犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ロシア語は難しい言語か?

2020-10-04 23:09:58 | 言葉
 当ブログで、コンスタントにアクセスの多い記事に、「日本人にとって易しい言語、難しい言語」(リンク)があります。

 これは、日本人にとって、韓国語が英語に比べていかに易しいか、学びやすいかを分析したものです。

 ところで、この記事のもとなった表がこちら。


 世界の代表的な言語が、日本人と米国人にとって、それぞれ難しいか易しいかを表したものです。表中、青文字はインド・ヨーロッパ語(以下、印欧語)。

 日本人にとって易しい言語の中に印欧語は1つもありません。逆に、米国人にとって易しい6言語のうち5つが印欧語です。

 また、日本人にとって大変難しい5言語のうち4つが印欧語。ヒンディ語、ウルドゥ語、ロシア語、英語です。

 母語と同系かどうかは、学習難易度に大きく影響するようです。

 ヒンディ語、ウルドゥ語のことはよく知らないので、今回はロシア語がなぜ日本人にとって大変難しいとされるのか、について考えてみたいと思います。

 ロシア語に特徴的なのは、まず文字でしょう。

 ロシア語で使われるキリル文字は、10世紀ごろにスラブ語を書き表すために発明され、18世紀に改良された、ロシア語固有の文字です。

 ラテン文字(英語のアルファベット、ローマ字)と形が同じもの、鏡文字のようになっているもの、独自のものなど、33文字あって、ラテン文字(26文字)より多い。形が同じものの中には、音も同じ字がある一方、形は同じだが音はまったく違うものもあるので、ややこしい。

 ただ、文字が多ければそれだけ難しいかというとそうではない。英語のアルファベットは、もともとラテン語を表記するためのローマ字を、英語表記用に借用したものです。英語には音素が豊富なのに文字がたった26字しかないため、一つの文字が複数の音価を持っていたり、2字で1音を表したりします。また、歴史的経緯もあって、綴りと発音の関係が不規則なものが多い。

 一方、キリル文字は、ロシア語(スラブ語)を表すために作られただけあって、ロシア語の音素を過不足なく表すことができます。また、綴りと発音の関係はたいへん規則的なので、文字とその音価をおぼえれば、初見の単語でもほぼ正確に発音がわかります。

 次に、文法はどうでしょうか。

 まず、名詞にはがあります。これが英語にない特徴です。フランス語にも、男性名詞、女性名詞がありますが、ロシア語はさらに中性名詞もあります(ドイツ語と同じ)。名詞の複数形は、名詞の性によって作り方が変わるので、複雑です。そして、名詞を修飾する形容詞も、修飾される名詞の性・数に応じて変化します。

 名詞の性が、フランス語よりも1つ多いから難しいかというと、必ずしもそうではない。フランス語は、名詞ごとに男性か女性かを覚えなければならないのですが、ロシア語の場合、名詞の語尾を見れば、ほとんど性を区別できます。

 また、ロシア語に「冠詞」がないのが嬉しい。定冠詞(the、le)と不定冠詞(a、un)の使い分けは、英語やフランス語を学習するときの難関の一つです。

 次に動詞

 動詞が人称と数によって6種類に変化するのは、フランス語と同じ。英語のbe動詞は人称・数によって変化しますが、一般動詞ではほぼ変化が失われ、三単現(三人称・単数・現在)のsに痕跡を残すのみ。ロシア語はすべての動詞が6種類に変化します。

 一方、過去形は、人称ではなく、主語の性によって3種類に変化するというのが、とても珍しく感じました。まだ学習が途中なのでなんともいえませんが、複合過去、半過去、単純過去など、多様な時制でそれぞれ異なる人称変化をするフランス語より、動詞の活用は易しいかもしれません。

 最後に格変化

 日本語は、格(文中での語の役割)を、助詞で表現します。たとえば主格は「が」、目的格(対格)は「を」、所有格(生格)は「の」、与格は「に」などです。英語やフランス語は、これを主に語順(主格・目的格)や前置詞(所有格、of)で表します。「格変化」は人称代名詞に痕跡をとどめるのみです(I、my、meなど)。ドイツ語は、これを冠詞の変化で表します。

 一方、ロシア語は、名詞の語尾変化によって、これを表します。格変化の種類は、ドイツ語の4つより多く、6つ。名詞の性によって変化のしかたが変わるので、覚えるのが大変です。

 日本人にとっては、これが最難関かもしれません。

 ロシア語、英語を含む印欧語は「屈折語」に分類されます。ロシア語は、豊富な語形変化があるので、もっとも屈折語らしい屈折語と言えるでしょう。一方、英語は歴史の中で、屈折語の特徴がほとんど消失しており、「孤立語」に近いと言えます。

 以上、見てきた通り、ロシア語は文字が独特であること、名詞に性があり、形容詞が性・数変化すること、人称変化が複雑であること、格変化が複雑であることなど、英語に比べると変化が豊富で、難しい言語、という印象を受けるでしょう。

 一方、冠詞がないこと、綴りと発音の関係が規則的であること、be動詞をほとんど使わないこと(名詞文、形容詞文は、単語を並べるだけ)、格変化が発達しているため語順や語の省略が比較的自由であることなど、英語よりも学びやすい部分もあります。

 冒頭の表は、日本人と米国人で、言語の学びやすさが違うことを示しています。この前提には、外国語の難易度は、学習者の母語によって変わるという考え方があります。

 この考えを一歩進めれば、「外国語の難易度は、学習者の母語と、学習者がそれまでに学んできた外国語の数・種類によって変わる」とも言えそうです。

 私が大学で、英語、フランス語に続く3番目の外国語としてロシア語を学んだとき、「大変難しい言語」だと感じました。

 そして、その後、業務の必要から韓国語、ドイツ語、タイ語、インドネシア語を、趣味でミャンマー語とフィリピノ語(タガログ語)を学んだあと、あらためてロシア語を学び直してみると、その印象は大きく変わりました。

 「独特な文字」は、韓国語、タイ語、ミャンマー語で経験済み。タイ文字、ミャンマー文字に比べれば、キリル文字はむしろ易しいと思います。特に、タイ語とミャンマー語は声調言語であり、綴りと発音・声調の間の規則が恐ろしく複雑です。

 名詞の性・数、動詞の人称変化は、フランス語にあって、それがちょっと複雑になった程度。格変化はドイツ語にある概念です。

 ロシア語は印欧語で、ヨーロッパの諸言語と同系であるという理由で、もしくは借用によって、英語、フランス語、ドイツ語と似た単語も多い。これは、単語を覚えるときに記憶の負担を軽減してくれます。

 私にとって、最大の問題は年齢ですね。

 ロシア語を初めて学んだのは19歳。若かったので記憶力もよかった。ところが、今回の学び直しは59歳。覚えてもすぐ忘れるので、記憶を維持するためには反復学習が必要です。

 ま、これがボケ防止になるかもしれませんが。

 とりあえず、『ニューエクスプレスプラス ロシア語』を一冊やり切ることを目標に頑張ります。
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2 コメント

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翻訳ソフト (犬鍋)
2020-11-01 15:49:33
コメントありがとうございます。

翻訳ソフトの進歩は目覚ましいですね。ただ、韓国語→日本語に関していうと、最近のソフトは、「意訳」をしてくれようとしているために、かえって原文の意味から離れるケースがみられます。

昔のような「直訳」型のほうが、ぼくにとってはありがたいです。
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難易度 (スンドゥブ)
2020-10-25 11:51:45
こんにちは。
ウルドゥとヒンディは主語、目的語、動詞の順なのでこれは日本人には親しみやすいと思います。
アラビア文字は難しそうに見えますが、それは筆記体しかないからです。慣れれば、一つ一つの文字の識別はできるようになります。
翻訳ソフトの精度が高くなってきているので、そのうち勉強しなくても不自由しなくなるかもしれません。
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