日本語の学習書、『げんき』が2回の改訂を経ていることは、以前の記事に書きました。
2011年刊の第二版の「はじめに」には、一回目の改訂について、次のように書かれています。
『げんき』は1999年、日本語教師にとって「教えやすい」、学習者にとって「学びやすい」教科書を目指して、学習者のニーズ調査をもとに作成し、何度も試用しながら細部にわたる改訂を重ねた末に出版しました。もともと日本で日本語を学習する留学生を対象にした教材でしたが、その後、日本だけでなく海外でも広く使用されるようになりました。(中略)
この改訂版では、『げんき』の特長である「教えやすさ」はそのままに、私たちの経験や皆様の声を反映させて、新しい内容の追加、改訂を行いました。
そして、第三版の「はじめに」には、次のように書かれています。
社会の変化、学習者の多様化に伴い、『げんき』も変化してきました。この改訂版では、語彙、練習などの改訂に加え、教科書の電子版や音声アプリを提供することにしました。また、登場人物の多様性にも留意しました。私たちが、初版から目指していた「学びやすさ」「教えやすさ」が、さらに改善できたと感じています。
第二版と第三版の「はじめに」を読み比べると、面白いことに気づきます。
初版は、 日本語教師にとって「教えやすい」、学習者にとって「学びやすい」教科書を目指して刊行された。第二版は、「教えやすさ」はそのままに、新しい内容の追加、改訂を行い(、さらに学びやすくした)。そして、第三版では、「学びやすさ」「教えやすさ」が、さらに改善できた…
初版では、「教えやすい」「学びやすい」教科書を目指していたものが、第三版では「学びやすさ」「教えやすさ」が改善された、というふうに、初版と第三版で、「教えやすさ」「学びやすさ」の順番が逆転しているのです。
つまり、『げんき』は、この第三版で、日本語学校(大学)の教科書から、日本語を家で独習するための自習書に、はっきりと舵を切ったのです。
その証拠はいくつかあります。
第二版の冒頭に、「本書について」という解説があります。日本語教師向け解説で、この教科書をどのように使うか、が書かれています。そして、まったく同じ内容が、「Introduction」というタイトルで英語でも書かれています。
ところが第三版には、同じ「Introduction」という解説がありますが、その内容は教師向けではなく、学習者向け。本書でどのように自習するとよいか、が書かれているのです。また、第二版にあった日本語版の「本書について」はなくなっています。
第三版では、音声CDが廃止され、音声は無料でダウンロードできるようになりました。教室で使うためにはCDやMP3にほうが使い勝手がいいはずですが、学習者にとってはスマホで聞けるダウンロード版のほうがありがたい。
テキストの電子版が用意されたのも、外国で印刷物の本が入手しにくい人たちへの配慮でしょう。
著者たちは、刊行当初、国内の日本語学校用に執筆し、第二版でもその狙いは変わりませんでしたが、結果は、以前の記事で紹介した通り、国内日本語学校での採択率は0.4%。『みんなの日本語』に惨敗しました。
ところが、国内外で「自習書」として評判になり、ベストセラーになった。
それで、第三版では「自習書」としての使いやすさをさらに高める改訂を行った、というわけです。
ところで、『げんき』第三版は2020年3月刊行ですが、ライバルの『みんなの日本語』は、 2012年に出た第二版が最新版で、第三版の改訂予定は今のところ発表されていません。
『みん日』の改訂は難しいのではないでしょうか。なぜなら、『みんなの日本語』には、「本冊」に対応した各言語版が13種類もあり、本冊を改訂すると、言語版も改訂しなければならず、それには大きなエネルギーと費用がかかるからです。
その点、『げんき』は本冊とワークブックの2種類(Ⅰ、Ⅱを合わせると4種類)しかありませんから、改訂も容易。語彙や表現が古くなれば、躊躇なく改訂できるはずです。
日本語学校の「教科書」としては、今後もしばらくは『みん日』の天下が続くでしょうが、(英語のできる学習者向けの)「自習書」としては、『げんき』がさらに売れ行きを伸ばしそうです。
2011年刊の第二版の「はじめに」には、一回目の改訂について、次のように書かれています。
『げんき』は1999年、日本語教師にとって「教えやすい」、学習者にとって「学びやすい」教科書を目指して、学習者のニーズ調査をもとに作成し、何度も試用しながら細部にわたる改訂を重ねた末に出版しました。もともと日本で日本語を学習する留学生を対象にした教材でしたが、その後、日本だけでなく海外でも広く使用されるようになりました。(中略)
この改訂版では、『げんき』の特長である「教えやすさ」はそのままに、私たちの経験や皆様の声を反映させて、新しい内容の追加、改訂を行いました。
そして、第三版の「はじめに」には、次のように書かれています。
社会の変化、学習者の多様化に伴い、『げんき』も変化してきました。この改訂版では、語彙、練習などの改訂に加え、教科書の電子版や音声アプリを提供することにしました。また、登場人物の多様性にも留意しました。私たちが、初版から目指していた「学びやすさ」「教えやすさ」が、さらに改善できたと感じています。
第二版と第三版の「はじめに」を読み比べると、面白いことに気づきます。
初版は、 日本語教師にとって「教えやすい」、学習者にとって「学びやすい」教科書を目指して刊行された。第二版は、「教えやすさ」はそのままに、新しい内容の追加、改訂を行い(、さらに学びやすくした)。そして、第三版では、「学びやすさ」「教えやすさ」が、さらに改善できた…
初版では、「教えやすい」「学びやすい」教科書を目指していたものが、第三版では「学びやすさ」「教えやすさ」が改善された、というふうに、初版と第三版で、「教えやすさ」「学びやすさ」の順番が逆転しているのです。
つまり、『げんき』は、この第三版で、日本語学校(大学)の教科書から、日本語を家で独習するための自習書に、はっきりと舵を切ったのです。
その証拠はいくつかあります。
第二版の冒頭に、「本書について」という解説があります。日本語教師向け解説で、この教科書をどのように使うか、が書かれています。そして、まったく同じ内容が、「Introduction」というタイトルで英語でも書かれています。
ところが第三版には、同じ「Introduction」という解説がありますが、その内容は教師向けではなく、学習者向け。本書でどのように自習するとよいか、が書かれているのです。また、第二版にあった日本語版の「本書について」はなくなっています。
第三版では、音声CDが廃止され、音声は無料でダウンロードできるようになりました。教室で使うためにはCDやMP3にほうが使い勝手がいいはずですが、学習者にとってはスマホで聞けるダウンロード版のほうがありがたい。
テキストの電子版が用意されたのも、外国で印刷物の本が入手しにくい人たちへの配慮でしょう。
著者たちは、刊行当初、国内の日本語学校用に執筆し、第二版でもその狙いは変わりませんでしたが、結果は、以前の記事で紹介した通り、国内日本語学校での採択率は0.4%。『みんなの日本語』に惨敗しました。
ところが、国内外で「自習書」として評判になり、ベストセラーになった。
それで、第三版では「自習書」としての使いやすさをさらに高める改訂を行った、というわけです。
ところで、『げんき』第三版は2020年3月刊行ですが、ライバルの『みんなの日本語』は、 2012年に出た第二版が最新版で、第三版の改訂予定は今のところ発表されていません。
『みん日』の改訂は難しいのではないでしょうか。なぜなら、『みんなの日本語』には、「本冊」に対応した各言語版が13種類もあり、本冊を改訂すると、言語版も改訂しなければならず、それには大きなエネルギーと費用がかかるからです。
その点、『げんき』は本冊とワークブックの2種類(Ⅰ、Ⅱを合わせると4種類)しかありませんから、改訂も容易。語彙や表現が古くなれば、躊躇なく改訂できるはずです。
日本語学校の「教科書」としては、今後もしばらくは『みん日』の天下が続くでしょうが、(英語のできる学習者向けの)「自習書」としては、『げんき』がさらに売れ行きを伸ばしそうです。
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