昼澄みゆきぬ訪ひがたきかも/山中智恵子
舗装路に雨ふりそそぎひったりと鳥の骸のごとく手袋/内山晶太
きのふ散つた百合の替はりに窓辺にはセサミストリートのでかい鳥/山田航
縁側にわがひるねしてありし間に鶏(とり)は卵を生みにけるかも/相馬御風
熱き日を走り眩(くら)みてわがいのち鳥けだもののごとく水を恋ふ/高野公彦
ひなどりのくちへ蚯蚓を運びゆく親鳥の眼がふいにまばゆし/笹井宏之
CryではなくてSingであるといふ 死の前の白鳥の喘ぎも/笹井宏之
名を知らぬ鳥と鳥とが鳴き交はし夏の衣はそらをおほひぬ/笹井宏之
傷つきし黒鳥一羽よこたへて夕焼けてゆくサルビア畑/笹井宏之
菖蒲咲きそめしさ庭へ降りたてば鳥影ひとつわれをよぎれり/笹井宏之
ししむらに星を宿してゐる鳥が吾のゆびさきを去る夕まぐれ/笹井宏之
白鳥座より抜け出でし白鳥のいたくしづかな着水を見つ/笹井宏之
六花咲き乱れし夜に白鳥はひとたび羽をひらきたるのみ/笹井宏之
かなしみの雨がしづかに止むゆふべ羽根やはらかしわが渡り鳥/笹井宏之
どのやうな鳥かはわからない しかし確かに初夏の声で鳴くのだ/笹井宏之
われが我としてあるためにみづいろの鳥を胸より放つ十五夜/笹井宏之
台風の目をはばたける鳥達に涙とふ名を与へてやりぬ/笹井宏之
あおあおと空は沈黙 白鳥の燃ゆるをわれは風上に聴く/笹井宏之
鵜の項ゆ幽けき悲鳴聞こえくる鳥類図鑑持ちて歩めば/笹井宏之
鳥居にも春は来るらし代わる代わる鳥達は花 飛べば花びら/笹井宏之
パソコンの起動時間に手に取りし詩集を最後まで読み通す/笹井宏之
名を呼ばれ週刊誌から目を上げれば百舌鳥鳴いている心療内科/笹井宏之
木製の銃でデコイの水鳥を撃ち抜いた、って感じがしたね/中澤系
嘴赤き小鳥を愛でゝしろ銀の皿に餌をもるゆく秋の人/原阿佐緒
名も知らぬ小鳥来りて歌ふ時われもまだ見ぬ人の恋しき/三ヶ島葭子
押すたびに爆発夢想するもまた鳥のさえずりだった信号機/虫武一俊
白鳥はふっくらと陽にふくらみぬ ありがとういつも見えないあなた/渡辺松男
ぐんぐんとおのれの近づきくる窓をビルをふはりと鳥は越えゆく/渋谷史恵
宗教の賞味期限を説く人の背後に見えて鳥は鳴きおり/大島史洋
木洩れ日をつかまえようと手を伸ばすおさなの指から夏の鳥飛ぶ/河野多香子
病棟の付添簡易ベッドにて朝一番の時鳥(ほととぎす)を聴く/高取雅史
だしぬけに空がざわめき草とりのわれの頭上を鳥の大群/堂本光子
人間になき行為にて白き白き卵を抱ける鶏を清(すが)しむ/富小路禎子
銅板の鳥しづみきて胸を刺す 傷(やぶ)らずばなほ羞しき翳り/山中智恵子
行きて負ふかなしみぞここ鳥髪(とりかみ)に雪降るさらば明日も降りなむ/山中智恵子
激越の手に鳥打帽(とりうち)をつかむ見ぬ黙契の中のきびしきかたち/河野愛子
白鳥を美しからぬといふ吾子よわが裡(うち)の何を罰するならむ/稲葉京子
現つ世は明(あか)しあかしと鳥を呼ぶわが声透る野のあけぼのに/安永蕗子
飛ぶ鳥の目にも名残りの夕茜世にくれなゐのことぞ哀しき/安永蕗子
はるばると世の末見ゆる水鳥か芽吹く葦生に首たててゐる/安永蕗子
見しことも語らぬ鳥が帰りくる岬みどりの草和ぐ夕/安永蕗子
見おろしに鳥瞰(み)て過ぎむ逆浪の白せめぎあふ河口といふを/安永蕗子
崑崙を越えゆく鳥と思ふまで朝の渡りの羽白きかな/安永蕗子
寂しみて籠(こ)の禽見れば鳥もまた自(し)が悪相のなかに眼つむる/安永蕗子
黒々と森の悩める内側を鳥あるきつつ真夜の風致区/安永蕗子
かいがねの右と左を近づけて仰がば鳥になりゆくわれか/稲垣道子
存命のよろこび詠えと鳥が鳴く意識なき子の今日誕生日/稲垣道子
海鳥の群れたちさわぐ埠頭に吃水高く船は舫(もや)えり/稲垣道子
はだれ雪冴え返りたる庭の辺につくばいの氷割りて鳥待つ/稲垣道子
朝もやに並みよろう山の見えねどもカーンカーンと啄木鳥大工/稲垣道子
とりあえず家に帰ろう水鳥を下から照らす川のゆうばえ/吉川宏志
ゆうぐれは駝鳥の背中で眠りたい 灰色の毛にくしゃみしながら/吉川宏志
鳥風のひとすじ吹きしゆうぐれは眉毛の薄き妻とおもえり/吉川宏志
春鳥を見上げる喉の白きこと まぼろしますか まぼろすだろう/吉川宏志
日暮れにはつい目で追ってしまうひと書架から鳥の図鑑を抜けり/吉川宏志
鳥の目のようにまばたく梅の木がポストの横に立っているなり/吉川宏志
二人から愛されているつややかさ焼き鳥を食む横顔に見つ/吉川宏志
扉ある鳥居は道を塞ぎたり茸を踏みてわれ引き返す/吉川宏志
棒のごと羽をすくめて飛びながら鳥はときどきただ落ちてゐる/朝井さとる
水鳥の一羽潜れば水の輪に子鴨も跳ねて渦の中へと/川藤青理沙
白鳥は大きはなびら冬枯れの水沼の陰に動くともなく/川藤青理沙
赤松の古木さわたる鳥の声海鼠(なまこ)壁へと歩みてゆけば/川藤青理沙
憤怒相ぬりこめられいる青不動火焰は自在な鳥の形に/川藤青理沙
幸福の青い鳥追う夕暮に青い鳥抱く乙女とまみゆ/川藤青理沙
裂くものは風 空 冷気 暁に翔ちゆく鳥の声痛きまで/川藤青理沙
道の辺に山茶花匂えばかの川に冬鳥つぶつぶ遊びておらん/川藤青理沙
花明る桜のなだりに佇めば翔ちゆく鳥の弾む心地に/川藤青理沙
水鳥の浮かぶ川岸にうち寄せてゆるやかに砂を洗いゆく波/川藤青理沙
山茶花のかすかに匂う朝の道小鳥を抱きひと歩みきぬ/川藤青理沙
群れなして水鳥の発つ気配あれば行かばや我も羽つくろいて/川藤青理沙
酔いもせず器の水を注ぐかな鳥飛び立ちし庭のさびしさ/川藤青理沙
たらちねの母偲ばるる桜樹の根もとに憩う椋鳥と鳩/川藤青理沙
降り立ちて白鳥羽をたたむかに泰山木の花頂きに/川藤青理沙
さわだてるけはひ届かぬはろけさに椋鳥のむれはまた森へ落つ/大西民子
庭に来てゐたる小鳥の足あとも消しゆく雨か夜半降り出でて/大西民子
山茶花の散りしくあたり用のなき鶏のごとくに歩めりわれは/大西民子
とりたてて思ふならねど静かにてかなしきときに歌の生まるる/大西民子
日蔭より日の照る方(かた)に群鶏(むらどり)の数多き脚歩みてゆくも/宮柊二
さくら食む鳥のあかるさ終はりなき書物を得たる少女のやうに/水原紫苑
渡り鳥見送ったのち焼き菓子がやっと恋しくなる島の秋/松村由利子
広やかな秋のこころよ何という鳥の声かと見上げる空の/松村由利子
秘密とは静かなる沼鳥一羽飛び立つときの濁り恐ろし/松村由利子
鳥のこころ鹿のこころに恋うべしと総身雨にざんざと濡らす/松村由利子
真っすぐに鳥は鳴くから求愛の季節の木々の緑うるめり/松村由利子
鳥の声聴き分けているまどろみのなかなる夢の淡き島影/松村由利子
渡り鳥に帰らぬ鳥のあるという記事思い出す改札口で/東洋
小鳥がみな鳩ほどに見ゆ、やや遠き梢の冬の夕風の中に/内藤しん策 *「しん」は金偏に辰
小禽(ことり)の人にさからふくちばしををりふし汝に見ればさびしき/内藤しん策
シーサーの横にとまれる大き鳥首動くたび嘴(はし)光りたり/さいかち真
ふくだみてすぼみて大き楠の春の時間を鳥は啄む/さいかち真
朝鳥が鳴くああ朝鳥はシミュレーションで 本当は酷(ひど)い黒さの壮年の鵺(ぬえ)/さいかち真
鳥のとぶかたちに切られ茹であがる菜の花やさし畏みて見つ/さいかち真
時鳥を模すクラクション響けるに怒りたゆたふきさらぎの夜/さいかち真
このところ寂けき鳥と親しむに我の及ばぬ韻鏡あり/さいかち真
があつがあつと怪鳥(けてう)の声す老い人にスーツの二人は侵入者ならむ/さいかち真
うつらうつら椅子に坐るに窓外を大きなる鳥燃えつつよぎる/さいかち真
腐刻画のなかに月なくあかつきに鳥の声なく あけがたの雨/佐藤弓生
白き犬水に飛び入るうつくしさ鳥鳴く鳥鳴く春の川瀬に/北原白秋
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ラリるれろ。

2016年03月04日 17時26分18秒 | 言葉に寄せて
御言葉を 繰りつつ卑語に 親しんだ
わが舌の罪 知るラリるれろ
(とど)

2011年6月27日 作歌。
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早口言葉をパロって。

2016年03月03日 04時45分05秒 | 言葉に寄せて
巧いうた いま詠うまい
痛いうた 詠い今際も うたっていたい
(とど)

2014年9月20日 作歌。
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#sarutanka(じわじわ追加中)

2015年08月14日 09時21分35秒 | 言葉に寄せて
今年の折り返し地点まであと一ヶ月ほどになりました。ぼちぼち来年の干支がらみの短歌を作らなければと思いつつ、なかなか…です。
そこで、サル(猿、去る、申…etc.)に因んだ短歌作りに発破をかけるため、Twitterで二年以上かけてメモってきた#sarutankaを、備忘録として公開エントリーにします。


猿轡されたる熊が炎天下ぽつんぽつんと街道にをり/本多稜
限界の村の山畑守りつつ今日も確かに生きて猿追ふ/望月ふみ江
猿橋のたもとを染めるもみじ葉のひとひらふたひら欄干に落つ/飯島早苗
猿の害を網にて囲ふ里の畑白菜大根あをあを育つ/篠原俊子
穭田(ひつじだ)に座り込みたる猿の群れ穂を抜き食みて腹を充たせり/篠原俊子
腹すかし猫やら鵯やら来る庭に今日は一日離れ猿ゐる/河野裕子
玄関の林檎箱より林檎ひとつ持ちゆきし猿今朝はまだ来ず/河野裕子
離れ猿空を見上げて瞬(しばた)けり隠れなき老い赤き横顔/河野裕子
群れを率てをりし日のことこの猿は時どき思ふか屋根に芋食ふ/河野裕子
界隈の屋根から屋根を渡りゆく猿の腕(かひな)の意外に長し/河野裕子
どこでどう死んでゆくのか横向けば眼窩の窪みふかき猿はも/河野裕子
隣り家のさるすべりの紅(こう)散りこみて蔽ひゆきつつ吾が蝉塚を/苑翠子
人よりも山猿どものおほくすむ十津川郷へ尾のある人と/小黒世茂
風に吹かれそよげる猿に乞わむかも白毛が身をおおう安らぎ/佐伯裕子
ひとりではないのに独りひとりきり声あげて泣くこころの猿(ましら)/佐伯裕子
ケースには猿の脳みそ蜂の蠟かく存らえて人の生命(いのち)は/佐伯裕子
失せしものかぎりも知らず抽き出しに森閑と反るサルノコシカケ/佐伯裕子
ものを食む秋の哀しさ萌え出でしサルノコシカケにくち光らせて/佐伯裕子
猿沢の池のほとりで横座る遠い瞳(め)をした鹿に会ひにき/山科真白
捕はれて檻に戻れるボス猿は素知らぬふりに夕陽を仰ぐ/長田貞子
霧はれて乗合バスはぱふぱふと猿羽根峠を越えゆきにけり/田上起一郎
「苦が去る」と古布にてつくる猿ぼぼの細き梅の枝に九匹のせる/米山桂子
猿も子を殺すことあり恐ろしと言ひつつ殺すところを見しむ/竹山広
何をなし終りてそこに置かれたる電話の横のモンキースパナ/竹山広
ベートーベンに聴き入る猿を見せられしゆふべ出でて食ふ激辛カレー/竹山広
右の歯と左の歯にて均等に嚙むこと大事とは知り申す/竹山広
聖書など要り申さずと断れば音する傘をひらきて去れり/竹山広
力のみが支配する猿の世界にも見目よき男をみなごあらむ/竹山広
電灯の紐を仰臥の胸近くおろせば今日はすたすたと去る/竹山広
あな欲しと思ふすべてを置きて去るとき近づけり眠つてよいか/竹山広
あな醜(みにく)賢(さか)しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似る/大伴旅人
手長猿飼ふ兵あるをわが見しが時すぎぬればあやしともせず/田中克己
猿の子の目のくりくりを面白み日の入りがたをわがかへるなり/斎藤茂吉
月あかきもみづる山に小猿ども天つ領巾(ひれ)など欲(ほ)りしてをらむ/斎藤茂吉
あかき面安らかに垂れ稚(をさ)な猿死にてし居れば灯があたりたり/斎藤茂吉
猿の面(おも)いと赤くして殺されにけり両国ばしを渡り来て見つ/斎藤茂吉
猿の肉ひさげる家に灯がつきてわが寂しさは極まりにけり/斎藤茂吉
空ひろく晴れたる下(もと)の猿ヶ辻きみに日照雨を教えしあたり/永田紅
天使魚の瑠璃のしかばねさるにても彼奴(きやつ)より先に死んでたまるか/塚本邦雄
袴さばきのたとへばわれをしのぎつつあはれ猿芝居の次郎冠者/塚本邦雄
さるすべり一花ひらきて梅雨いまだ明けぬあしたを初蝉の声/香月昭子
猿も出る裏山道をおどおどと上りて合歓の真盛りに逢ふ/狩野花江
病室の窓より見ゆるゴンドラがお猿のお籠のように揺れおり/飯沼鮎子
高き檻の内外にゐて面白きカバ、テナガザル、恋ビト、コドモ/石川美南
猿の手を河童のミイラとして祀るさまざまな拉致ありし世の悲に/米川千嘉子
住むことを選んだ町に白い実と寒風、小猿、風船と汽車/東直子
ひとつ去りふたつ去りして苦の去るとましらここのつ細枝に遊ぶ/渡辺忠子
日盛りに職方ひとり登りいる工事場の屋根 白さるすべり/上野久雄
「猿だけは撃たれる時に目をつむる」駆除する人は深き眼に/岡本留音紗
この野郎! 揺れいる猿がしたたかに見上げていたりわれも淫らか/永田和宏
波勝崎その雌猿の石遊び時経てつひに〈文化〉となりぬ/古谷智子
口つけて谷の泉の水呑めば一寸猿似の私がうつる/喜多功
積乱雲に呼ばれたやうな感覚を残して夏の曲馬団去る/山田航
没りつ陽の黒きにみればロダン作る 考へる人、ましらのごとし/葛原妙子
薔薇色の西瓜の断片にちかづきてよはよはしかも蚊は鳴きて去る/葛原妙子
夏終るしらびそ樹林のさるをがせ緑おぼろに雨に震ひつ/河野愛子
子を連れた野猿が屋根に今朝も来て三輪車見る憧れの目で/若山巌
大和屋にあこがれ続け二十年猿曳き観しが最後となれり/伊東澄子
「死ぬからなあ」二度申さるる土屋先生とゐる時のはさまなり/河野愛子
つゆぞらをひたすら踏んで去る土足はなあぢさゐの夢さめやすし/永井陽子
花かげが冷えつく故郷等身のやさしいひつぎ天に置き去る/永井陽子
つゑつきて石の舗道をいづかたへ父は去るとも満天のほし/永井陽子
さるすべりのたわわな花枝のむかうには鉛の雲を抱く空が見ゆ/永井陽子
花をたづねて人来る頃ぞ亀石も笑ふ猿石も笑ふ明日香早春/永井陽子
旅に出たきことその季節を過ぎしこと冬の雨夜のさるすべりあり/永井陽子
猿どもはまばゆき初夏の陽を浴みてゐるぞひねもす仕事などせず/永井陽子
ぎゆんぎゆんと吹き溜められてゆく雲を見てゐる冬のおほさるすべり/永井陽子
来し方も行く末もなし老猿が目を閉ぢてゐる冬の日だまり/永井陽子
病棟を出づる時日日見上げてはなぐさめらるる大さるすべり/永井陽子
みのむしが秋のさくらに垂れさがりなうなうなうともの申すなり/永井陽子
今は動かぬ赤穂城内置時計申と酉との間指してゐる/永井陽子
こはいかに人参色のゆふぐれはひとがみなみな見ゆるぞ猿に/永井陽子
自転車のネヂひとつ締め紺碧の空へ投げやるモンキースパナ/永井陽子
桐の花咲く下におもへるとほつ国 いきいきと伝説の猿(ましら)棲む国/永井陽子
夢の中でマンバウと議論してゐたりむかしむかしの猿について/永井陽子
金色の毛髪の猿 あの夏の……もういちど孫悟空に逢ひたし/永井陽子
見ることのありて触れたることのなき虹、さるをがせ、白き耳たぶ/高野公彦
前を向きするどく立てる鹿の耳我が去るまでを動かずに立つ/風間博夫
血脈のように流れる夕闇の川に少年石投げて去る/里見佳保
ふるふると五徳の回る音のして遠野物語の幽霊や去る/有沢螢
歳月を何の力にせよと言うやかの人の言葉忘れさるべし/さいとうなおこ
花終るまでを堪へたる桔梗(きちかう)に晩涼の水きずつきて去る/塚本邦雄
ぽろぽろと電光表示の行き先の少し崩れた地下鉄が去る/鯨井可菜子
来なかったひとの名前をレジ横の 〈空席待ち〉に書き足して去る/鯨井可菜子
出口なし 小さき子らの群れ左側を抜き去る全速力で/中澤系
雪にぬれ一羽は影となりながら人気なき田を低くとび去る/桜木由香
青杉の太き股にもさるをがせ垂れをり神の復讐のごと/島崎榮一
狂おしく咲くさるすべり八月のなんでもない日に会いにゆきたい/嶋田さくらこ
百日紅は色を変えずに散る花、と教えて祖母はほほえんでいる/嶋田さくらこ
なほ空に余韻をゑがく ふくらみを持たせて碗の縁を去る手は/本多稜
渡し船のエンジンかくもけたたまし汨羅(べきら)の河の風を消し去る/本多稜
鬩ぎあふちからは崩れ水つひに火にまさりたりわれを消し去る/本多稜
密々たる樹林に風の起こるなし蒸されて歩き歩いて蒸さる/本多稜
あれはたしかにサイチョウならむ光引く尾のみ目にせり山を去る日に/本多稜
氷の刃が覆ひつくせる頂標をひしと抱きしめ頂を去る/本多稜
人去るや遺産たちまち取り分けてその人と共に無きものとせり/本多稜
打ち込みて定め伸ばして押さへ去る 子の手支へて今日の書初め/本多稜
去る振りをしてまた戻る二三遍 最後はわれが折れてバザール/本多稜
さるすべり遠目にも濃くその日よりわれのうちなる百日紅の村/小中英之
いちまいの熱き鉄板はこび去る男同士の会話も灼けて/小中英之
まなうらに雪ふるものを陽の射せばうつつに白くさるすべり咲く/小中英之
風の日は風と彩(あや)なす碑のほとり去るもの影もきよらかならず/小中英之
水の辺のまんさくいまだこの町を去るも去らぬもわが意志にあり/小中英之
精(くは)しくは申さずさびし今昔の煮物に沈む大根飴色/小中英之
一見してこひねがふべし歪みたる面(めん)のごときは猿の腰かけ/小中英之
咲ききらず枯れて立つかなサルビアのめぐり風吹きサルビア鳴りつ/小中英之
空からの夢にひしめく桜花には悟空の遺影かかげてありき/小中英之
人を怒るは愚かなるかな春と共に来るを拒まず去るを拒まず/小中英之
薬にて忘れし過去も秋風に猿麻桛(さるをがせ)のごと吹かれてをらん/小中英之
噴水に寄りくる老いをもたぬ町ひとびとは水落ちぬ間に去る/石本隆一
夕映えに溺れ消え去る鳶見れば死とは光に吸われゆくこと/道浦母都子
日は低く野にけむりつつ遠ければ去るべく寄らむ浣花溪の水べ/近藤芳美
なにもなし秋がさそひに来るゆゑに都を去るといひつげてまし/尾山篤二郎
街上樹下(かいじやうじゆか)、秋はしのびてあゆみさる、枯葉、乾反葉(ひそりば)、ちる月あかり/尾山篤二郎
広場(ひろには)は雨に小暗し百日紅の濡るるはだへもはた寒げなる/吉野秀雄
山なかの暗き杉生(すぎふ)にうつしみの人なるにほひただよはし去る/前川佐美雄
百日紅あかくわが眼に灼きつけば一列(ひとつら)の蟻を踏みにじりたり/前川佐美雄
百日紅すでに梢にともしけば家めぐる垣の荒れて隙(す)きたり/前川佐美雄
ののしりてホームの床にまろび居し男をかかへ去る雨の中/近藤芳美
はればれと羽子板を買ひて店を去る女士官を見守りゐたり/木俣修
百日紅の葉がひの空の星ひとつきみが瞳(め)のごと澄むもかなしも/木俣修
やりすごす春にあらねばこきざみにいかにも耐へてゐるさるすべり/今野寿美
戦に死にし禽獣のことおもふ猿島に猪(しし)らおろかに肥えて/大野誠夫
俗化して名勝となれる爆心地訪はず又去る広島にきて/中野菊夫
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#hitsujitanka

2014年09月30日 12時03分16秒 | 言葉に寄せて
来年の年賀状を考える頃になりました。母のはサクッと仕上げたのですけれど、私の方は図案は考えてありますが肝心の自作の《羊短歌》が納得いくものができていません。
Twitterで昨年の正月から「羊」「未」にまつわる歌をメモってあったのを、覚え書きとしてこちらにも掲載しておきます。


・夏が来る頃にはここを去つてゐる 未来完了で関はる職場/澤村斉美
・未知の未はつねに危ふくサンクトペテルブルグより雑誌「時代(ヴレーミヤ)」は出た/阪森郁代
・ビルを描かれたカードは再び配られて未だルールを知らされぬまま/中島裕介
・肩車に乗りて悟りぬ小柄なる父の背のひつじ雲に届くを/日置俊次
・未来とも過去とも見えてこの夕べ辻ごとに立つ喪章の男/高野公彦

・私が羊歯だったころ降っていた雨かも知れぬ今日降る雨は/柳澤桂子
・雨ふりてこの世はふかき水宇宙未生以前の四肢ひろげ臥す/玉井清弘
・歌舞伎町未明の火事あり見罷れるあまたの人のゆく秋の空/稲葉峯子
・青りんごはあの羊雲が過ぎるまであをいままです……そう、あと百年/日置俊次
・南より北に広がるひつじらのすきますきまに空の青の子/伊藤一彦

・言問はぬ冬田の上にひつじ雲また言問はずひろがりゐたり/伊藤一彦
・羊歯群の羊歯は切れ込みするどくて葉間(あひ)より間なく闇を産みゐる/真鍋美恵子
・作図して鶴亀算のひらめきは子のものいまだ世の中知らず/今野寿美
・赤らひく肌もふれつゝ河郎のいもせはいまだ眠りてをらむ/芥川龍之介
・ひつじぐさ咲くひるさがりたゆたへる夢とうつつとうつつと夢と/今野寿美

・身のほどを知るとは言へず大いなる会津身不知柿(あひづみしらず)いまだも知らず/今野寿美
・緬羊のやうな雲ゐる午下がりわれがわれなることの不可思議/小島ゆかり
・一日が短くなったと語りかけるのにはやはり歯朶類がいいな/高瀬一誌
・羊羹にぬつと刃を入れとりあへずまだ大丈夫なにかわからねど/小島ゆかり
・わが内のダフニスが山羊連れて出て部屋にのこされたる陽の埃(ほこり)/寺山修司

・鉄道が大きな境われとわが山羊と駈けいし青春の日の/寺山修司
・プールよりもどりて眠る子らのうへ未(ひつじ)の刻のひつじ雲をり/小島ゆかり
・麦の穂に光ながれてたゆたへば向うに山羊は啼きそめにけれ/斎藤茂吉
・さみどりの唯我論あり 羊歯類がからかふやうに胞子を飛ばす/田村元
・ベビーカーを押せる娘とゆくみちの空にほどける羊のむれは/紺野裕子

・追い込んで私が何かに届くなら散った羊を集めにかかろう/永田紅
・キャンパスの北のはしっこ道の果ていつもねむたい目の羊たち/永田紅
・思い出は羊のように群れなして道を塞いで動きてゆきぬ/永田紅
・この部屋を出ると世界はおそろしく羊歯のさみどり見つめるばかり/岸原さや
・銀色の釘さえ甘く匂いたつ羊歯の線画を壁に架ければ/岸原さや

・句読点の入力未だ覚えない父のメールはつるんとしてる/柴田瞳
・とざす鍵濡れて夜ごとに降る梅雨の野に青々し鬼羊歯の葉に/近藤芳美
・いつ過ぎし雨か鬼羊歯の門濡れて見て佇つたちまちに妻なきかげか/近藤芳美
・一九四九年夏世界の黄昏れに一ぴきの白い山羊が揺れている/浜田到
・ラウンジは昼の灯連ねぽつぽつとせせらぎ小路に未草咲く/伊藤淑子

・ひつじぐさ可憐に咲けばあまがへる見とれゐるらむ葉を立ち去らず/丹下美雪
・踏み入れば羊歯群深くそよめきて半夏の山に木洩れ日しげし/中山博
・鳳凰樹、羊蹄甲また風鈴花(ふうれいくわ) 花の匂ひに満ちゐる台湾/佐藤静子
・先輩の肩越しに日が暮れてゆく(夕焼けは羊飼いの喜び)/柴田瞳
・水仙と羊とジュークボックスに癒されてぼくがゐなくなる午後/荻原浩幸

・泣き面に仔山羊のひづめ ほろほろと春の野山を帰りゆくなり/石川美南
・空つぽの水筒持ちてみづうみに沈める羊雲盗りに行く/石川美南
・羊歯を知らぬ学生に羊歯を教へつつわが脳天を点つ雨滴音/小島ゆかり
・あとがきのように寂しいひつじ雲見上げてきみのそばにいる夏/大森静佳
・たいせつに飾ってあった五行詩を喰いたる山羊が見る月の夢/本川克幸

・山羊の毛のチークブラシが頬骨をNIKEのロゴの形に滑る/柴田瞳
・土佐の羊歯信濃の羊歯のひとときに萌えたる庭を見らくしたのし/木俣修
・獅子の肝(かん) 山羊の胆(たん)などもちたらば楽しかるらむ心(しん)は如何にせむ/内藤明
・目覚めぎは僕はひとつの約束を胸に浮かべたまま山羊となる/山田航
・星の灯を束ねる羊飼いのよう病の母のことばをつなぐ/高橋徹平

・羊のやうにありたる過去よわれもまた種痘(しゅとう)の痕を腕に遺して/杜澤光一郎
・ほどかれて羊の雲に浮かぶ身は大き欠伸をひとつなしたり/内藤明
・うちにある大きなものは父さんのふくれた腹と山羊のおっぱい/永井隆
・白バイがするする通るわた雲かひつじ雲かをあらそう横を/伴風花
・わが子とは感性でこそつながれとかく青ぐらく羊歯は繁りぬ/松野広美

・頼まれて友の耳翼に刺すピアス煉羊羹の手応へありぬ/桑原亮子
・たんぽぽの花に目線を合わせんとしゃがみこむとき傾く羊水/鶴田伊津
・羊歯の葉をグライダーにして飛ばしたね熊野の土の匂いの中で/鶴田伊津
・うんめいとウンメイと啼き羊らがぞろぞろぞろと羊舎に戻る/おのでらゆきお
・ゆるされて、あなたは皿の仔羊の肉によりそふ香草である/魚村晋太郎

・蝦夷松の林に咲ける雪花は羊蹄山の裾野のもよう/長住百合子
・草の道行けばたまさか出会うもの羚羊 山鳥 瓜坊の列/木島泉
・さくらばな空に極まる一瞬を児に羊水の海くらかりき/小池光
・糸満の家(や)むらに来れば、人はなし。家五つありて、山羊一つなけり/釈迢空
・走らない羚羊(かもしか)と猟をせぬ男わかり合いつつ目を外らすなり/佐佐木幸綱

・異国より届きし絵本ふわふわのぴんくのひつじ指に触れゆく/江戸雪
・彼女らはみんな乳癌患者といふ患者山羊ならず羊にもあらず/河野裕子
・羊雲群れをくづさず尖塔を空にのこして西へ移りぬ/横山未来子
・羊らはやさしき顔を並べをり大工ヨセフの庭の柵のうへ/横山未来子
・靴下をはいて眠るに羊水に包まれた猫の夢をまた見る/花輪成美

・穭田(ひつじだ)に座り込みたる猿の群れ穂を抜き食みて腹を充たせり/篠原俊子
・現はれし家の向かうの山肌に一番星否しろき山羊をり/本多稜
・羊歯の葉をわけてなぞればRegent Streetなり塹壕(トーチカ)の名は/本多稜
・羊膜の幾つかはまだ紅くしてひそとアシカのハーレムに入る/本多稜
・牧地消え針葉樹消え巨大なる羊歯のたぐひの目に付きはじむ/本多稜

・冬の羊歯に尾のさきふれてねずみの子あしたの庭に死にてをりけり/小池光
・ひつじぐも広がる空よ このたびも平常心に在ること大事/恒成美代子
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