家にあった東野圭吾の作品をランダムに『白夜行』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『宿命』、『夜明けの街で』と読み継いできて、作風や構成の多様さに目を瞠りました。
初期の作品から順番に読んだら、作風の変化がわかるだろうと思い、年末にブックオフで5冊ほどの代表作(主に文学賞受賞作品)を買ってきました。
『放課後』
略歴によれば、東野圭吾は高校2年生のとき(1974年)、小峰元『アルキメデスは手を汚さない』を読んで推理小説や松本清張の著作を読み漁り、在学中に推理小説を書き始めたそうです。処女作は『アンドロイドは警告する』(未刊行)。
1年浪人して、大阪府立大学工学部電気工学科に進学。卒業後1981年に日本電装株式会社(現デンソー)に技術者として入社。在職中の1983年から推理小説作家の登竜門である江戸川乱歩賞に挑戦しました。
第29回江戸川乱歩賞に『人形たちの家』で応募するも二次予選通過まで。1983年に結婚。1984年の第31回には『魔球』が最終候補に残りました。そして1985年、『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、翌年会社を退職します。
『放課後』は、最初に単行本として発刊された、東野圭吾のデビュー作です。
『放課後』の舞台は女子高。主人公は、技術系の会社から高校教師に転じた数学の先生。アーチェリー部の顧問をしています。
当時、奥さんが女子高の非常勤講師をしていたこと、東野圭吾自身が大学時代にアーチェリー部の主将を務めたこと、一時技術系の会社に奉職していたことが、舞台設定とかかわりがあるようです。
学校内で起こった連続殺人事件を教師が解決していくわけですが、事件そのものが解決した後も事件が続き、それが不倫がらみだという点は、後の『夜明けの街で』を思わせます。
かなり複雑な筋立てで、トリックも見事。江戸川乱歩省受賞も頷けます。
1985年の作品らしく、「ボイン」(乳房の大きなこと〔三省堂国語辞典〕)とか、「ナウい」などという言葉が出てきます。「ボイン」は三国によれば1967年から使われていた言葉で、第8版(2022年)からは削除されました。「ナウい」は1979年から流行した言葉で、第8版には残っていますが、次の改訂ではなくなりそうです。
『卒業』
東野圭吾が専業作家になって、第一作。1986年の単行本、89年の講談社文庫では『卒業―雪月花殺人ゲーム』という書名で、2009年の文庫新装版時に『卒業』と改題されました。
『卒業』の舞台は国立大学。同じ県立高校から進学してきた仲良し7人組の一人がアパートで死亡。自殺か他殺か、その犯人をめぐって仲間たちが推理をします。そして、その中の5人が参加した茶会で第二の殺人事件が発生します。
『放課後』と違って、舞台は大学。部活は「剣道」。茶会の事件では、最初の書名のサブタイトルにある「雪月花」がトリックとして重要な役割をします。「雪月花」というのは、裏千家の修練法のひとつだそうで、その手順は複雑です。
私は小学校3年生から高校時代まで剣道をしていたので、剣道の試合の駆け引きなどには親しみがありました。しかし、茶道はちんぷんかんぷん。一方、妻は小学生から高校まで茶道(細川三斎流)を習っていて、今も裏千家の茶道をやっているので、「雪月花」についてはくわしい。途中、「雪月花」について妻に説明を求めましたが、「実際にやらないとわからない」とすげない返事。トリックについてはよくわからないままでした。
主人公(仲間の一人)は、加賀恭一郎で剣道の大学チャンピオン。この作品では大学4年生ですが、「卒業」後、刑事になって、「加賀恭一郎シリーズ」が生まれることになります。
高校時代の仲良し組が大学で殺人事件、というと、村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を思い出します。ただ、『卒業』は1985年刊、『色彩…』は2013年刊ですから、影響関係はありえない。
『多崎つくる』―セクシュアル・マイノリティの物語①
この作品も、「終わったと思ったら続きがあった」という感じで、最後の最後に「真相」が明かされます。非常に緻密に構成された作品でした。
『白馬山荘殺人事件』
東野圭吾の書き下ろし長編第三作。単行本は、『卒業』と同じ1986年です。文庫版は1990年。
舞台は白馬にある洋風ペンション。そこで自殺した兄の死に不審を抱いた妹が、女友達といっしょに事件解明に乗り込みます。
探偵役が二人の女の子(大学3年生)というのが前2作とは違うパターン。
事件解明の手掛かりになるのが、ペンションの部屋ごとに掲げられているマザーグースの唄。
マザーグースの原文(英語)とともに、訳詞も載っていますが、訳者の一人は昨年亡くなった谷川俊太郎。
孤立した山荘内の事件で、犯人の候補は限られます。マザーグースの唄の内容を読み解きながら、事件の謎を解明していくプロセスは知的興奮を誘います。
本編の前に二つのプロローグ、後にもやはり二つのエピローグという凝った構成。
この作品もまた、犯人捜しとは別に、最後の最後に意外な種明かしがされます。
初期の3作品は、典型的な推理小説といった感じで、社会派小説的なところ、大河小説的なところは見られず、こぢんまりとした作品です。
このころの東野圭吾は「著作が増刷されずに終わることも珍しくないなど、なかなかヒットに恵まれず、また文学賞に15回も落選するなど、厳しい時代が続いた」(ウィキペディア)そうですね。
大ブレイクするのは、1998年に出た『秘密』(第52回日本推理作家協会賞受賞)以降とのこと。
『秘密』も買ってあるので、読むのが楽しみです。
第29回江戸川乱歩賞に『人形たちの家』で応募するも二次予選通過まで。1983年に結婚。1984年の第31回には『魔球』が最終候補に残りました。そして1985年、『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、翌年会社を退職します。
『放課後』は、最初に単行本として発刊された、東野圭吾のデビュー作です。
『放課後』の舞台は女子高。主人公は、技術系の会社から高校教師に転じた数学の先生。アーチェリー部の顧問をしています。
当時、奥さんが女子高の非常勤講師をしていたこと、東野圭吾自身が大学時代にアーチェリー部の主将を務めたこと、一時技術系の会社に奉職していたことが、舞台設定とかかわりがあるようです。
学校内で起こった連続殺人事件を教師が解決していくわけですが、事件そのものが解決した後も事件が続き、それが不倫がらみだという点は、後の『夜明けの街で』を思わせます。
かなり複雑な筋立てで、トリックも見事。江戸川乱歩省受賞も頷けます。
1985年の作品らしく、「ボイン」(乳房の大きなこと〔三省堂国語辞典〕)とか、「ナウい」などという言葉が出てきます。「ボイン」は三国によれば1967年から使われていた言葉で、第8版(2022年)からは削除されました。「ナウい」は1979年から流行した言葉で、第8版には残っていますが、次の改訂ではなくなりそうです。
『卒業』
東野圭吾が専業作家になって、第一作。1986年の単行本、89年の講談社文庫では『卒業―雪月花殺人ゲーム』という書名で、2009年の文庫新装版時に『卒業』と改題されました。
『卒業』の舞台は国立大学。同じ県立高校から進学してきた仲良し7人組の一人がアパートで死亡。自殺か他殺か、その犯人をめぐって仲間たちが推理をします。そして、その中の5人が参加した茶会で第二の殺人事件が発生します。
『放課後』と違って、舞台は大学。部活は「剣道」。茶会の事件では、最初の書名のサブタイトルにある「雪月花」がトリックとして重要な役割をします。「雪月花」というのは、裏千家の修練法のひとつだそうで、その手順は複雑です。
私は小学校3年生から高校時代まで剣道をしていたので、剣道の試合の駆け引きなどには親しみがありました。しかし、茶道はちんぷんかんぷん。一方、妻は小学生から高校まで茶道(細川三斎流)を習っていて、今も裏千家の茶道をやっているので、「雪月花」についてはくわしい。途中、「雪月花」について妻に説明を求めましたが、「実際にやらないとわからない」とすげない返事。トリックについてはよくわからないままでした。
主人公(仲間の一人)は、加賀恭一郎で剣道の大学チャンピオン。この作品では大学4年生ですが、「卒業」後、刑事になって、「加賀恭一郎シリーズ」が生まれることになります。
高校時代の仲良し組が大学で殺人事件、というと、村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を思い出します。ただ、『卒業』は1985年刊、『色彩…』は2013年刊ですから、影響関係はありえない。
『多崎つくる』―セクシュアル・マイノリティの物語①
この作品も、「終わったと思ったら続きがあった」という感じで、最後の最後に「真相」が明かされます。非常に緻密に構成された作品でした。
『白馬山荘殺人事件』
東野圭吾の書き下ろし長編第三作。単行本は、『卒業』と同じ1986年です。文庫版は1990年。
舞台は白馬にある洋風ペンション。そこで自殺した兄の死に不審を抱いた妹が、女友達といっしょに事件解明に乗り込みます。
探偵役が二人の女の子(大学3年生)というのが前2作とは違うパターン。
事件解明の手掛かりになるのが、ペンションの部屋ごとに掲げられているマザーグースの唄。
マザーグースの原文(英語)とともに、訳詞も載っていますが、訳者の一人は昨年亡くなった谷川俊太郎。
孤立した山荘内の事件で、犯人の候補は限られます。マザーグースの唄の内容を読み解きながら、事件の謎を解明していくプロセスは知的興奮を誘います。
本編の前に二つのプロローグ、後にもやはり二つのエピローグという凝った構成。
この作品もまた、犯人捜しとは別に、最後の最後に意外な種明かしがされます。
初期の3作品は、典型的な推理小説といった感じで、社会派小説的なところ、大河小説的なところは見られず、こぢんまりとした作品です。
このころの東野圭吾は「著作が増刷されずに終わることも珍しくないなど、なかなかヒットに恵まれず、また文学賞に15回も落選するなど、厳しい時代が続いた」(ウィキペディア)そうですね。
大ブレイクするのは、1998年に出た『秘密』(第52回日本推理作家協会賞受賞)以降とのこと。
『秘密』も買ってあるので、読むのが楽しみです。
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